第一章 一日千秋(2)
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…昨日は、私、少し混乱してしまいました。
だってだって、いきなり年下の可愛い女の子から、タイムスリップだとか、異世界とか言われちゃうですよ?しかも、謎認定してある女の子からですよ?もう、超謎認定しちゃいたいぐらいですね!
「…おはようございます、亜美子さん」
「あ…?!…あ、おはよう、直美ちゃん!」
私は、朝食を作る手を休めていたことに気がついて、お料理を再開しました。今、そんなことでぐるぐるしていたら、包丁で指を怪我してしまいます。今日の朝の献立は、わかめと油揚げの味噌汁に、鮭の焼いたの、それにほっかほかのご飯です。オーソドックスな日本の朝ご飯です。私、いつもちゃんと朝ご飯、作るんです!すごくないですか?それに、早起きもするし、栄養も満天だし、とても健康にいいんですよ!
「はい!直美ちゃん、朝ごはん丁度完成したよ~!昨日の夜もそうだったけど、直美ちゃんって丁度料理が完成するときに目、覚ますよね!ふっしぎ!」
「…!!」
直美ちゃんは、私のその言葉を聞いた時、なぜか少し動揺しました。しかし、私はそういうの、あんまり察する能力はぜんぜんないので、気のせいかな?と、思いました。それより!またまた名案を思い付きました!
「ねえねえ直美ちゃん!直美ちゃんのね、あだ名、考えたの!」
「…へ!?」
「んふふ~、向こうの世界とやらに、あだ名ってものがあるのかわかんないけど、仲のいい人同士が、呼びあう、親しみを込めた名前のコトだよ!」
「あだ、な…。あだ名っていう概念ぐらいならありますよ…」
「またまた、むっずかしい言葉使っちゃって!じゃ、発表します!」
私は、ここぞとばかりにがばっと立ち上がりました。
「…。グミちゃん!!」
「…!!」
またもや、直美ちゃん…もとい、グミちゃんはとてつもない驚きの表情を見せました。…そうだ!
「んじゃ、私のことはアミってよんでくれていいからね!グミちゃん!」
私がニコニコしていると、グミちゃんは少しばかり落ち着きを取り戻したらしく、こう口にしました。
「…えっと、はい。あだ名、折角考えてくれたので、使わないわけにはいきませんね、使ってもらっても、構わない、です。あ、…アミさん」
「アミさん…?なんかへんじゃない?アミちゃんでいいよ!」
「へ、目上の方へちゃん付け…?それは、そんなことしちゃっても大丈夫なんですか?」
「大丈夫も何も…。…」
私は、ここで少し気になりました。
グミちゃんの、昨日言っていたことが。
ここじゃない、別の世界から来た、ということ。さらに、タイムスリップしてきた、ということ。
私は、多分、すぐには理解できないかもしれません。でも、彼女が何をしに、ここへ来たのか。服がボロボロになってまで。こんな年齢なのに。幼さを必死で隠して、強がってて。
…私には、聞く義務と権利があると思うのです。
「ねえ、グミちゃんのいた世界って…」
そこで、激しいチャイムの音が、私たちの会話を遮ります。一瞬、なんのことやらさっぱり分かりませんでしたが、多分、友達の桃子です。通称、モモ。
「ご、ごめん、私、もう学校行く時間!!友達が来ちゃった…。そうだ、今日はこの服着ててね、昨日のはクリーニング…もとい、服がすっごく綺麗になるお店にだしておくから!」
私は矢継ぎ早にそう言うと、何か言いたそうだグミちゃんに、昔着ていた、厚めの長袖ワンピースを手渡しました。茶色の、もみじ柄です。季節感満載です。
「じゃあ、お昼ごはんは冷蔵庫に入ってるからチン…って、電子レンジ分かる?」
「…。分かりません。そもそもでんしれんじというのはあの黒い四角い箱のようなものでいいんですか?」
「そうそう、昨日私が使ってたやつ!分からなかったら、12時半ぐらいなら休み時間だから、この番号にかけてきて」
私は手早くスマホの番号をメモに書くと、グミちゃんにそれも手渡します。そして、鞄を手に取り、玄関へと急ぎます。
「モモ!!ごめん、遅くなった!」
「…。5分23秒遅刻、だよ」
すこし膨れたような顔をして、モモはそう言いました。拗ねているのです。かわいい。
「じゃあ、グミちゃん!!いってきまーす!」
私は、リビングに向かってそう声をかけます。すると、モモが少し驚いたようです。
「…アミ。誰かいるの…?」
「あ、ええっと…親戚の子!預ってるの!」
「ふうん…?」
すると、玄関そばの壁から、ひょこりとグミちゃんが顔をのぞかせているではありませんか!かわいい!
「…。…こんにちは、アミちゃんのお友達さん」
「…。こんにちは、グミちゃん」
お互い、あまりしゃべらない同士のあうんの何かか分かりませんが、二人はしばらく見つめあっていました。
「…?モモ、学校おくれちゃうよー?」
「…!!は、そうだった。アミ、行こう」
「よっしゃ、今度こそ行ってきます、グミちゃん!」
私は、グミちゃんへ向かって軽く手を振りました。グミちゃんは、ほほ笑んで手を振っていました。が、少しその笑顔に曇りが見えたのは気のせいでしょうか?