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私の旦那様達は魔物です。  作者: 春夏秋冬巡
一章 異世界にて魔女になっちゃいました。
4/11

四話

 召喚されてから一週間が経った。

 この八日、驚きの連続でたくさんのカルチャーショックを受けた。

 まず一つ目、ノルアールにはトイレがない。

 地球の人間と違った方法で排泄物を出すのでトイレが必要ないのだ。

 体内の老廃物などを魔力で結晶化させ、魔石ませきと呼ばれる生活必需品を生み出す。

 ノルアールのエネルギー資源は魔力なので、魔力を結晶化させた魔石はよく使うのだ。

 経済的でエコなのだが一週間に一度で足りる為、他者に売って儲けを出すのは難しい。

 厄介な点は、怠ると体調不良を起こすので忘れると大変なことになる。

 二つ目、予想していた通り、機械類が少なくて電気機器がない。

 魔力が主流なので代わりに魔法道具が豊富にあるのだが、文字通りに魔力がなければ使えない。

 自身の魔力を直接使うか、後は魔石を電池のように入れる。

 神殿にある魔石は少ないので、大事に使わなければならないので、必然的に自分達の魔力で消費しなければならない。

 桜花のように魔力が多ければ消費量を気にせずに使えるのだが、小百合のような魔力が低い者は気にかけなければうっかり倒れてしまう。

 三つ目、生き物は全て二つにわけられる。

 人間と人間ではない生き物。

 人間ではないものを全て魔物と呼び、種類は竜と天魔、魔獣、妖怪、精霊、妖精と六種類いる。

 さらに、この中で人間の姿を取れる者が人型、取れない者を非人型と呼ぶ。

 他にもまだあるのだが、まだ小百合はそこまで学んでない。

 印象に残っているのは、非人型の魔獣は地球にいる動物達と見た目の違いはあまりないこと。

 しかし、魔物なので多少大きめであることは教わっている。

 もしかして、小百合の天敵である黒光りしてカサカサ動く憎い奴も大きくなっているのだろうか。

 想像するだけで恐ろしくなり、思い出す度に慌てて首を振り忘れようと努力する。

 四つ目、食べ物。

 見慣れないものもあるが、ほとんどが見たことがあるもの。

 ホッとしたのも束の間、味が違うことがしばしばある。

 甘いと思って食べれば辛くて吐き、苦いと思って食べたら甘くて納得できない気持ちに陥る。

 地球では食べられない美味しいものを食べれるのは良いのだが、ノルアールには米が無いようで、一週間しか経ってないのに無性に恋しくなる。

 五つ目、着る物。

 贅沢は敵だ運動をしているため、既製服を買うのを避けて手作りをしている。

 榎奈は手馴れているのだが問題は小百合達。

 手芸や服飾関係でなければ、洋服を作る機会ははまずない。

 裁縫をするにしても家庭科の授業で作ったエプロンやクッションくらいだ。

 要練習が必要で失敗したものは雑巾や布巾として活躍している。

 六つ目、家事。

 四人ともあまり料理をすることがなかったことと、材料の違いで戸惑うことが多い。

 暫くは榎奈に指導してもらいながら作ることになるが、桜花には全面的に禁止令が出されキッチンに入れないようになっている。

 味音痴なので皆が食べられる物を作れないことが原因だ。

 次に洗濯は近くの川まで行かなければならず、服といっても七人分なので持っていくのも一苦労。

 洗濯機が欲しいと贅沢は言わないが、せめて水道があればなぁ、と思う。

 料理に使う水や飲み水は、井戸から汲んだ水をかめに入れて保存している。

 節水をするのは辛い。

 それと、今の季節は夏なので暑いため汗を掻き、何度も服を取り替えないと気持ちが悪い。

 掃除は比較的楽だが掃除機がないので、箒で掃き雑巾で拭く。

 結構な重労働だ。

 七つ目は、まだないがこれからも増えていきそうだ。

 ため息を吐く小百合の顔は晴れない。

 今日はいつも以上に大変な一日になることが分かっているからだ。

 シスター服をセクシーに着こなす榎奈が鼻歌を口ずさみ、わきわきと楽しげに手を開いたり閉じたりする。

 あのテンションの時の榎奈は、何か厄介なことをやると僅か一週間ながら知っている。

 考えても避けられそうにないので、嫌々ながらも覚悟を決める。




「今日は宝具を作製するわよぉ」

 良い笑顔を振りまき、今日の教材の鮮血石せんけつせきを配る。

 小百合達の前に両手で持たなければならない大きさの鮮やかな紅色をした神々の血が結晶化した石が置かれた。

 宝具とは数日前に習った契約魔法に必要な媒体であり、武器としても使える便利アイテムだ。

 榎奈の持っているロザリオも宝具で、武器としての姿は鞭。

 武器を持つのは戦って魔物、場合によっては人を殺さないといけないって言っているようで怖い。

戦いなど無縁の日本でぬくぬく育ってきた小百合は、自分の手が血で染まるのを恐れている。

生き物の命を奪うだなんて荷が思い。

背負いきれない。

だが、相反する気持ちも存在する。

 自分はどんな武器を得るのだろうか?

