第四百五十七話:現れたのは
「えっと……これはどういう状況なのかな?」
いつの間にか現れた黒髪黒目の青年は困惑した様子で私に話しかけてくる。
年は16歳くらいだろうか。高校の制服だと思われるブレザーに紺のズボン、背はそこまでなく、160センチメートルと言ったところだろう。恐らく男性だが、中性的な顔は見方によっては女性にも見える。
前世では割とありふれていた高校生まんまその感じである。どうやら一歩遅く、勇者召喚は成ってしまったらしい。
これ、大丈夫かな。竜脈の魔力を使ってしまったことになると思うんだけど、今すぐにでも調整した方がいいんじゃないだろうか。
でも、私にはまだ大掛かりなものはできないし……ここはエルに頼むのが無難だろうか。
エルは私の世話役を仰せつかっていたからしばらく調整の任からは離れていたと思うけど、それでもエンシェントドラゴンだ、やり方くらい知っているはずである。
今この場にはホムラを始め、エリアスもライもいるわけだけど、彼らは今戦闘中だし今すぐにというのは無理があるだろう。ならばここはエルしか適任がいない。
「……エル、竜脈の調整お願いできる?」
「わかりました。せめて応急処置くらいは済ませておきましょう」
エルはそう言ってその場を離れた。魔法陣がここにある以上はこの下に竜脈があるとは思うけど、この転移者が話しかけて邪魔しないとも限らないし、この場ではない方がいいだろう。
その代わり、私がこの人の相手をしなきゃならないわけだけど……まあ、私が呼んでしまったようなものだし、そこは責任取らないとだめだよね。
「あの……」
「……すいません。急なことで混乱しているでしょうが落ち着いてください。私も落ち着くように努力するので」
「う、うん、わかった。でも、色々教えてくれるとありがたいかな」
「ええ、順番に話していきましょう」
勇者召喚と言うのがどういう人を呼び出すのかはわからないが、恐らく日常生活をしていたらいきなり、って感じだと思う。あるいは、目が覚めたら別の世界にいました、という展開かもしれない。
どちらにしろ、状況確認は大事だ。取り乱さずに私の話を聞く気があるだけかなりましである。
「まずは自己紹介を。私はハクと申します。あなたは?」
「僕は神代ヒナタ。星海高校に通う三年生だよ」
予想通り高校生ではあったが、三年生なのか。てっきり一年生かと思った。
まあ、別に何年生でもいいんだけどさ。星海高校と言うのにも覚えがないし、私の知らない地域から来たのかもしれない。
同じ日本人なのに少し残念な気分だ。まあ、知り合いが来る方がおかしいんだけども。
「では神代さん。まずは疑問に思っているであろうこの場所のことについて説明しますね」
転移者がどういったことを知りたいかを想像しつつ、ひとまずこの場所のことについて説明する。
ここが神代さんの言うところの異世界であるということ、ここはセフィリア聖教国と言う国であり、神代さんは勇者として召喚されたということ、しかしその実態は星に急激なダメージを与える行為であり、止めようとしたけど間に合わなかったことなどできるだけ噛み砕いて説明して上げた。
まあ、これだけ話しても半分も理解できないだろうけど、今はここが異世界だと認識してくれるだけでも構わない。
「……夢、と言うわけではなさそうだね。どうして僕が勇者なんかに?」
「それはわかりません。ですが、魔法陣の構造から察するに恐らく誰でもよかったのでしょう。なぜか日本からと言う注釈が付きますが」
先代の勇者や転生者も含め、来ているのは皆日本人だ。なぜそうなっているのかは知らないが、何かしらの繋がりがあるのかもしれない。あるいは神様の気まぐれとか。
それはともかく、確認しておきたいことが一つある。
「今までにも幾人かの勇者がこの世界に呼ばれてきました。そして、彼らは皆人間離れした特異な能力を持っていました。神代さん、あなたも何かしらそう言った能力を身に着けていると思うのですが、何か身体に変わったことはありませんか?」
「うーん、そう言われてもなぁ」
神代さんは軽く手を振ったりジャンプしてみたりしているが、見る限りでは特段変わった様子はない。
以前戦った勇者を見る限り、把握できたのはせいぜい耐性が馬鹿高いということくらい。それ以外はほとんどノートゥングによるごり押しだったからよくわからない。
と言うか、そもそも勇者はなぜ特異な能力を身に着けるのだろう。
転生者は神様に出会って能力をプレゼントされた、と言う証言があるからまだわかるけど、勇者召喚に神様の力は関係していないと思う。
別に日本人なら誰でも強いというわけでもないし、むしろこの世界に比べたら圧倒的に弱い人ばかりだろう。それなのにこの世界に来た途端強い能力を得ている。
その力は一体どこから? よくわからない。
「体に異常はないかな。強いて言うなら、いつもより体が軽いくらい」
「では、試してみましょうか」
私はそう言って手の平に火の球を作り出す。
突然現れた火の球に神代さんは驚いたようだが、この世界は魔法が当然のようにあると説明して上げた。
そこらへんは男の子なのか、魔法と聞いて少し興奮した様子である。もしかしたら使えるかもしれないし、それも試してみた方がいいかもしれない。
「この火の球に手を突っ込んでもらえますか?」
「いや、そんなことしたら火傷しちゃうよ」
「大丈夫です。最初はきちんと温度を下げているので少し暖かいくらいにしか感じませんよ」
温度をいじくるのは少し大変だけど、やってやれないことはない。
私は安心させるように自分の手を入れて、火傷一つしないことを確認させる。
まあ、私は竜だからたとえ攻撃魔法並みの温度になっていたとしてもそこまで酷いことにはならないと思うが。
私のデモンストレーションもあり、神代さんは恐る恐ると言った体で火の球に手を入れる。少しびくりとしていたが、やがて完全に手が入っていった。
「本当だ、熱くない……」
「言ったでしょう? では、ここから少しずつ温度を上げていきます。熱いと思ったらすぐに手を引っ込めてください」
「う、うん、わかった」
なぜこんなことをするのかと言えば、耐性の確認だ。
人族にはその種類ごとにある程度の耐性がある。人間の場合は標準的で、火に触れれば当然のように火傷をする。攻撃魔法なんて食らったら火だるま確定だ。
もちろん、魔術師だった場合は魔力によって多少の耐性があるので耐えることもあるが、それでも怪我は免れない。魔道具で軽減すればかなり耐えることができると思うが、それはもはやその人の耐性とは言わないので除外。
さて、今の火の球は炬燵に手を入れた時くらいの温度を目安にしている。それでも火の球だから下手をすれば火傷をするけど、今のところその兆候は見られない。
ここから徐々に温度を上げていくことで、どの程度まで耐えられるかを測るのだ。
ここで耐えられる温度が高ければ高いほど火に対して耐性があるということになる。
私の予想通りならかなりの耐性があるはずだけど……。
「まだ熱くないですか?」
「うん、まだ平気」
すでに初級魔法の威力は過ぎ、中級魔法レベルとなっているのだが神代さんが熱がる様子はない。やはり、耐性を持っているようだ。
上級魔法まで行っても耐えられるところを見ると、この調子ならマグマに浸かっても平気かもしれないね。
「ふむ、大体わかりました。この調子で調べていってみましょう」
「え? う、うん、わかったよ」
勇者の持つ異常なまでの耐性。他にも色々な能力があるかもしれないと考えると、その興味は尽きない。
私はしばらくの間勇者の身体の研究に明け暮れた。
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