第四百八十九話:エキシビションマッチ、VSアリシア3
「私のターン」
引いたカードは……これは、どうしようか。
盤面を確認する。相手の場にはリヒティが二体と罠が一枚。どちらも攻撃力3000なので突破するにはそれなりに工夫が必要。ライフはまだ六割ほど残っていて、このターンで削りきるには相当な無茶をしなければならない。
ただ、アリシアのデッキは残り数枚。【ホーリーナイト】は共通でターン終了時にデッキのカードを冥界送りにする能力を持っているから、次のターンさえ凌げればデッキ切れでの勝利が狙える。
『サモナーズウォー』のルール上、デッキからカードを引けなくなったサモナーは負けとなる。これが【ホーリーナイト】の一つの弱点であり、長期戦に向かないという点だ。
そして、次のターンさえ凌げれば勝てるという条件だけど、多分達成できる。
なぜなら、私の手札の一枚に、リヒティの破壊にも対抗でき、且つ次のターンダメージを受けないようにすることができるカードがあるから。
私はただ、この罠を仕掛けてターンを終了するだけでほぼ勝ちが決まる。
だけど、本当にそれでいいんだろうか?
確かに、デッキ切れ勝利も一つの戦略だ。【ホーリーナイト】はそのリスクを抱えながらも自らのデッキを削り、速攻を仕掛けていくデッキなのだから、それを利用して勝ったところで別に誰かに何か言われるということはないだろう。アリシアも悔しがりはするかもしれないが、卑怯とは言わないはずだ。
だけど、出来ることならきちんとライフを削りきって勝ちたいという気持ちがある。
もちろん、それは結構な無茶をしなければならない。が、一応今引いたカードを使えばできなくもない。
ただ、懸念となるのは仕掛けられた罠。アリシアのこれまでの傾向から言って、あの罠は攻撃反応系、もしくは特殊能力妨害系である可能性が高い。
私があの二体を処理するには召喚獣の特殊能力を使わなければならないわけだけど、それを妨害された時点で負けが確定するし、攻撃反応系の場合でも私のライフは残り三割ほど、復活系のカードが一枚でもあれば普通に負けの目がある。
そんな危険な橋を渡るくらいなら最初に考えた案の方が楽だし安全だ。
安全策を取るか、勝負に出るか、どちらを取るべきなのか……。
「……」
私はアリシアの顔を見る。その目は真剣そのものだった。
私との勝負に全力で挑んでくれている。絶対に勝つという決意と共に、負けたとしても悔いはないって気概が窺える。
それは私も同じ気持ちだ。この勝負を全力で楽しんでいる。
であれば、答えは決まっているだろう。私は罠にかけていた手を離し、先程引いたカードに手を伸ばした。
「私は支援魔法【古の魔法陣】を発動。冥界にいる特殊能力を持たない召喚獣を復活させる。これにより、【ブリリアントドラゴン】を復活。さらに、速攻支援魔法【竜の目覚め】を発動。冥界から分類がドラゴンの召喚獣が復活したターン、冥界にいるドラゴン一体を復活させることができる。これで【ドラグーン・スペリオル】を復活。さらに、さっきと同じコンボで【ドラグーン・アーハン】、【ドラグーン・アハト】を復活させるよ」
これで場に【ブリリアントドラゴン】、スペリオル、アーハン、アハトの四体が並ぶことになる。
だが、これらの召喚獣だけではリヒティの攻撃力には及ばない。だけど、ここで前のターンにコウライでアハトを冥界送りにしていたことが生きてくる。
「アハトの特殊能力を発動。このカードが場に出た時、デッキから【ドラグーン・ナハト】を手札に加える。そしてナハトを召喚し、特殊能力を発動。場のアハトの攻撃力を1000下げることで、場のカードを一枚破壊する。これによって、アハトの攻撃力を合計2000下げ、リヒティ二体を破壊する」
「復活系はないと思っていたけど、引かれちゃったっぽいわね」
