第四百九十話:エルを迎えに行く
第十四章開始です。
あれからお父さんに報告と事後処理を任せ、私は王都へと帰還した。
本当なら、聖教勇者連盟の復興を見届けたり、エルの調整が済むまでいた方がよかったのかもしれないけど、ちょうどやりたいことがあったので一足早く帰還させてもらっていたのだ。
まあ、私は聖教勇者連盟に罪人扱いで檻に入れられて攫われて行ったわけだし、多くの人に心配をかけていたから早く顔を見せて安心させたかったというのもある。特に、お兄ちゃんなんかはその気持ちが強すぎて私の事を追いかけてきてたみたいだからね。
絶対に帰ってくるとは言っていたけど、それでも心配なことに変わりはないだろう。私だって、お兄ちゃんが私と同じように攫われてしまったなら助けに行くだろうし。
でも、少し遅れたとはいえこうしてちゃんと帰ってきたし、王様を始め、学園の友達やギルドの冒険者達にも挨拶をしたから私がしっかり帰ってきたことは周知されたことだろう。
だからそろそろ、迎えに行こうと思う。そう思って、私はお兄ちゃん達に一言断ってから再び聖教勇者連盟の本拠地であるセフィリア聖教国へと転移した。
「さて、と。復興は大体終わったかな?」
セフィリア聖教国の遥か上空へと出現し、下にある街並みを見下ろす。
元々、竜達が攻撃したのは聖教勇者連盟の本部である聖庭のみで、町には一切の被害を出していなかった。襲撃したのも夜というだけあって、多くの住人は朝起きたらいつの間にか聖教勇者連盟が壊滅していた、と言う寝耳に水の状況になったことだろう。
だから、直接的な被害は聖庭の建物と数名の上位神官、幹部のみであり、復興にそこまでの時間を要することはないと思われた。
実際、見下ろしてみてみると、破壊された建物のほとんどはきちんと修復されており、ほぼ元通りとなっている。
カムイからの連絡でも、おおよそ復興は済んだという報告が入っていたので、勇者である神代さんを始め、協力者である転生者達がうまく立ち回ってくれたのだろう。
エルを迎えに行ったら神代さんにも挨拶していこうかな。カムイやシンシアさん達にも会いたいし。
「えっと、エルがいた場所は……」
私は記憶を頼りにエルが竜脈の調整を行っている地点へと向かう。と言っても、城の地下なので意識しなくてもすぐにわかるが。
町にある竜脈は基本的に城のような重要施設や町の中心の真下にあることが多い。人に竜脈を正確に感知する能力はないが、竜脈がある場所は必然的に豊かになりやすいので、どこに町を作ったら都合がいいかを把握しているんだろう。
まあ、聖教勇者連盟はそんな竜脈をぶっ壊そうとしていた愚か者だったわけだが。無知って怖い。
城と言うだけあって、警備は厳重なのかと思いきや、今やこの城はもぬけの殻になっている。と言うのも、教皇を始め、幹部である大臣達は皆、襲撃の日を境に姿を消してしまっていたからだ。
エルが行った時にはすでにいなかったようだから、恐らく先んじて逃げ出したのだろう。大量の竜を目の当たりにして恐れをなしたのかもしれない。
いなくなってくれる分には別にいいのだが、おかげで処分が出来なくて困っている。
なにせ、あいつらは勇者召喚の魔法陣を知っている可能性が高いからね。せっかくここで食い止めたのに、また勇者召喚して竜脈をめちゃくちゃにされたらたまったものではない。
だから、神代さんにもできれば探しておいて欲しいと頼んでおいたのだけど、見つけられたかな。
まあ、それは後で聞けばいいだろう。今はエルを迎えに行かなくては。
「ここを降りた先だったよね」
暗い階段を光球で照らしながら降りていく、いくつかある扉のうち一つを開けると、そこには数か月ぶりに見るエルの後姿があった。
「……」
エルはまだこちらに気が付いていないようだ。恐らく、まだ調整に集中しているのだろう。
