いざ、カルタリア!
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佐々木がガタブルしながら文字通り日本の上空をマッハで横断していたその頃、――竹本たちはちょうど街の門をくぐっていた。
壁の内部にある守衛室に数名を残し、門から出てきた彼らは目の前の光景に息を呑んだ。
「カルタリアへ、ようこそにゃ。」
ミーシャが両手を広げながら自慢するように光景を見せつける。
風景はドイッチュラントのモンシャウみたいに、道の両側を整然と木骨組の家屋が並び、グレーな屋根に雪化粧が施され、窓のカーテンの隙間から暖かいオレンジ色の光が漏れている。
家々の煙突からは白い煙が上がり、どこからか分からないが優しい合唱が聞こえる。
まるで絵本の中に迷い込んだような光景だった。
両側に雪が寄せられた広い道の中央には、等間隔に木々が並んでいる。
枝に葉こそないが、色とりどりのデコレーションで飾られ、枝の間をいくつもの光が踊っていた。
LEDか?と竹本は思った。だが、よく見ると――コードもない。
それどころか、光は木の周りだけでなく、道の上空や軒先にまで浮かび、集まっては散る、を繰り返している。
その瞬間、竹本の脳が現実の理屈を手放した。
「あれは光の精霊、ルーミンだ。」
ツヴァイが一向に教えた。
「言葉は持たないが、踊りや光の強弱で感情を伝え合うんだ。」
ルーミンたちの塊が目の前を通る際にツヴァイが手を振ると光の塊が一行の周りをくるりと旋回して、次の木に向かった。
――幻聴か、楽しげな笑い声が聞こえた。
竹本は頭を振って道に目を向ける。
それなりの住民が行き来していたが、自転車以上の、いわゆるエンジン搭載の乗り物を見かけなかった。
その理由が、すぐに分かった。
上空からシャンシャンという軽い鈴の音が響き、青白い光の粒を散らしながら何かが目の前に滑り降りて来た。
「これがナフスにゃ。」
それはヴェニスのゴンドラを思わせる流線型の乗り物だった。
目の前で静止すると、鈴の音も消え、透明な天蓋がゆっくりと開き、プシュッと空気が抜ける音が響く。
内部は京紫のベルベットで覆われ、金の幾何学模様が細部にまで走っている。
足を乗せても沈まない。浮いているのに、まるで大地の上のような安定感だ。
両舷に沿って設置されたロングシートに竹本たちは恐る恐る腰を下ろす。
ミーシャが最後に乗り込むと、天蓋が閉まった。
「すぐ到着するから、上空からの絶景を楽しんで!」
ミーシャが添乗員みたいにナフスの先頭で宣言した。
すると、ナフスが動き出した――“気がした”。
目には確かに飛んでいると映るのに、加速や航空機特有の一瞬の無重力の感覚、揺れが全く感じられなかったのだ。
同乗している隊員たちは外の風景に夢中なのか全く気にしている雰囲気ではなさそうだったので竹本も諦めて外を見ることとした。
ナフスが一定の高度に達すると、他のナフス達と滑らかに合流した。
速度が上がる。風を感じないのに、景色がみるみる流れていく。
進行方向には、巨大な聖樹カルタスが聳え立っていた。
「あそこがジュペッタ広場で――」
ミーシャが外を指しながら熱心に説明する。
牧だけが真面目にメモを取り、写真を撮っていた。
数分もしないうちにナフスが減速し始め、ポーンという電子音とともに
『目的地――官庁街前。まもなく着陸します。ご着席下さい。』
機械音声がスピーカー上で流れた。
高度を下げ出したナフスからさっき聞いた鈴の音が鳴り出した。
恐らく、地上への合図なのだろう。車のバック音のようなものか――と竹本は勝手に解釈した。
『お疲れ様でした。官庁街前です。良き一日を。』
天蓋が開きながら、アナウンスがお見送りしてくれる。
ナフスから降車すると、目の前に山のような威圧感を持つ巨木が天高く聳え立っていた。
これが、――聖樹カルタスか。
高さもさることながら、その太さは明らかに地球上のどの建造物を軽々と飲み込めるほどで、もはや「木」と本当に呼んでいいのか迷うレベルで規格外だ。
竹本は圧倒され、思わず上を仰ぐが、頂は雲の上に隠れて見えない。
地上に出ている根の一部だけでも隣の4階建ての建物より太く高い。
よく見ると、聖樹の下の方で枝分かれしている部分、下と言ってもかなりの高さがある部分から、大量の水が溢れ出している。
それが、木の幹に沿って幾つもの滝を形成し、木の周囲の湖面に流れ付く。
一部は、枝を伝い、水のカーテンが湖面に降る。
上の方の枝では気温が低いのか、凍りついた水が白い氷翼を形成していた。
竹本は、絶景に息を呑み、やがて視線を聖樹から離して、周りを見渡した。
ここは人々、――いやカルタリアの住民で溢れている。
多くは大きい犬や猫の姿で歩いていたが、何人かは人の姿でカフェらしき場所のテラスで寛いでいた。
「よし、みんないい時間ですのでついて来て下さい。」
ツヴァイが見計らったかのように絶景の虜になっていた隊員達に告げた。
牧、含めフリーズしていた隊員たちはツヴァイの声にハッとして、急いで整列する。
凄いことがこれ以上続くと、情報のオーバーロードでみんなショートするだろうな、そう竹本は確信した。
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