 榎奈が言うには最も自分に適した武器になるらしく、宝具の事を聞いた当初、色々と妄想していた。

「さぁ、授業で練習していた魔方陣を描いてねん」

 怖いと嬉しいが合わさって震える手を叱咤しながら、授業で何度も練習した魔法陣を地面に描く。

 ただ宝具を創るだけなら初心者である小百合達が描かずに榎奈が描いても良いのだが、一年経ったら神殿から出て行かなければならない。

 何をするにしても自分でやらなければ生きていけないので、榎奈はよっぽどのことがない限り自分達の手でやらせた。

 魔方陣を描き終わると、榎奈がチェックする。

 柳美は意外にもやり直しをさせられ、桜花は完璧だと称賛され、桃花は無難にこなして合格を貰った。

 小百合は少し修正させられただけで、柳美みたいに描き直しさせられずに済んだ。

 次に鮮血石に血を垂らす。

 これで所有者を決定し、持ち主意外には使用できないようになる。

 それから呪文を唱えると鮮血石が宝具になる。

 この詠唱は決まった言葉があるわけではないので、自分で考えなければならない。

 魔法陣の後の作業は榎奈に見てもらいながらやるのでジャンケンで順番を決めた。

 一番は桃花、二番は柳美、三番目が小百合で最後に桜花。

 最初にならなかったので二人の言葉を参考にさせてもらおうと思っている。

 不安そうな桃花を見て、桜花が榎奈の時はどういった呪文を唱えたのか聞いてくれた。

「あたくしは『我が血を帯びて、我が剣となれ。契約の元榎奈が命じる』って感じだったわねぇ。名前を入れたほうが成功しやすいわよん」

 榎奈のアドバイスに桃花は頷き、ナイフで人差し指を傷つけて鮮血石に血を垂らす。

 両手で包み込んで魔力を送ると、淡く光り始めて榎奈が合図を出す。

「私は桃花。宝具となって、力を貸して欲しい」

 光は眩しくなったかと思えば、一瞬だけだったらしく収まると掌には指輪が乗っていた。

「指輪?」

「指に填めて武器になれと強く思いながら魔力を流してご覧なさい」

 左手の人差し指に填めて、指輪に魔力を送り込むと弓に変化した。

 弓道で見た事のある長弓ではなく、M字に屈曲した短い弓だ。

 狩猟民族が使ってそう。

 弦を弾き、興味津々といった風に弓を触っている。

「上手くいったわねぇ。次は柳美ちゃんよん」

「はい」

 息を吐き、鮮血石に血を垂らす。

「我が名は柳美。血の対価に従え」

 光より現れたのは腕輪。

 右と左、どちらにしようかと迷いながらも、柳美は右を選んで着ける。

 魔力を送ると剣になり、感触を確かめるように振るう姿は凛々しく似合って格好良い。

 小百合もそうだが桃花は特にうっとりと柳美を見つめ頬を染めて桜花にはたかれている。

「うん、上出来よぉ。さぁ、小百合ちゃん」

 促され、ナイフで人差し指を傷つける。

 ちくっとした小さな痛みに顔を顰め、血が垂れたのを確認してから詠唱をする。

「血を貰いし物よ。我が名、小百合の名の下に従え」

 目が眩む光が放たれ、現れたのはペンダントだ。

 桃花や柳美と違い、首にかかった状態で現れた。

 違いを気にしながらも魔力を込めると、テレビで見た修験者が持っているような杖に変化した。

 記憶の中から名称を思い出す。

 確か、錫杖と言ったような。

 これでどうやって攻撃するのか疑問だが、殺傷能力が低そうなのでひとまず安心する。

「次はあたしの番ね」

 躊躇せずにさっさとナイフで人差し指を傷つけ、鮮血石に血を垂らす。

「従いなさい。あたしこそがお前の主。名を桜花。平伏ひれふせ!」

 強い口調と溢れる魔力。

 何より自信に満ちている姿は強く、小百合には眩しく映る。

 光が収まるが桜花に目立った変化は見られない。

 失敗かと小百合達が心配そうに見つめる中、榎奈が立つように言った。

 桜花が口をへの字に曲げて立ち上がると、足に光るものが着いている。

アンクレットだ。

 本人には見えないらしく、妹の桃花の指摘で気づき、魔力を送ると杖に変化した。

 小百合のような錫杖ではなく、年寄りの魔法使いが持っているような無骨でゴツイ大きな杖。

 あまり桃花には似合わないが、本人が満足そうにしているので別に良いのだろう。

「これから、武術の時間には宝具を使ってやるわぁ。早く自分の宝具に慣れた方が良いからねん」