竜脈の調整は一度だけやったことがあるけれど、あれは相当に精神を使う作業だ。と言うか、下手をすれば意識を持っていかれて植物人間のようになってしまう。
私が調整したのは比較的安定していた場所だったけど、今回調整しているのは勇者召喚によってめちゃくちゃになった太い竜脈。当然、私がやったものとは比べ物にならないくらい難易度が高いに違いない。
応急手当だけでもこれだけの時間がかかるのだから、その苦労は計り知れないだろう。
もうとっくに終わっているかなと暢気に構えていたが、少し舐めていたかもしれない。
ひとまず、調整が終わるまでそっとしておいた方がいいだろう。調整中に話しかけて、集中力を乱してしまってはいけない。
そう思って一度出直そうと部屋を後にしようとした時、不意にエルが顔を上げた。
「……ふぅ、これで少しは持ちますか」
深い息を吐き、ぐりぐりと肩を回して疲れを取っている様子。
どうやら調整は終わったらしい。何ともタイミングのいいことだ。
「エル、お疲れ様」
「おや、ハクお嬢様、いらしていたんですね」
「竜脈の調整はできた?」
「はい。応急処置ではありますが、無理に竜脈の魔力を引き出そうとしなければ大丈夫でしょう。ただ、安定しているとは言いがたいので今後も定期的に調整は必要になるでしょうが」
「それはよかった」
エルは額の汗を拭うような動作をしながら報告してくれる。
勇者召喚によって広げられた傷はかなり大きいらしい。まあ、勇者召喚は記録によれば700年前から行われていたことらしいし、ここまでよく持ったというべきだろう。
魔王と呼ばれる強い魔物も人族の周りにはそれほど出現していない今、わざわざ勇者を常駐させる意味も薄いだろうに。単純に、勇者と言う肩書を持った人が欲しかっただけのようにしか思えない。
そもそも勇者召喚は異世界からの拉致だし、破壊されて正解だ。
「もう離れても大丈夫?」
「はい。今回は緊急事態のために私が対処しましたが、今後のここの管理はこの大陸の担当であるホムラに任せておけばよろしいでしょう。またハクお嬢様のおそばにいられますよ」
「そっか」
なんだかんだで、エルがいない日々は少し寂しかった。
勇者にエルを殺された時のような喪失感こそなかったが、すでにエルは私の生活の一部となってしまっている。
元々私はエルを迎えに来たが、エルの調整が終わってなければまだまだ離れ離れの期間は増えていただろうし、こうして無事に調整を終えてくれて本当によかった。
「ありがとう、エル。これからもよろしくね」
「はい、もちろんです」
さて、エルは無事に回収することはできたし、神代さんのところに行こうか。
私はエルを伴って城を後にする。
「そういえば、エルはここ数か月何があったかは把握しているの?」
「いえ、竜脈の調整に集中していたのでそこまで詳しくは知りません。たまに食事のために町に出ていたくらいですから」
「まあ、そりゃそうか」
私も一応カムイから定期的に連絡は貰っていたけど、大まかなものだけなのでどういう変化があったかはあまりよくわかっていない。
わかっているのは、復興がおおよそ済んだことと、転生者の扱いに困っているということくらいだ。
この、転生者の扱いに困っているというのがどういう意味かは知らないが、苦労しているようだ。
出来ることなら、その辺りも相談に乗ってあげた方がいいかもね。
「それじゃ、神代さん達に会いに行こうか」
「カミシロ、とは?」
「あ、そっか。エルは知らないのか」
エルは勇者召喚の場に立ち会ってはいたが、すぐに竜脈の調整に駆り出されてしまったので神代さんとは一言も話していないのか。
なら、道中それらの話を聞かせるのもいいだろう。
私はエルに神代さんの事を伝えながら、聖庭への道を歩いていった。
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