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【第八夜】 3













 とりあえず、ユリアとイレーナの殺害事件、アメリアとディアンナの誘拐事件については何となく理解した。犯人はディアンナを犯人に仕立て上げたくて、あえてディアンナを行方不明にした。ついでに、始末できなかったアメリアも攫った。彼女のことは、逃亡時の人質にする、という考えもあったようだ。

 アメリアを人質にした犯人とこう着状態になった時、犯人を狙撃したのはヘルブラントで。犯人を制圧したのは一番近くにいたディアンナで、彼女は犯人に仕立て上げられそうになった腹いせか、犯人に銃弾を撃ち込んだらしい。なんと言う女だ。これはバーレントでなくても引く。


 ちなみに、バーレントたちがあの時、バルコニーに出てきたのは、ユリアの恋人だったと言う船内警備員が案内してくれたらしい。たまたま、アメリアたちが倉庫から出て行くのを見たようだ。どんなだ。都合が良すぎる気もするが、つっこまないことにする。とりあえず、助かったことを喜ぼう。


「……アメリア。聞いてもいいか」

「バーレントが私に聞くって珍しいですね。なんですか?」


 珍しいことにアメリアは何となく嬉しくなり、読んでいた本を膝に置いて身を乗り出した。ソファに座っていたアメリアに対し、バーレントは備え付けの椅子に座っていた。


「結局のところ、コーレイン公爵は誰に刺されたんだ?」


 アメリアはソファの背もたれに寄りかかった。ディアンナが誰に刺されたか。それは、確かに話されていない。なんと言うか、犯人を見たはずのディアンナも、あえて言わないようにしていたような気がした。

 じっとこちらを見つめてくるバーレントを見て、アメリアは首を傾けた。

「まあ、ディアンナ様は、自分を刺した犯人について黙秘したいようですから、真実はわからないんですけど。だから、これから話すことは、全て私の推測と言うことで一つ」

「わかった」

 そう。張本人が口を割らないから、だから、これは推測でしかない。真実を明るみに出すつもりがないのであれば、それでいいのだと思う。


「ディアンナ様は、おそらく、自分を刺した犯人をかばおうとしているのです」


 バーレントがうなずいたのを確認し、アメリアは話を続ける。

「それなら、密室で刺されていた説明もつきます。あの部屋の客人用の鍵を二つとも盗んで部屋を開け、犯人は倒れたディアンナ様に二つとも鍵を握らせて部屋を出た。そのあと、ディアンナ様は自分で部屋に鍵をかけたのです」

「……自分で? なら、自作自演と言う可能性も……」

「いえ。ディアンナ様の自作自演ではありません。彼女は犯人をかばっているだけです」

 もちろん、その犯人はアメリアを拉致監禁してくれやがったあの男ではない。別の人だ。そもそも、あの男なら、おそらくディアンナを射殺したはずだ。


 だが、現実として、ディアンナは刺されていたのだ。


「バーレントが言っていたのですよ。ディアンナ様の傷口は浅く、凶器は短剣。女性が刺したようだった、と。そして、それは事実だったのです」

 アメリアは、そこで一度深呼吸をして、犯人の名を告げた。


「おそらく、ディアンナ様を刺したのは、ハウトスミット侯爵夫人ヒルデ様です」


「……」


 バーレントは何も言わなかったが、怪しんでいるようだった。アメリアはニコッと笑って解説を続ける。

「私が自殺でないと考えたのは、犯行現場がディアンナ様自身の客室でなかったこと、それに、傷口が浅かったことがあげられます。退役軍人であるディアンナ様なら、自分で自分を刺すのであってもかなり深い傷になるはずです」

「……まあ、否定はできないな」

 バーレントから同意をもらったので、アメリアは会心の笑みを浮かべた。

「ディアンナ様の自作自演と考えるにはかなり厳しいものがある。だけど、女性に刺されたのであれば、納得がいく。それが、ハウトスミット侯爵夫人なら、なおさら」

「……侯爵夫人には、夫とコーレイン公爵があいびきしているように見えた、と言うことか……」

「まあ、私はそう考えました」

 ヒルデはおそらく、夫であるヘルブラントがディアンナと密談するのに使う方法で彼女を呼び出したのだ。そして、まんまとおびき出されたディアンナを、持っていた短剣で刺した……。

