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私の旦那様達は魔物です。  作者: 春夏秋冬巡
二章 新婚生活の始まりです。
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二話

 半年後に神殿を出て行かなければならない。

 桜花達のようにやることが決まっていれば、目標へ向けて準備すればいいのだが、小百合にはやるべきことが決まっていない。

 いっそのこと、柳美のように旅をしようかと思い浮かべるも、楽しそうな反面、戦闘や野宿という障害が出てくる。

 戦闘は避けたいし、野宿はインドア派な小百合にはきつい。

 では、桜花達姉妹のように学校に通うか。

 一つの手ではあるが生憎魔法は得意ではないし、劣等感に苛まれそうなので止めておくのが懸命だろう。

 頭を悩ますが自分一人で行動するわけではなく、夫婦で神殿を出て行くのだ。

 一人で悩むよりも、この世界の住人である柊の方が良い案を持っていそう。

「柊さん、榎奈さんとの約束でね、半年後にはここから出て行かなきゃいけないんだけど、どこか行きたいところはあったりしますか?」

「そうですね、特にはないです。小百合さんはどうですか?」

「私もないです」

「小百合さんは旅をするのとどこかに定住するのどちらがいいですか?」

 旅に憧れはするが、不安定な生活は怖い。

 あちこち危険を冒して行くよりも、一つの処に留まる方が安心する。

「できれば、定住が良いです。どこか良いところ知ってますか?」

「とっておきのところがありますよ。今から行きますか?」

 満面の笑みを浮かべる柊は、どこか悪戯を思いついた子どものような表情をしている。

 何のサプライズがあるのか知りたくて頷いた。

「はい! でも、ここから近いんですか?」

 神殿の近くにあるのはプロセルピナという町だが、そこに当てでもあるのだろうか。

 まだ、訪れたことはないが榎奈の話からすると、それなりに賑わっていて三期生の一人が住んでいる。

「いいえ。国境を跨ぐので距離的には遠いですよ。ですが、私には反則技があります」

 珍しく浮かれたように早口で捲くし立てる柊に手を引かれて外に連れ出されると、後ろから優しく抱かれる。

「私を信じて、身を任せてください」

 指示通りに目を閉じると耳元で柊が知らない言語を呟き、足元がジワジワと熱くなってくる。

 我慢できなくなるくらいになると、今度は急激に冷えていつも通りの大地に戻る。

「目を開けてみてください」

 促されて開くと景色が一変していた。

 神殿と同じように自然豊だが、ここは寂れていて空気が悪く、正直今すぐにでも立ち去りたい。

 せっかく柊が連れてきてくれたんだと思い勇気を振り絞って周囲を見渡すと、一つ大きな屋敷があるがものの、残念ながら枕詞に一応や辛うじてと言ったような言葉がつくくらいぼろい。

周りにある家々は壁に穴が開いていたり、屋根がなかったり酷い有様で中には風化しているところもある。

 人の気配は一切なく、大地に根付く草は伸び放題。

 一度視界に入った時は気のせいだと思いたかったが、壁や大地に広がる黒い滲みは血のようだ。

 戦争に敗れて寂れ、忘れ去られた村と言った印象を受ける。

「少し寂れてますけど、ここは私の領のアルテミスです。三大大国の一つであるゼウス国の領土なので、他国に比べて魔物使いが多いですよ」

 神殿があるのは同じく三大大国のユピテル国で、こちらは魔法が盛んで魔法使いが多い。

 魔物使いと魔法使いは、似ているようで異なる存在だ。

 魔物使いは名の通り魔物を使役する者で、魔物と契約して生活が成り立つものを指す。

 複数の魔物と契約しているのが普通で、才能もある程度必要だが努力でも十分伸ばせる。

 魔法使いは魔法を使う者で、魔法で生活を成り立つものを指す。

 魔物使いと違い、魔法使いは才能に左右される。

 何故なら、魔法がなければ使うことができないからだ。

 当たり前の話、魔力があっても適正がないと魔法を使うことはできない。

 小百合の場合は自然魔法(ノームと契約しているので地のみ)と特殊魔法(魔法使いの中では魔法ではないと言った声もある)、召喚魔法、契約魔法に適正があるが、回復魔法と創造魔法と古代魔法には適性がないので、どう足掻いてもまず使うことはできない。

「お恥ずかしい話、土地を貰ったはいいのですが、私は城勤めであり精霊のためあまり感心がなかったのです。訪れるとしたら兵士の演習などで、年に二、三度程度でしたので」

 苦笑しながら説明する柊に小百合は力なく笑う。

 毎年使っていたのにこのありさまなのかと頭が痛くなるが、兵士ならあまり気にしないのかもしれない。

 精神面を鍛えるのならアルテミスみたいな廃墟なところの方がむしろ良いのだ。

……多分、と小百合は心の中で弁護する。

「あの、そう言えば、他国までどうやって移動したの?」

 廃墟のインパクトが強くてすっかり忘れていたのだが、ユピテル国からゼウス国へ一瞬のうちに移動していた。

 月に一度神殿に商人が小さな馬車で来ていたので、魔法などで瞬間移動できないと思っていたので興味津々になる。

「特殊魔法ですよ。距離が遠いほど魔力を消費するのですが、今の私なら往復するくらい持ちます」

 特殊魔法と聞いて自分にできないと知り肩を落とす。

 最も魔力の少ない小百合では長距離だと無理だろうから、宝の持ち腐れになっていたかもしれないと思い直して慰める。

「半年ほどあれば、住まいも綺麗に整備できるでしょう。小百合さんが嫌でしたら、他の物件を探しますが?」

 他の物件と言われても引越しの経験もなく、ノルアールに土地勘がないので何が良くて悪いのかが判断できない。

 目の前に広がるのは不気味な廃墟だが、柊の持っている土地なのだ。

 名前も月の女神と同じだし、半年もあれば人が住めるくらいはできるだろう。

「ううん、大丈夫。ここで、ここがいい」

 柊の手を握り、小百合は決意する。

 神殿を出て行くまでの半年までには、どうにか人の住める場所にしてみせる。

 始めてやる共同作業としてはランクが高いが、その分達成したら充実感があるだろう。

 明るい未来を夢見て、心の中で拳を上げて誓った。


エリート魔法使いは魔物使いを嫌ってます。

理由として、契約によって得た自然魔法なんか、魔法じゃねー!って感じで。

後、特殊魔法は体質や技能みたいなものなので、モノにできるかは別にして習得できるから、そんなの魔法じゃねー!みたいな。

なので、学校に行くとそんな魔法使いがゴロゴロいるので、小百合は行かなくて正解でした。


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