久しぶりの再会
「……ったあああ!!」
勢いよく栄養ドリンクを飲む。同級生達は今日から桜色の春休みだって言うのに、私といえば今日も相談者のネガティブパワーを全身で受け止め、世界平和に貢献している。
「……あの、昨日男の人に突然このお守りを渡されて、困っていることがあったら、ここに入っている連絡先に連絡するといいって言われたので連絡してみたんですけど」
ジョージの営業活動とは、街を適当にブラブラして、悩んでいそうな人に、ここの番号が入ったお守りを渡すことだ。
「あっ、ハイ! 今日はどうされましたか?」
相談者の声に慌ててスカイプ画面に目を向けると、そこには見覚えのある顔があった。
……あれ? 翔、君?
翔は小学校の時のクラスメイトだ。クラスの輪に入らず、ひとり淡々と過ごす私に、根気強く話しかけてくれたた唯一のクラスメイト。中学からは別々で、小学校を卒業してからは会うこともなかったから、もう6年ぶりだ。
「……え、あの、これ、占いですか?」
翔は、連絡先が占いだなどと予想だにしていなかったようで、この仰々しい占いファッションに面を食らっていた。しかし、その顔はあどけない小学校の頃の面影をどこかに残しながら、端正な顔立ちに成長しているではないか。
「……かっこいい」
「え?」
「あっ、いや! 今日はどうされましたか?」
翔はまだ私に気づいていないようだったので、私は慌てて頭をぐっと下げ、いつもより深くベールに隠れた。
「実は、弟が兄離れしなくて困ってるんです」
翔が伏し目がちに言った。
「弟さんはおいくつですか?」
「来月、小学校2年生になります。今は6歳です」
「……あの、何かの参考になるかもしれないので、弟さんの名前と生年月日を教えてもらえませんか?」
私は、翔が占いなんかに興味がないのではないかという不安に駆られ、顔色を窺うように弟の生年月日を尋ねた。すると翔は笑いながら、
「なんかよくわからないけど、俺、こういうの初めてだからワクワクしてきました! 弟は、細野守、2009年11月20日生まれです」
と、答えてくれた。私は、ほっと胸をなで下ろし、話を続けた。
「ありがとうございます。……えっと、弟さんは蠍座。支配星は月です。やんちゃで無鉄砲なタイプ。短気で気むずかしい所もあるけれど、人が好きで友達も多い。そしてよく笑うのが特徴です」
「へー!! なんで、わかるんですか!? すごい!」
すごい? 私をすごいなんていう人は初めてだ。
「……ちょっと、勉強したんです。」
なんだか恥ずかしい。私は軽く俯き、照れた頬をベールで隠した。だけど、ふと画面に目を戻した時には、翔の笑顔は消えていた。
「……前はよく笑うヤツだったんです。でも最近は友達とも遊ばずに、ずっと俺にくっついてるんです」
「何が、あったんですか?」
「去年の夏、プールで溺れて、アイツ、死にかけたんです。俺が助けたんですけど、それから俺の元を離れなくなってしまって……」
「……そんなことがあったんですか」
「きっと、すごく怖かったんだ。俺、アイツのこと助けてやりたくって……」
……翔君、自分のことじゃなくて、弟さんのために――。
「弟さん、守君は、きっと不安なんですね。でも、そういう出来事があったと言うことは、これから、彼の人生の中でもっと困難なことが起きるかもしれない。……私も、私も協力します! あの、蠍座という星座は、逆転の星座と呼ばれていて、ピンチや危機に瀕したときにこそ本領を発揮すると言われています。でも、誕生日が20日の人は臆病なところもあるんです。どうにか彼に、不安を払拭し、勇気と自信を与えてあげることができれば……」
翔は考え込むように俯いている。そして、
「ピンチ……、自信……」
と、呟くと、バッと顔を上げた。
「じゃあ、今度は俺が溺れて、守に助けてもらうっていうのはどうだろう!?」
翔の目はキラキラと輝いていた。
「アイツ、プールを怖がるかもしれないけど、自分が助けられるんじゃなくて、アイツが誰かを助けたら、自信もつくでしょう?そうだ! 俺、その作戦を練ることにします! どうもありがとう!!」
「いえ、そんな……、」
私は何も、と、続けようとしたが、翔は、
「また連絡しますね!」
と、元気よく言うと、勢いよくスカイプを切ってしまった。
突然音がなくなった部屋で私はひとり、翔が私を褒めてくれたことを思い返した。また連絡してくれると言う言葉に、心が勝手に弾んでいた。
「どーよ? 久しぶりの再会は!?」
って、コイツの仕業!? 耳元からジョージの陽気な声がする。
「……、どーよって、何考えてんのジョージ! 翔君に私だってバレたらどーすんのさ?」
「なんだよ、悪いことしてるんじゃねーし、別にバレたっていいだろ? お前の小学校の時のクラスメイトだよな? 街でたまたま見つけてさ!お守り渡してみたんだよ! でも、本当に連絡してくるとはなー! アイツ、悩んでたんだな!」
「悩んでたんだなって、悩んでる人にお守り渡すのがあんたの仕事でしょ? もう!」
「怒るなよ、私、協力します! とか言って、楽しそうだったじゃねーか」
「う、うるさい! 人の話聞いてるなんて最低!」
私は、演出用の水晶をジョージに思いっきり投げてやった。
<続く>




