第四百六十三話:後始末
今回の件で、神代さんは勇者として転生者に認められたことだろう。
この場にいなかった転生者に関しても、目撃者の証言があれば認めてもらえるはずだ。
これで目的の一つである神代さんを認めさせるという点はクリアしたことになる。
だが、もう一つの目的。竜に手を出させなくするという目的はこれからだ。
正直、これは今回の交渉よりも面倒なものになるだろう。なにせ、転生者の大半は竜の事を悪だと認識しているのだ。
勇者である神代さんが上に立ち、今後一切竜に手を出さないと宣言すれば従うかもしれない。でも、今後ずっとそれが続くという保証はない。竜が悪だという意識を根本から変えなければ、いつかは約束を反故にしてまた襲い掛かってくることだろう。
だから、その根本の問題をこれから解決しなければならない。今回の件で竜がまだ話のわかる奴だと示されたことが一応のプラス点だが、それだけでは足りないだろう。
聖教勇者連盟が今までしてきたように、じっくりと時間をかけて教え込んでいく必要がある。
先の長い話だ。
「我が姫、ご無事ですか?」
「迎えに来たぜ、大将」
「エリアス、ライ、残ってたんだね」
そんなことを考えていると、不意に背後から声を掛けられた。
振り返ってみると、そこには【人化】したエリアスとライの姿。どうやら、去ったと見せかけて【人化】して残っていたらしい。
まあ、本来の彼らの目的は私を助けに来ることだからね。そりゃあのままサヨナラってわけにはいかないか。
ホムラは演出上あの場で去るしかなかったが、まだ目撃されていない二人なら人に化けて接触してくるくらいは容易だ。
「ハク、これはうまくいったってことでいいの?」
「アリア。うん、まあ、勇者とか色々イレギュラーはあったけど、何とかなったんじゃないかな」
エリアスの手の中にはアリアの姿もあった。
元々、アリアにはホムラに被害を出しすぎないようにと伝言を頼んだ。それなのに、気づけば勇者が現れ、何やら交渉まがいの事をして去ることになったのだから少し混乱していることだろう。
私が勇者召喚を止められれば一番楽だったんだけどね。偶然とはいえ、勇者召喚が本当に起こるなんて思わなかった。油断した私のミスだ。
「これからどうするの?」
「ひとまず、神代さんに色々指示を出した後お父さんに報告しに行こうと思うよ。聖教勇者連盟は潰れた。これからは、新しい組織として生まれ変わらせる」
まあ、まだ教皇は生きているだろうし、残った幹部達もどこで何をしているのかわからないので完全に潰れたとは言い難い。いくら勇者の指示とはいえ、自分達の身が竜に引き渡されると知れば抵抗もするだろう。悪くすれば、勇者を懐柔してこれまで通り聖教勇者連盟を続けるかもしれない。
もしそうなった時は約束を反故にしたとして再び竜が来るだけだけど、出来ればそんな選択は取ってほしくないものだ。
「ひとまず神代さんに指示を出してくるから、少し待っていてくれる?」
「お供いたします」
「【念話】で指示を出すだけだから大丈夫だよ」
こうして話している間に神代さんは怪我人の治療を終えたようだ。これからどうするかについて話し合っている様子。
私はそんな神代さんに【念話】を飛ばす。
『神代さん、終わりましたか?』
「その声はハクちゃん。うん、みんなの怪我は治したよ」
『では、これから色々指示を出しますから聞き逃さないようにしてください。まず……』
私は今後やらなければならないことを説明していく。
まずやらなければならないのは後始末だ。今回の件で、建物の多くは破壊され、庭もめちゃくちゃになっている。
復興のためにも、まずはこれらを片付ける必要があるだろう。建材などに関しては後々用意して上げればいい。
続いて上層部の拘束。ホムラの話だとすでに何人かは葬られていそうだが、城には手を出していないのでそこに在中している奴らはまだ生き残っているだろう。
この騒ぎで出てこなかったところを見ると、転生者の事を信頼しきっているのか、はたまた既に逃げ出しているのか、どちらにせよ調べる必要がある。
さらに神代さんが勇者であるということの宣伝。今回目撃者となった転生者はともかく、コノハさん達の指示に従って避難した人達はこの事実を知らない。だから、それらを周知するためにも転生者達の口から勇者の存在を知らしめてほしいところ。
幸い、彼らは皆命が繋がったことに安堵し、神代さんの事を信頼しきっている。頼むまでもなく、言いふらして回ることだろう。
他にも色々やるべき細かいことはあるが、とりあえずはこんなところか。
時間はすでに夜明けに近い。寝ていたところを叩き起こされた転生者達は疲労も溜まっていることだろうし、焦る必要はないが、拘束に関しては少し急いだほうがいいかもしれないね。
『以上です。わかりましたか?』
「……多分。わからないことがあったらまた聞いてもいい?」
『……まあ、私がいる時であれば。私がいなかったら、コノハさん、カムイ、あるいは『流星』と言うチームの誰かに聞いてください。彼女らなら、やるべきことは大体わかっているはずです』
私もずっとこの場所にいるというわけにはいかない。お父さんに報告もしなくちゃならないし、そもそも私が住むのは隣の大陸だ、距離が離れすぎている。
まあ、いずれ通信魔道具を渡そうかと思うけど、今はとりあえず彼女らに聞いてほしい。
『あなたは勇者です。周りの人達に流されず、常に胸を張っていてください。世界の平和のためにも』
「う、うん、わかったよ」
正直、この場を神代さんだけに任せていくのは不安だけど、コノハさん達もいるし多分大丈夫だと信じたい。
私は【念話】を終了すると、エリアス達の下に戻る。
「そういえば、エルはまだ調整中?」
「エル様はめちゃくちゃになった竜脈を維持するのに少し時間がかかっているようです。しばらくの間はこの地から動けないでしょう」
「そっか……まあ、仕方ないよね」
私としてはそこまで時間がかかるものではないと思っていたんだけど、この地に与えられたダメージは思いの外大きいらしい。竜脈の流れがめちゃくちゃなので、それを正すだけでもかなりの時間がかかるようだ。
まあ、あの時はエル以外に頼める人がいなかったし、むしろエルでなければ直せなかっただろうからあの選択は間違っていなかったはずだ。
エルには悪いけど、しばらくは専念してもらおう。頃合いを見て、迎えに来て上げるとしよう。
「それでは、参りましょう」
「うん。一回帰ろう」
聖教勇者連盟が本当の意味で再建されるまで私は見守るつもりだけど、お父さんにお礼を言うのも兼ねて一度戻る。
当初は私が聖教勇者連盟に追われないために、と言う理由だったけど、いつの間にか竜が悪だという思想を正すために、と言う理由に変わってしまっていた。
私が竜を呼び寄せたと伝わった以上、私を相手取ることがどれほど危険なことかは身に染みただろうし、これ以上私と関わろうとは思わないだろう。だから、私が追われないという目的は達せられたと言っていい。
ただ、召喚されてしまった勇者のことやルナさんとの約束も含めて、このまま放置するわけにはいかない。
だいぶ大事になってしまったけど、このまま丸く収まればいいんだけどな。
そんなことを思いながら、転移魔法でその場を後にした。
感想ありがとうございます。
今回で第十三章は終了です。幕間を数話挟んだ後、第十四章、の前に少し番外編的な章を挟むかと思います。




