第六百三十一話:魔法の力
キャラは青髪の剣士を選んだ。
このキャラは剣を持っているのだが、先端ほど威力が上がるという仕様を持っている。
全部先端で攻撃を当てればダメージが低いうちから撃墜を狙えるほど強いキャラではあるが、当然そんな先端ばかり当てられるはずもないので実戦ではそこまで強くはない。
それに、似たような動きをする女剣士は先端で威力が上がるという仕様がない代わりにどの距離でも安定した火力を出せることから、そちらの方が無難に強いということであまり使われないキャラとなってしまっている。
まあ、これは私が生きていた頃の話なので、今はどう変わっているかはわからないが、仕様に関してはそう変わっていないだろう。
だが、私はあえてこのキャラを選んだ。
別に、私は元々このキャラの使い手だったというわけではない。けれど、当てさえすれば強力と言うのならなんとかできる自信があった。
それを今、実践する。
「今度は一騎打ちになったね」
「そうだね」
四人中他の二人は早々に撃墜され、私と一夜の一騎打ちとなった。
残機は同じ、ダメージはこちらの方が若干多い程度。まあ、ほぼ互角と言っていいだろう。
さっきの状態であれば、このまま私がフルボッコにされて負けるだろうが、今回はそうはいかない。
なぜなら、私には魔法と言う切り札があるのだから。
「え、ちょ、当たんないんだけど……」
私は攻撃をよけながら、愚直に先端を擦り続ける。
攻撃をフレーム単位で見ることができるのなら避けるのはたやすい。
やり込んでいただけあって手の動きもそこそこついてこれたから、後は隙を見て斬り付けていくだけだ。
先端は威力が高いだけあって、吹っ飛ばし力も高い。だから、いわゆる吹っ飛ばす技でなくてもかなり飛ばすことができる。
しばらくすれば、一夜は残機を一つ失っていた。
(コメント)
・え、いや、うま
・アカリちゃんが押されてる、だと!?
・さっきから全部先端じゃん。操作精度どうなってんだ
・え、これさっきまで慣れない感じでプレイしてた人と同一人物ですか?
コメント欄の驚きの声をしり目に、私は攻撃を繰り返す。
流石に、一夜もかなりうまいだけあって反撃を何度か食らうことはあったが、それでも私のほうが操作精度が上だった。
結局、私は残機を二機残した状態で勝ちを飾ることになった。
「ちょ、ちょっと待って! なんでいきなりそんなにうまくなってるの!?」
「さあ、なんででしょう?」
「も、もしかして魔法? 何かやったでしょ!」
「どうでしょうねー」
がくがくと体を揺らされながらも白を切る。
まあ、実際には目に身体強化魔法をかけることで反射神経を上げただけだけどね。
こんなことに無駄な魔力を使うなって?
まあまあ、そんなに心配しなくても、身体強化魔法はもはや生活の一部とも言っていいくらいの精度を誇っている。
以前は一日使えば空っぽになっていた魔力も、今では効率化も果たしたから一日どころか一か月使っても魔力が底を尽きることはないだろう。
だから、この程度使ったうちに入らない。何の問題もないのだ。
まあ、ちょっとずるかもしれないけどね。
(コメント)
・アカリちゃん必死すぎ
・妖精だもの、魔法くらい使うさ
・でも実際どうやったんだろうな? 明らかに別人レベルでうまくなってたけど
・ほんとに別人が操作してる説
・ありえるな
・いや、息遣いは二人分しか聞こえてなかったからあの場には二人しかいないと思うぞ
・息遣いで人数わかるとか忍者か何か?