 錫杖をペンダントに戻すと、ロケットが付いていて中が開けられる。

 写真を填められるスペースの他に、何か入れられるような小さな窪みがある。

「あの、榎奈さん、これ何ですか?」

 窪みを向けると榎奈は他の三人も集める。

「まだ教えてなかったわねぇ。これは、卵珠らんじゅが出てくるまで育む場所」

「卵珠?」

 耳慣れない言葉に首を傾げる。

「魔物は人間と違い、母体から産まれないのよん。雄の魔力を結晶化させた物に自分の血を垂らした種珠しゅじゅを妻の宝具の中へと入れるのぉ。妻の魔力を吸って成長していくと、一対の翼が生えた卵が出てくるのぉ。それが卵珠と呼ばれる魔物の、そうねぇ、人間で言う赤ん坊の姿よん」

 さすが異世界。

 魔物は母体から産まれないらしい。

 生命の神秘が感じられ、しげしげと宝具の窪みを見ていると桜花が叫んだ。

「ちょっと、待ってよ! 何で、妻の宝具にって、あたし達人間のにあるのよ」

「あはん。忘れちゃったのぉ? 初めて会ったときの花織様のお言葉をぉ」

 駄目な子ねぇ、と首を振る姿は完全に小馬鹿にしていて、ちょっとイラッとくるものがある。

 小百合はあごに手を当てて、一週間前のことを思い出す。

 花織の父の趣味により、ノルアールの女性が絶滅してしまったので、この世界の男の子どもを孕めと言っていた。

 別段、魔物のことは触れていない。

 反芻させて、嫌なことに気づく。

 花織は何も『人間』の男とは一言も言っていない。

 顔色が白くなっていく小百合に榎奈が唇の端を吊り上げる。

「小百合ちゃんは気づいたようねん。花織様は何も人間の男とは一言も言ってないわぁ。魔物は元々雌がいない種族なのよん。人間の女を妻に迎えて、子孫を残すのぉ」

「じ、じじじ人外の子どもを産めって! いくら何でも酷いじゃない!」

 喚く桜花に小百合も賛同して頷く。

 いくら母体から産まれないといっても、人外の子どもの母親になるのは怖い。

「あたくし達が孕む訳ではないし、魔物は美形揃いでお買い得よぉ。いらっしゃい、八手」

 榎奈の言葉に赤ん坊になってしまった女神の世話をしている青年が現れた。

「榎奈、呼んだ?」

 首を傾げる八手の容姿は整っていて、芸能人と言われても納得できるルックスをしている。

「この子は魔物よぉ」

 榎奈の言葉に小百合達は反射的に身構えた。

「この子は安全よぉ。まだ、きちんと紹介してなかったわねん。八手、自己紹介なさい」

「うん。八手、精霊。榎奈の、しもべ。属性、火だよ」

 言い終わると褒めて、褒めてと言うように榎奈を見る。

 犬っぽい仕草は可愛いが、八手の話し方は年齢のわりに幼い。

 小百合以外も違和を感じているようで、観察するように訝しげに八手を見ている。

「授業ではまだ言ってないけど、ノルアールの生き物は二種類にわかれているのよぉ。人間とそれ以外。だから、精霊の八手も魔物と呼ばれるのぉ」

 精霊と聞いて、小百合は何となく安心する。

 魔物という言葉は怖いが、精霊という言葉にそれほど脅威は感じない。

 イメージ的に精霊は人に近しくて、手助けをしてくれる気がする。

 何より、火の精霊を名乗る八手に危害を加えられたことはないし、花織をあやしている姿は微笑ましい。

「だけど、魔物なんでしょ? どこが安全なのよ」

 不満そうなのは桜花だけだ。

「八手はあたくしと主従契約しているのよん。人型だし、まだ幼いけど知性はあるわぁ。だから、貴女達に危害を加えることはなくってよ」

「うん。八手、榎奈の、言うこと、守る、よ」

 まかせて!と胸を張る八手に、桜花から体の力が抜けていく。

 桜花自身も八手に敵意がないことを分かっているのだ。

 魔物と言う言葉に反応したに過ぎない。

 小百合は宝具を武器形態からペンダントに戻して首にかける。

 人間の子どもにしろ、魔物の子どもにしろ、正直、よく分からないし、今は生活するだけで手一杯だ。

 先のことなど考えられないが、多分小百合は無理な気がする。

 憂鬱な思いでペンダントを弄りながら、この後の授業を上の空で過ごした。


ちょっと、詰め込みすぎたかもしれません。

それに、気持ちが前へ走りすぎて、分かりにくいところも多いかも、です。

とりあえずは、そのまま突き進みます。

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