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3話 モニカレベル29 ノアレベル40 アルマレベル92

 ――翌朝。

 ノアを先頭に三人は魔物の巣と呼ばれる洞窟へ向かうこととなった。

 帰って来たノアの提案に驚いたのはエマぐらいで、モニカとアルマは半ば予想できたことにそれほど驚きはなかった。

 魔物の巣までの距離はそれほど遠くはないため、準備はすぐに終わった。旅に慣れたことを実感しつつ、モニカ達一行は魔物の巣を目指す。

 朝早くに出て、着くのは昼を過ぎるのではと予想を立てていたが、昼前には魔物巣に到着した。


 「本当に村の近くにあるのね。確かに、雰囲気あるわ……」


 目的地である魔物の巣が見えてから一言も口にしなかった三人だったが、アルマはぼそりと呟いた。

 魔物の巣は、とても人間が作れるとは思えないほどの巨大な穴をしていた。広がる暗闇は二度と帰って来られないのではと不安にさせるほど深く深くどこまでも伸びていっているようだ。

 岩石で固められたこの洞窟の入り口はおそらく、巨大なモンスターが行き来するためにこの広さになっているのだろう。

 ノアの母、シルハがモンスターの大群を止めてから、ここからモンスターが出て来るといった話は聞いたことがないらしい。しかし、それでも魔物の巣という名前だ。簡単には通してはもらえないだろうと思っていたが――。


 「……魔物の巣なのに、モンスターとは一回も遭遇してないな」


 ノアは低く唸り、呟いた。

 近づけば、モンスターの一匹や二匹かそれ以上は遭遇するのではないかと考えていた三人には、難なく辿り着けたことが拍子抜けだったが、いくつもの戦いを経験したからこそこの魔物の巣という存在の危険性をひしひしと感じられる。

 ――ここはただの洞窟ではない。

 それこそ、怪物の胃袋にでも飛び込むような気持ちでじっと魔物の巣を見つめた三人。先頭に立っていたノアが率先して歩き出す。


 「行こう」


 背中を押すようにノアが言えば、アルマとモニカは互いに頷いた。

 ぞっとするような寒気さを感じる洞窟の中へモニカ達は進んでいった。



               ※



 「くらぁい」


 「はいはい、これでも使いなさい。ほら、ノアも」


 「助かる」


 当たり前のことだが、照明なんてそこにはない。そのため、アルマが事前に己の魔力を注入して作った棒状のマキア石を灯りの変わりに使う。それを三本、三人とも蛍光灯を握り締めたような明るさの棒を手にして広い闇を前進する。


 「いつの間に、こんなもの作れるようになったんだ。マキア石の補給なんて、魔法使いの中でも僅かな人間しか使えないと聞くぞ」


 「私はその、『僅かな人間』なのよ。まあ、まほ……アレだし」


 壁も地面もゴツゴツとした感触を気にしつつ、進むアルマは言い辛そうに言う。


 「魔法少女だよね! 羨ましい!」

 

 「は、恥ずかしいから、大きな声で言わないでよ!」


 「でもね、私の世界では割と魔法少女憧れる人いるんだよ! 小さな女の子とか一部の大人とか!」


 「……前者は何となく分かるとしても、後者は悪い意味で少数派な気がするわね」


 暗闇を照らせんじゃないかと思ってしまうほどのモニカのニコニコ笑顔にたじろぎながらもアルマが言った。


 「魔法少女、か」


 神妙な顔つきでノアが言えば、アルマはすぐに反応した。


 「な、なによ!? アンタもどうせ馬鹿にする気なんでしょ!?」


 「えぇ、私も馬鹿にするつもりはなかったよー」


 「そう聞こえるのよ!」


 非難の声を上げるモニカに激しく突っ込みをいれたアルマは、会話に参加しようとしないノアを訝しげに見た。


 「……どうしたのよ、ノア」


 「いや、正直に言えばアルマが羨ましいんだ」


 「は? 魔法少女が?」


 「違う。あんなフリフリで戦えるか。……アルマは私達よりもずっと強くなっているよな。……それが羨ましいんだ」


 「ノア……」


 ノアの表情の正体はアルマも知っていた。それは、焦り。

 強大な敵を前にして、一切歯が立たなかった経験が母との思い出をきっかけに大きな悩みになっているのだ。

 ゴートン、キリカ、エステラ……。ノア一人では絶対に勝てない彼ら。

 ただ強さだけを磨いてきたノアには、一つ一つの無力さを感じる瞬間が彼女の心を重たくさせていた。だからこそ、あっさりと強大な力を手に入れたアルマに羨望の眼差しを向けるのだ。

 モニカはぴょんとうさぎのようにジャンプすればノアに飛びついた。


 「えー! 私からして見れば、ノアちゃんだって凄く強いよ!」


 「モニカ……。こんな私にも、そんな言葉をかけてくれてありがとう」


 ははは……、と乾いた笑いを浮かべたノアを見てモニカはムッとした表情をした。


 「『こんな私』なんて、言っちゃダメだめ絶対! 私にとっては、かけがえのない友達なんだから!」


 真っ直ぐな言葉に頬を朱に染めたノアは、自分の奥から湧き上がる感謝の言葉を行動に表すようにモニカの頭を撫でた。


 「そうだな、その通りだな。私は……いい友達を持った。こんなにもいい友達がいるんだ。母さんにも、モニカやアルマのことを紹介しないとな」


 「うん! 絶対にそうしてよ! ね、アルマちゃんもノアちゃんのお母さんに会いたいでしょ!?」


 「あ……ま、まあ、歴戦の戦士には興味あるし」


 いきなり話を振られて、戸惑いながら言うアルマ。しかし、明らかにそこには本音を隠している部分をモニカはすぐに察した。モニカは頬を膨らませれば、「アルマちゃん!」と急かすように名前を呼んだ。

 可愛らしく怒るモニカを前に、アルマは軽く溜め息を吐けば、やれやれといった様子で返答した。


 「う……。えと、そのね……私も、友達のお母さんに会ってみたい。ノアの憧れる人がどんな人か気になるし」


 「うーん、七十点かな?」


 「うっさいわよ、モニカ!」


 顔を真っ赤にしたアルマから、マキア石で頭をごすんごすん叩かれるモニカを見ればノアは吹きだすように笑った。

 これが私の友人です。辛くても苦しくても、それを忘れさせてしまうほどの笑顔をくれる大切な親友達です。ノアは今ここにいない母親に心の中でそんなことを告げる。いつか、直接言おう。そう心に決めて、ノアは前を向く。


 「二人とも、ありがとう。さあ、行こうか――」


 振り返ったノアは広がる光景に眉をひそめた。

 見覚えのある景色、しかし、それはここにあってはいけないもの。見えてはいけないものだ。

 心臓を直接鷲づかみされるような不快感を感じ、信頼できる二人の友に助けを求めようと背後を振り返った。だが――。


 「――二人が……いない……!?」


 そこも見覚えのある景色。ただ違うのは、そこにいるべきはずのモニカとアルマが忽然といなくなっている。


 「これも、魔物の巣の力なのか……」


 苦々しい表情で呟けば、ノアは前方を見る。――そこには、懐かしの故郷であるリオラ村があった。


 「どうして、私はこんなところにいるんだ……」


 ほんの数百メートル先のリオラ村を眺めたノアは、茫然と呟いた。 

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