まあ、素人レベルだったのがいきなりうまくなったのだから、別人操作を疑うのが当然か。
息遣いで人数を絞り込むとか、あちらの世界でも戦闘の心得がある人でも出来ない人もいるというのに、意外と優秀な人もいるようだ。
まあ、別の部屋でプレイしてるとか色々抜け道はあるから別人説が消えたわけではないだろうけど。
私としては別にどっちでもいい。コメントで別人と思われようが、一夜には伝わってるわけだし。
「えぇ、なんかいやな予感するけど、とりあえず続けようか。次の人入ってきてー」
気を取り直し、三戦目へと移行する。
この時、私はある程度勝ったところで身体強化魔法を切るつもりでいた。
元々、慣れない動きだったのは久しぶりだったからだし、ある程度慣れれば動きも思い出せてきて身体強化魔法に頼らなくてもそこそこいい勝負ができると思っていたからだ。
あんまり勝ちすぎて一夜に拗ねられても困るしね。
しかし、それで三試合ほどした時に、こんなコメントが来た。
(コメント)
・(クラクラ)本気で戦ったのに勝てなかったんだが
・おい、クラクラって全一やぞ
・全一って何?
・大会の優勝者とか、とにかくそのゲームでめっちゃ強い人の事
・全一ですら勝てないってハクちゃん何者?
どうやら、大会の優勝者に勝ってしまったらしい。
確かに、言われてみれば他の人に比べて動きもよかったように思える。
身体強化魔法でフレーム単位で動きが見えるとはいえ、まさかそんなレベルで通用するとは思ってなかった。
やっぱりこれ反則だね。あんまり使うのは止めといた方がいいかもしれない。
「お姉ちゃん、目が疲れてきちゃった」
「あ、うん、そうだね。そろそろいい時間だし、次の試合で最後にしよっか」
最後の試合は身体強化魔法を解き、素の状態で戦った。
だいぶ慣れてきたおかげもあって、最初よりはいい勝負ができたが、やはり一夜の方が一枚上手のようで、最後は一夜の一人勝ちとなった。
「みんな、今日はありがとう。また今回みたいな企画があったら参加してくれると嬉しいな」
(コメント)
・お疲れ
・お疲れ様
・珍しくアカリちゃんが負けまくるところを見た
・ハクちゃんは今後も登場しますか?
「ああ、どうだろう。はっちゃん、今後も配信に出る?」
「いや、迷惑じゃ? 私は別にヴァーチャライバーと言うわけでもないし」
「そっかー、まあ、そうだよね。そういうわけだから、今後はあまり出ないかな」
(コメント)
・いっそハクちゃんもライバーデビューしよ
・姉妹配信とかよくない?
・ハクちゃんがどの程度アカリちゃんのところにいられるかによるが
・事務所に聞いてみたら?
「なるほど、その手があったか」
「お、お姉ちゃん?」
「うん、後で相談してみるね。みんな、今後のはっちゃんの登場に期待しててね!」
(コメント)
・待ってる
・姉妹百合が見られると聞いて
・なかなか濃い設定を持ってるみたいだし、デビューしたら人気でそう
・デビューしたらファンになります
・コラボとか期待したい
「じゃあ、今回はここまで。皆きてくれてありがとうね。では、おやすみなさい、いい夢を」
そう言って、配信は終了した。
突発的に出ることになったけど、なかなか面白かったな。
特に、身体強化魔法はゲームでも活かせるということがわかって何よりだ。
まあ、出来れば実力だけで勝ちたいけどね。
「はっちゃん……じゃなくてハク兄、わかってると思うけど」
「えっと、ホントにデビューさせる気?」
「もちろん! 今日はもう遅いけど、明日になったらさっそくマネージャーに聞いてみるからね」
どうやら私はヴァーチャライバーデビューさせられるらしい。
そんなことより、私は元の世界に帰る方法を探さなければならないんだけど……。
いやでも、いつまでも妹の脛をかじって生活するわけにはいかないし、収入源と言う意味ではありなのかな?
どうせ私はこの世界ではまともな職には付けないし、手助けをしてくれるというのならいいのかもしれない。
「はぁ、わかったよ。うまくできるかわからないけど、やってみる」
「そう来なくっちゃ」
さて、そんなうまく事が運ぶものかね。
私は小さくため息を吐いた。
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