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葦による約千文字の短編集  作者: 風見鏡花
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木立と倒木は空からの木漏れ日に

 葦は倒れていた。時に霊峰と呼ばれる巨大な山の麓で、細い木漏れ日を何本か浴びながら、葦はただ一人横になっていた。




 性別や名前、その他についてはこの際全くの意味を持たないので省略する。それこそ、それを書物だとか野菜サラダだとか、そう呼んだところで何の意味もなければ、不都合もないだろう。ただし、書き記すことについてはその限りではない。よって、今後それを葦と筆記することにしよう。




 葦は周囲に生い茂る木々を眺める。それらは、各々好きな方向を好きなだけ目指して、ひたすらに個性をふりまいていた。


「変なことに必死になる」


葦はそう言って、木々を鼻で笑った。


「それぞれ違う姿形をしていても、他に一つとして同形の樹木が存在しなくとも、しかしそこから個性を出さんとする必死さが窺い知れる」


 ふと、葦は倒れている木を近くに見つけた。それは根元近くの幹が折れ、幾つもの枝と共に地へ突っ伏していた。木はもう完全に水分を失い、少しの風でも皮の一部が粉になり、それが空を舞うほどだった。


「哀れだな」


葦は目を細めた。


「それぞれが違いを出そうとすることには、まったく何の意味も感じないが、きっと此奴もそれに必死だったのだろう。何の天災か知らないが、しかしこの姿は見るに堪えない」


そう口にした時、風がそこら中の樹木を揺らした。瞬間垣間見えた青空と太陽に、葦は思わず息を呑んだ。


 やがて、葦は大きく頷いた。にやけたその頬は、やっと得心がいったと言わんばかりだった。


「やはり個性を追うことに意味などなかった。たとえ見た目は違えても、その本質は何も変わっていないではないか」


 葦はあまりの滑稽さに笑いを禁じえなかった。しかし、葦は少ししてそれをやめると、突然立ち上がり、倒木と木立を見比べて言った。




「果たして、より哀れなのはどちらか」




 その時、木漏れ日が忽然として消え、しばらくして雨が降り始めた。水滴はしばらく地面を打ち、そこに溜まった水は葦の姿を映し出した。水を覗き込んだ葦は、その形貌にふたたび愕然とした。




 そこに、他者を笑う鼻はなかった。




 そこに、息を呑む喉首はなかった。




 そこに、細める目などなく、当然、水を覗き込む目もなかった。




 「一番哀れなのは――」




 葦は倒れた。それは、やはり空へ向かってそびえたつ巨峰の麓に、細く降り注ぐ雨に打たれながらも。




 ただ、葦は倒れていた。




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