第一章 一日千秋(4)
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むう…電話を切られてしまった。やっぱり、二時間も早いと、アミちゃんはでんわにでられないのかな?がっこう、というのは、通信機器を使えないの?そもそも、がっこうって…?
「政府認定公式教育機関、であっているの、かな…?…いや、きっと違う」
私はそこに通ったことはないけど、一応存在なら知っている。政府による、政府のための、政府による教育をする場所。要するに偏った教育しかしてくれない。確か、6歳から15歳の富裕層の子供が通うんだっけ。そこに通っている人たちはみんなエリートとして、政府に迎えられる。そこに通えない、その他大勢の人たちは、―――――
いけない、色々思い出してはいけない。この悔しさ、怒り、憎しみ、すべて、アミちゃんに私のいた世界を説明するときの為に、取っておかなければならない。冷静さを欠かないように、感情を込めて。
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「んんん?おお、グミちゃんから電話だ!」
ただいま、お昼ごはんの時間です。とってもとっても楽しいお昼休みなんです!予想どうり、グミちゃんから電話がかかってきたみたいですよ!いざ!着信を取らん!!
「はい、もしもし、アミです!」
「…なんですか、もしもしって。まあいいです、こちらムーブ、通信は滞りなく順調ですか?」
「???なに、そんな難しい言葉つかっちゃって!それに、”ムーブ”ってなに?」
「…あッ、すみません」
なにか、少し後悔したような、うっかりしてしまったかのような声色に聞こえましたよ?ま、気にしないようにするのがいいんでしょうけどね!
「なんで謝るの?まあいいや、電子レンジは使えた?」
「使えないから電話しているんでしょう。なんですかこれは。とりあえず、中にお皿ごと食べ物を入れたんですけど、それからどうするんですかこれ」
「えっとねー、まずダイヤルを回して…」
かれこれ10分。いや、チンできた喜びを伝えてきた電話をいれて、13分。全く、なんなんですか、グミちゃんのいた世界、ってのは!電子レンジの使いからすら教えてくれないんですか?!…まあ。喜んでいたのは、電話越しでも分かるくらい可愛かったから、よしとしましょう。あ、関係ないですけど、ウチの電子レンジ、20年選手なんですよ!だから、ダイヤルを回す操作方式なんですけどね!
「…グミちゃんとの電話、終わった?」
机を挟んで向き合ってるモモからそう尋ねられ、私ははっとします。モモの存在をすっかり忘れていました!モモは、お弁当に手を付けずに、私の電話が終わるのを待ってくれていたようです。
「ご、ごめんモモ!さ、お弁当食べよ!」
「グミちゃんって、なんだか不思議なコ、だね」
お弁当の包みをほどきながら、モモがそう言います。…私は、そんな風に人に興味を持つモモのほうが不思議です。モモは、普通あまり他人に関心は示さないのです。…あれ?なんで私、モモと友達になれたのでしょうか?ま、運命ってやつですかね!
「モモがさ、人に興味持つなんで珍しいね!確かに、グミちゃんかわいいもんねー!」
不自然じゃない程度に、私はモモを茶化しました。しかし、彼女は依然として真面目な顔のままです。
「なんだかさ、グミちゃん、ここ(・・)のこと、知らなさすぎる…?」
私はドキリとしました。何時になくモモの目つきが真面目で鋭いのです。ここ(・・)、とはどこのことでしょうか?まさか、モモになにかばれているのでしょうか?!多分、その時、私は動揺を隠し切れていなかったと思います。
「さ、さっきも言ったじゃん!グミちゃんの家庭、ちょっと特殊なの!両親変わった人で、私もちょっと苦手な感じで…だから、グミちゃんともほとんど初対面なんだ、ほら、いきなりあんな歳の子供預ってほしいなんてさ、ちょっと変わってるでしょ?」
我ながらかなり苦しい言い訳です。多分、モモは絶対納得してくれません。
「…ふうん。なるほどね、それはかなり変わった御両親ね。グミちゃんも大変なんだね」
モモは、お弁当を食べ始めながら、そう言いました。…あれ?案外、あっさり信じてくれました。
「それじゃ、アミがグミちゃんにいろんなこと教えてあげとかないとね。預けられて、かえってよかったのかもしれないね」
「う、うん、そうだね!料理とかも教えてあげなきゃね!」
信じてくれたのは嬉しいのですが、まあ、モモは私の大切な親友ですからね!こんなウソを信じさせて少し申し訳ないですし、事が済んだ後に、なにかお菓子でも作ってあげましょうか!
「…アミ、早くお弁当食べないともうすぐチャイムなるよ…?」
そうモモに言われて時間を確認すると、もうあと五分ぐらいで予令がなってしまう時間です。私は、急いで弁当を開けると、はぐはぐと早食いを始めました。モモが珍しくニコニコしていましたが、そんなのに気を取られる余裕も有りませんでした。ちょっと機嫌がいいのかな?って思ったぐらいです。親友といえども、モモの心の中までは少しよく分からないところがあるのです。そんな不思議さもあってこそ、モモなんですけどね!