 しかし、ディアンナはここで不可解な行動をする。ヒルデをかばうように部屋を密室にし、習っているはずの応急処置をしなかった。

「だが、それでも疑問は残るぞ。何故コーレイン公爵は侯爵夫人をかばう? 特に理由はないだろう」

「……うーん」

 バーレントの次なる問いかけに、アメリアは迷った。これは言ってもいいのだろうか。


「これは、完全に私の推測なんですけど」

「ああ」

「ディアンナ様は、たぶん、あえて刺されたのだと思います」

「……は?」


 バーレントが本気で驚いた声をあげた。ぐっと眉根にしわがより、怪訝な表情になる。

「バーレント。せっかくのハンサムが台無しです」

「そんなことはどうでもいい。と言うか、お前からそんな言葉が出てきたのがびっくりだ」

「ええ? 初めて会った時からずっと思ってたんですけど」

 正直、顔だけならバーレントは初めからかなりアメリアの好みだった。性格はともかく。


「それで、あえて刺されたというのはどういうことだ」


 ああ、忘れてなかったのか。アメリアは話の軌道修正をされてそう思った。

「おそらく、ディアンナ様は、初めから前コーレイン公爵クリス様を殺した犯人をおびき出すつもりだったんです」

「と言うと?」

「ディアンナ様が刺されると、当然医務室に連れて行かれますよね。そこは、医務室であるから客室よりも人と接触がしやすい……特に、乗務員とは」

 そう。ディアンナは、初めから兄を殺した人物が乗務員であることがわかっていたのだ。


 だから、医務室で接触を待っていた。


「さすがに……いえ、本当のところはわかりませんが、攫われたのは不測事態だったのだと思いますけど、でも、彼女の望み通り、犯人は接触してきた」

 何度も言うが、前コーレイン公爵クリスのことで、最初に口を封じるのならディアンナだ。どう考えても彼女が一番真相に近いところにいるはずだし、ディアンナもそう考えたのだろう。

「だから、刺されたことは、ディアンナ様にとってむしろ都合がよかったのだと思います」

 だから、彼女は犯人を誰にも言わない。おそらく、彼女の自作自演だと言われても、彼女は否定しないだろう。彼女が自分の負傷を利用したのは確かなのだから。

 ただ、ディアンナの監視下を離れたイレーナがアメリアに事情を話し、アメリアが巻き込まれてしまったわけだが、無事だったのでまあいいか、と思っている心の広いアメリアだ。興味がないことには無関心ともいう。

「……やはり、コーレイン公爵を一発殴っておくべきだったのだろうか……」

 アメリアと同じ結論、つまり、ディアンナのせいでアメリアが誘拐される事態に発展した、と考えたバーレントは眉間を指で揉みながら言った。アメリアは笑う。

「できもしないことを言っても仕方がないじゃないですか」

 バーレントは元従軍医で、それなりの軍事訓練を受けている。退役軍人であるディアンナと本気でやりあうことはできるのだと思う。しかし、彼の医者としての理性がけが人を殴ることを拒否する。そもそも、非があるとはいえ、本気で男性が女性を殴ったりしたら、引く。

 ディアンナは本気で確信犯だったのだと思う。いうなれば、今回の事件の黒幕は彼女なのだ。踊らされていた感があるし、結局、彼女の思うとおりになったような節がある。

 まあ、ディアンナが本当にそこまで考えていたら、なのだが。すべてアメリアの推測なのである。


 だが、かなり可能性は高いのではないだろうかと思う。


 わざわざ、兄が殺されたのと同型の客船に乗り込んだ彼女。しかも、機密局に勤めるヘルブラントの旅行の時期と合わせている。

 刺されたのに止血せずに、しかも犯人を言わない。攫われた時はアメリアのように薬で眠らされていたのだとしても、倉庫に閉じ込められた後、彼女なら逃げられたのではないかとも考えられる。ただの偏見だが、ディアンナならできても不思議ではないと思うんだ。

 何が言いたいかと言うと、殺した犯人は別にいるが、今回の事件の黒幕はやはりディアンナなのではないかと言うことだ。

 どうでも……よくはないが、あまり自分が巻き込まれたことに対して興味がないアメリアであるが、自分の代わりにバーレントが怒ってくれるのは少し気分がよかった。うれしい。心配してくれるのだ、と思う。


「でも、ありがとうございます」


 いろいろな意味を込めて、アメリアはバーレントに礼を言った。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


書いているうちに諸悪の根源はディアンナのような気がしてきた……。


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