第一章 一日千秋(3)
「ねえ、アミ。あの、親戚のグミちゃんっていう子、いつもあんな感じ、なの?」
モモと一緒に学校へ向かっていると、天気の話の次にそんなことを聞かれちゃいました。私は動揺しないようにがんばりながら、それに答えます。
「…え?!あ、あんな感じって…?」
「うん、人見知りなのかなって」
「うーん…」
とりあえず、最初の第一声がおなかすいた!と、あなた誰よ?!だったあたりからして、そこまで人見知りな感じはないのかなあ、と思います。でも、おなかが落ち着いて、私が誰だかわかったあたりから、理性を取り戻したのか、急に大人びてしまったきがします。やっぱり、人間食べるものがないと生きていけないんですね!
「…アミ?どうしたの、ずっと黙ってる」
「あ、ごめんごめん!えっと、もしかしたら人見知りなのかもしれない!」
人がびっくりマーク(exclamation mark)をつけたくなるのって、あまり親しくない人とコミュニケーションするときや、うまくごまかしたいとき、らしいですね!確証はないです!ごめんなさい!!!
「ふうん、親戚なのによく知らないんだ…?」
すこしジト目でモモが尋ねてきちゃいました。まずいですね、疑われてます。
「遠くの親戚、なの!私も片手で数えられるほどしかあったことがなくて、あずかれって言われた時も困ったよ~ほんとに~」
「ああ、なるほど」
どうやら納得してくれたようです!そこからは、彼氏にするなら年上が年下か、年上なら何歳までOKか、みたいな話をしていたら学校についてしまいました。めでだしですね!グミちゃんのことは、なんだかしっかり隠し通してあげなきゃならないと思うんです。―――問題は、母が帰ってくるとき、ですね!まあ、その時にどうにか策を考えればいいでしょう、幸い母が帰ってくるのはまだ何週間か先の話です。それまでに、グミちゃんをおうちへ返してあげなければ!!
―――――――
「…でんわ、というのは無線通信機のことなの?」
彼女―――アミちゃん、はでんしれんじの使い方が分からなかったらわたしのすまほにでんわをしてと言った。でんわというのは、確か通信手段だったようなきがする。そして、通信手段といえば、無線通信のことだったきがする。それを実行する機械のことを、無線通信機と呼んでいた。だから多分、でんわというのは無線通信機のことなのだろう。
さて。
私は、案の定、でんしれんじの使い方がよくわからなかったわけで。まだ時間は9時過ぎぐらいだ。確かこの時代のアミちゃんぐらいの年齢だと、“学校”と呼ばれるところに行っているはずだ。この世界線の学校制度がどうなっているか知らないけど。世界線について、いつか、ううん、近いうちにアミちゃんにはしっかり話さないといけないのに。私がこの時代、に来た理由。そして、世界線の話。今の彼女に、理解してもらえるだろうか。
いや、きっと大丈夫。彼女はきっと、彼女のままだから。きっと、理解できるはず。
私じゃないと、これなかったこの場所。
ずっとここ滞在できるわけじゃない。しててもいいけど、仲間に申し訳なさすぎる。
彼女がいなければ、仲間の元にも帰れない。やるしかない。
……そのまえに、腹ごしらえ…。
考え込んでいて途中までしか食べていなかった朝食に手をつける。本当に、この時代の食物は豊かだ。栄養バランスも整っている。サプリメントなんて使う必要もない、まずいものを無理して食べる必要もない。そんなことより鮭おいしい。味噌汁おいしい。ごはんふわふわもちもち。
「…?あの折りたたまれた白い長方形の物体はなんなの?」
ふと、気になったものがある。それは、折りたたまれているようであり、開いてみるとあっさり開き、上面だった長方形の内側には真っ黒くて真っ黒い周りに長方形の外側と同じ白い縁取り、下面にはなにやらボタンのようなものがたくさん並んでいる。そこで、私に天からのひらめきが訪れた。
「これは…噂に聞く、ぱあそなるこんぴゅうたあ…?!」
特権階級しか使えないようなものを、なぜアミちゃんが…?!それより…使ってみちゃ、駄目なのかな?
「ううう…我慢しよう。もし壊したら、アミちゃんがすごく怒るかもしれない」
と、そこで自分のどこか緩んだ脳みそにはっとさせられる。いけない。もうちょっとしっかりしなくては。この時代はどうもいけない、ずっといたら平和ボケしそうだ。帰れなくなる。
「そういうわけで、真面目にでんわの使い方を探ってやろう」
ぱあそなるこんぴゅうたあに構うより、今はアミちゃんにでんわをするための無線通信機の使用方法を調べなければ。わたしは、アミちゃんに貰った、電話番号というものを参考にしてみようと目論む。
「…この080から続いていく数字を、無線通信機に入力すればいいのかな」
私は、数字の書かれたボタンを押していく。ん、しかしこれはどうやら入力できていないようだ。…もしかして、この数字のボタンのようなものの隣にある、無線通信機と線で結んである良い具合に握れそうな長方形の物体が、何か関係しているのか?ちょっと、手に取ってみよう。
「うわ、なんかツーって音が…!」
少々びびりながら、その長方形の物体を持ったまま、私は数字を入力する。すると、やはり私の目論みは正しかったのか、ぴ、ぽ、ぱとちょっと間の抜けた音がして、すべての数字を入力し終わったら、さっきのツーっという音が、ぷるるるるっといく軽快な音に変わった。どうやら、成功したのだろう。一人ほくそ笑む。
…ん、待てよ、アミちゃんはでんわをかけるのは、12時半ごろにして、と言っていた。でも、今何時だろう。
………10時半ではないか。二時間早い。アミちゃんに迷惑かかったらどうしよう。………まあいっか。
―――――――
教室に、ベートーヴェンの交響曲第九番が厳かに流れています。はい、私の着信音ですね!!誰!!!
「おい、今、第九流したやつ、まだ年末じゃないぞー?授業中はマナーモードにしておけと、あれほどいっただろー?」
音楽の時間ならなんとかごまかせましたでしょうけど、残念ながら今は数学の時間です。私、数学はいつも平均点どまりです。ちなみに、得意教科は世界史なんです!
…まあ、そんなことおいといて。
みんなが私のほうを向いてクスクス笑っていて、とても恥ずかしい思いをしています。学校が、ケータイ類の持ち込みを禁止していなかったところだけ、セーフといたしましょうか。いったい誰がこんな時間にかけてきたのだろうとちらっとポケットに入ってるスマホを盗み見ます。家から、ということはグミちゃんですね。やはり、少々ハプニング発生でしたね。まあ、マナーモードにしておけ、ということなのでしょうけどね!そんなことを考えていると、隣の席のモモからひそひそ声でぼそぼそと話しかけられます。
「…アミ。もしかして、グミちゃんから…?」
「うん、そうみたい。多分、使い方よくわか…ううん、えっと、あの子ね、家では電話しちゃだめなんだって!」
「…ふうん。確かに、家の電話は知らない人からのはとっちゃいけないっていう人は昔いた、みたいだけれど…珍しいね、グミちゃん家」
「う、うん、両親、すこおおおし変わったひとなんだって!」
「ほら、そこ!!!岸森と城田!真面目に授業しろよー」
数学の先生に注意されてしまいました。仕方がないので、私たちはそこでひそひそ話をやめて、数学の授業に没頭しようと決めたのでした。




