11戻れなくなる!?
まりさんは私の手をそっと握ってくれる。
私は俯いたままその手をじっと見た。
大好きなママの手。
マニキュアもなにもしてないし指先はちょっと荒れてるけど、すごく綺麗な手。
あったかいママの手。
「・・・パパとママが、け、ケンカ・・してるの」
ぽろりと、言葉がこぼれた。
「そうなの?」
「さっきもすごい怒鳴ってて、私・・止めたかったけど、こわくて」
ママの手をぎゅっと握る。
「私、ずっと、家のお手伝いも勉強も頑張って、いい子にしてた。
けど、どんどん遠くなってくの。離れて行っちゃう。
・・・私のことなんて、見てもくれない。
パパもママも、私のことなんて、もう好きじゃないのよ!」
今まで我慢してきたのが一気に破裂したみたいに、私は声を荒げてぶちまけた。
涙がボロボロこぼれてく。
慌てて拭うけど、次から次へと込み上げて来てどうしようもなくなった。
「うっ、っく・・。う・・」
嗚咽が止まらなくて、視界も涙でモヤモヤ。
止めないと。
こんなことしちゃ、いけない。
こんなことしたって、ママを困らせるだけなのに。
こんな話、するつもりじゃなかったのに。
「ちえりちゃん」
その時、私はふわりと抱き締められた。
「だいじょうぶ。・・だいじょうぶよ。ね?」
あったかいママの胸の中は昔からずっと知ってる大好きなイイ匂い。
私は腕を伸ばしてぎゅうっと思いっきり抱きついた。
何も話せなくなって泣くばっかりの私を、ママはだた抱き締めてくれた。
私は時間を忘れていた。
ハッとして公園の時計を見上げると、長い針はもう十の数字に重なりかけてる。
しまった!!
「あ、わ、わたし、ごめんなさい! もう行かなきゃ、また、明日!
さよならッ!!」
「え? ちえりちゃん!」
手を振りほどいていきなり立ち上がった私にママは驚いたけど、
私はそれどころじゃなくって、言い訳もせずに、もう夢中で走りだした。
ヤバイっ!
ヤバイヤバイヤバイ!!
頭の中は真っ白。
全力で走る足がもつれそうになる。
どうしよう!?
一時間過ぎたらどうなるんだっけ?
身の安全は保証できませんってどういうこと?
戻れなくなるってこと?
合わせた時刻は五十五分だから、もうダメ! 来たところにまでは行けない!
戻れなくなるよりは道端で寝てる方がまだマシ!
ここでボタンを押すしかないっ!
ぎゅっと目を閉じて、私は走りながらタイムマシンのボタンを押した。
はるにい、ごめん。
いつも時間のことは、はるにいに任せっきりだったからこんなことになるんだ。
道路のど真ん中で寝てて、車に轢かれたらヤダなぁ・・。
太ももをつねって痛みで 睡魔に勝ってやろうかと試みたけど、
そんなことはおかまいなく強制的に私の意識は真っ黒に落ちた。