ここまで通った。後は攻撃するだけだけど、あの罠が攻撃反応系だったら、この方法での勝ちはなくなる。
いや、ここまで通ったならさっきの罠を使えば一応勝てはするかもしれないけど、それは私の好きな勝ち方じゃない。
ここまで来たなら、通ってくれよ……。
「ナハトから攻撃」
「通りますわ」
「では、続けてアーハンで攻撃」
「それも通ります」
後一体、スペリオルの攻撃が通れば勝ちだ。だけど、まだ油断はできない。【攻撃反射の結界】の他にも単体を対象にした罠と言うものも存在する。一番攻撃力の高いスペリオルに残している可能性も否定できない。
運命の一瞬、私は恐る恐るスペリオルの攻撃を宣言した。
「……スペリオルで攻撃。通りますか?」
「……通りますわ。ハク、あなたの勝ちです」
アリシアはそう言って仕掛けていた罠を表向きにした。
それは罠ではなく、支援魔法の一枚である【ウィンドアロー】と言うカードだった。
【ウィンドアロー】は、速攻支援魔法の一つである。速攻支援魔法と言うのは、基本的に自分のターンにしか使えない支援魔法を相手のターンでも使用できるようにしたもので、その場合は罠のように場に仕掛けて、タイミングを見て発動させることができるというものだ。
今回仕掛けられていた【ウィンドアロー】の能力は、相手の罠を一枚破壊すると言うもの。
【ウィンドカッター】と似たような能力ではあるが、こちらは速攻支援魔法なので相手のターンでも使えるのが強み。
罠は基本的に仕掛けられたターンには発動できないので、仕掛けたターンのうちに破壊してしまえば、安全に処理することができるのだ。
仕掛けられていたのが【ウィンドアロー】だったということは、私が最初に思いついた方法を試していたら、仕掛けた罠を破壊され、そのまま殴り倒されるところだった。
強気に攻めて正解だったということだ。私の選択は正しかったわけだね。
「そこまで。勝者ハク!」
ジャッジが試合終了を宣言したので、私も手札を場に投げだす。無意識の行動だったけど、その手札はアリシアの目にばっちり映ったようだ。
「逃げ切りも選択肢にあったのに、わざわざ攻撃したのね」
「まあ、ね。アリシアには、きちんとした勝ち方をしたかったから」
あの場面で罠が仕掛けられていたら、普通は妨害系の罠を連想する。それがまさか、ただの罠を破壊するカードだなんて予想しない。
一応、ああいう罠の仕掛け方はよくあることではあるけど、ほとんどはゲーム序盤に起こる現象なので気にも留めないことが多い。影響が軽微だからね。
アリシアも、あの場面では攻撃ではなく耐えきりを考えたということなのだろう。私の選択に少し驚いたようだ。
「ふふ、ありがとうね、ハク。いい交戦だったわ」
「こちらこそ。いい交戦だったよ」
お互いに握手を交わし、健闘を称え合う。
間違いなく、今までの勝負の中で一番いい勝負ができたと実感できた。
落ち着いてくると、周囲の歓声が聞こえてくる。今回の勝負は、観客にとっても大いに盛り上がるものだっただろう。
「いい試合をありがとうございました! これにてエキシビションマッチは終了です。これより順位発表に入りたいと思います」
テトが場を収め、大会は終わりへと向かっていく。
随分と前から計画していたこの大会。一時は私が攫われたことでなくなりかけたけど、こうして無事に開催できて本当によかった。
問題を起こしてしまったという問題点は残るけど、それは次に生かしていけばいい話である。
観客の、そして参加者達の夢が詰まった『サモナーズウォー』。次回は、きちんと決勝でアリシアと戦ってみたいものだ。
感想ありがとうございます。
これで第十三.五章は終了です。番外編のようなものなので、幕間は挟まず、第十四章に続きます。




