第四百八十六話:本当の決勝戦
リバルはお姉ちゃん達が捕まえた生徒達もろとも到着した騎士団によって連れていかれた。
リバルはなおも自分は悪くないと言い繕っていたけど、他の生徒達は完全に諦めムードであり、ぺらぺらと自供してくれたのでリバルの罪も明らかになり、最終的にはあまりにも喚くので気絶させられて連行させられることになった。
カードも押収されてしまったけど、生徒達がそれは盗んだカードだと証明してくれているので、じきに持ち主の下に返されるだろう。
これで、この大会を巻き込んで起こったリバルの暴走は幕を下ろしたことになる。
準決勝でアリシアが棄権させられたり、決勝であんな稚拙な勝負を繰り広げてしまったなど、観客をがっかりさせてしまうようなことが立て続けに起こってしまったのが少し残念だ。
今度からはきちんと飲食の制限もしておいた方がいいかもしれない。それと、出来れば警備員を増やしておきたいところだ。
今回の件で大会に忌避感を覚えて離れていく人がいなければいいのだけど。
「ハク」
うるさいのがいなくなって多少静かになった会場内。先程まで対戦をしていた机を眺めながら考え事をしていると、アリシアが話しかけてきた。
「ハク、ありがとな。俺を助けてくれて……」
「当たり前でしょう。アリシアは親友なのだから。それより、もっと早くに気付いてあげられなくてごめん」
「いや、俺も迂闊だった。まさかゲームの大会くらいで薬盛ってまで勝ちに行く奴がいるとは思わなかったしな」
この大会は『サモナーズウォー』が発売されてから初めて開催された第一回大会である。
『サモナーズウォー』の熱は確かに相当なものだが、それは主に学園での話であり、その他では貴族の子や余裕のある商人の子、あるいはその親などごく一部の話でしかない。
闘技大会のような国が公認しているような大々的な大会なら優勝すれば名誉も貰えるし、少しばかり卑怯な手を使って勝ちに行くメリットもなくはないが、一企業が宣伝と活性化のために行うようなマイナー大会でそんなことをしてもデメリットの方が大きいに決まっている。
だから、この大会に薬まで持ち込んで勝とうという奴がいるなどとは思わなかったのだ。
まあ、今回は大会に勝ちたいというよりは、アリシア個人を狙った犯行だったわけだけどね。
「次からは持ち物検査とか実施した方がいいかもね。警備を雇うお金を捻出するのが大変そうだけど」
「だな。まあ、その辺は今の売れ行きなら問題はないだろ。この大会によって『サモナーズウォー』を知ってくれる人も増えるだろうし、より収入は増えるだろうしな」
今回の大会では参加者のほとんどは学園の生徒だったが、それ以外の参加者もそれなりにいた。中には、本選に出場していた人もいたくらいだ。
カードゲームは子供の娯楽というイメージがあるが、大人でも十分楽しめるくらいよくできたゲームと言うことだろう。
彼らのような人達が布教してくれれば、『サモナーズウォー』はより勢力を拡大していくことになる。
隣の大陸から伝わっているというトランプなんかよりもよっぽど親しみのあるゲームとしてみんなに知られていくかもしれない。
そうなったら、私も少しだけ嬉しいかな。
「ところでアリシア、口調には気づいてる?」
「口調? ……あ、やべっ。ん、コホン……き、聞かれちゃったかしら?」
「まあ、一応対策はしたけど、ジャッジには絶対に聞かれたかな」
「マジかぁ……私のイメージが崩れる……」
がっくりと肩を落とすアリシア。まあ、頭に血が上っていただろうし、気づかなかったのも無理はない。
だがまあ、観客に関しては問題ないだろう。アリシアの暴言は確かに印象的だが、それ以上にゲームの大会如きで貴族が検挙されたことの方が衝撃的だろうし、普段からあまり騎士団を見慣れない人達からしたらそっちの方が珍しいことだろう。アリシアの口調のことなど、すぐに忘れられると思う。
問題はあのジャッジだな。あの時はテトに連絡に行かせてうやむやにしたけど、さっきからチラチラとこちらを見ているし、絶対に覚えている。
後でそれとなく口止めとかはしておいた方がいいかもね。
「気になってたんだけど、アリシアっていつもはお嬢様っぽい口調だけど、いつからそうなの? 初めから?」
「いえ、子供の頃に両親に矯正されたわ。淑女がそんな口調ではいけませんって」
「まあ、そっか」
これでアリシアが精神まで女性化しているって言うならともかく、素の喋り方の時はバリバリの男口調なのに初めからお嬢様言葉を使ってるわけないか。
大変だっただろうな。お嬢様言葉。私は元からこんな喋り方だからそこまで違和感はないけど、アリシアの場合は元の喋り方とだいぶ違うし、違和感も凄かったと思う。
でも、傍目から見るとお嬢様口調のアリシアは結構ノリノリな気がする。元から少し興味があったりして? ……ないか。
「とりあえず、今回は残念な結果になっちゃったけど、今度はちゃんと戦えるといいね」
「ええ、そのためにも、ちゃんと次の大会も開催しませんとね」
交戦自体はいつでもできるが、やはり大会と言う緊張感のある場での戦いもやってみたいところ。
アリシアもせっかく勝ち進んできたのにリバルの策略で不戦敗では納得できないだろう。近いうちに、きちんとした舞台を用意したいものだ。
「……そういえば、今回の大会はどうなるのかな」
「ああ……どうなるのかしらね」
一応、今回の大会は形式上はきちんと決勝戦を終えている。
リバルの不正によってアリシアが不戦敗になってしまっているが、すでに私とリバルで決勝は終えてしまっているので、今更巻き戻すことはできない。
もちろん、不正をしたのはリバルなのだから準決勝の時点でリバルが不正により負けとなり、アリシアが決勝に進出、私とアリシアで決勝と言う流れになる可能性もあるけど、発覚したタイミングが遅すぎた。
これが決勝前に発覚していたならまだやり直しも期待できたかもしれないけど、時間稼ぎのためとはいえ決勝はやってしまったし、私が優勝、と言うことになるんだろうか。
うーん、なんだか釈然としない。と言うか、自分の主催した大会で自分が優勝してしまうって色々あれなんじゃないだろうか。
まあ、それに関しては今更感があるから別にいいけど、これで優勝宣言をしてもいいものか少し悩む。
「あ、いたいた。二人とも、そんなところでなにしてるの?」
そんなことを思っていると、そこにテトがやってきた。
騎士団への通報などで色々動いてもらっていたが、ようやく処理が終わったらしい。
周囲にポップな線で描かれたぬいぐるみらしき絵がいるところを見ると、彼らを手伝いに回していたのかもしれない。相変わらず便利な能力だ。
「何ぼさっとしてるの、早く席について、次の試合を始めるよ」
「え、次の試合?」
次の試合も何も、すでに決勝戦は終えている。もうこれ以上試合の予定はないはずだ。
私もアリシアも意味がよくわからずにぽけーっとしていると、テトは観客に向けて声を張り上げた。
「ただいまより、大会優勝者ハクと『サモナーズウォー』の開発者の一人アリシアによるエキシビションマッチを行います! 皆様、盛大な拍手でお迎えください!」
その瞬間、湧き上がる拍手と歓声。
騎士団騒動によって少し減った観客ではあったが、それでもまだ大部分は残っている。そこにまさかの追加試合の報、しかもそのカードはどちらも有名人である。喜ばないはずがなかった。
「試合を巻き戻すことはできないけど、アリシアちゃんもこのまま終わりは嫌でしょ? だから、ここで勝負するといいよ」
巻き戻しができない以上、優勝者を変更することはできない。しかし、エキシビションマッチと言う体なら、追加で試合をしたところで問題はないだろう。
アリシアはこのゲームの開発者だし、優勝者と戦うことになったとしてもそこまでの不自然さはない。まあ、その開発者が参加者として参加しているからそこまで特別感はないかもしれないけど、それでもアリシアの本気の勝負を見たかったという人は多いだろうし、皆納得しているというわけか。
まあ、そういうことなら断る必要もない。次の大会までお預けだと思っていたけど、ここで戦えるならそれが一番いいのだから。
私はアリシアの方を見る。アリシアも同じことを思ったのか、こちらを見つめていた。
お互いに頷き合う。さあ、これが本当の決勝戦だ。
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