第三章 一虚一実(1)
――――――――――……?
―――――ん…。
私の前に広がっているのは、なんでしょう……崩壊した、町?ところどころ炎も上がっていて、なんだかとても怖いです。まるで、戦時中の写真をカラーで、リアルで見せられているような……。
……分かりました、これは夢を見ているんですね。私の体は実体がなく、映画のように映像を眺めているだけのようです。
どんどん崩壊していく街と逃げ惑う人々をぼんやり眺めていたら、いつの間にか場面が変わりました。壁が一面白い、大きな部屋に、たくさんの人と一緒にいるようです。各々に許されているスペースは、ぎりぎり眠れる程度、のようですね。人々の表情はとても暗く、落ち込み、絶望しきった顔、でも、どこかほんの少しだけ希望を持とうとしている人も、少数ながらいる、という感じですかね。なにかこそこそと話している人たちもいますが、何を話しているかまでは私にはわかりません。またもや、私はぼんやりと眺めているだけです。
気付いたら、また別の場面にいました。となりに、誰か男の人がいます。でも、なぜだか上手く思い出すことができません。……誰かに似ているような気がするんですけど。誰でしょう…?
あ、また場面が変わりました。こんどは、小さな女の子がいます。…うーん、見たことある子だと思うんですけど……。よし、夢の中でがんばっちゃいますよ!私は、その女の子に意識を集中させ―――
って、グミちゃん?!
「グミちゃん?!」
がばあ!っと私はベッドから起き上がりました。って、ここは…自分の部屋じゃない…?
あ、そうでした。思い出しましたよ。昨日は怒号の一日でしたね。色々あって、こっちの世界に来て、この世界のことを聞いたりして。…そして、今日は。
「んあ…?ああ、うーん…。あれ、なんで亜美子がここに…」
おや、拓海が起きたようですね。なかなかに寝ぼけてますね。
「おはよう、拓海。まだ寝ぼけてるの?」
「ん…えーっと………。……う、うわあ!思い出した!」
寝起きの低血圧は相変わらずですかね。
「寝起きの低血圧、相変わらずだね。ちっちゃい頃さ、よくお泊り会とかしたよね」
「…あ、あうあ?!あああ、そう、そう、そうだったな……うん……」
なぜだか拓海がしどろもどろしてますね。なかなか見れないので面白いししばらく眺めておきましょう。
「んー…と、いま何時なんだろ。ここ窓ないしね」
「あ、ああ、うん、何時なんだろうな」
「多分もう朝だよね。すっきりしているし。…あれ、拓海、制服のまま寝たの?渡された服に着替えておいたがいいんじゃない?」
「あ、ああ、うん、そのうちな」
「竹田川さん来たらどうするの。ほら、寝起きはつらいかもしれないけど早く」
「あー、えっとだな、まだ起き上がれなくてだな…」
「へ?なんで?」
「あー…。うーんと、男の事情とかなんだかそんなやつだと思ってくれれば……」
「?」
やっぱり訳の分からないことをたまに言いますね、拓海は。まあ、まだ竹田川さんが来る様子もないですし、しばらくそっとしておきますか。
「二人ともおはよう!調子はどう?」
私たちが目覚めてから、およそ20分ぐらい経った頃に竹田川さんがやってきました。拓海も、男の事情(?)とやらが落ち着いたようで、すぐに着替えられたみたいです。よく分かんないけど、まったくやれやれです。
「はい、おかげでスッキリ眠れました!」
「俺も、まあ普通に熟睡っす」
「そう、それはよかったわ。あ、そうだ、朝食のスープを多めに作ったからこっそり持ってきたわ。水筒からだから味気ないかもしれないけど、我慢してね?」
「いえいえ、そんな、お気遣いなく」
「そうっすよ、この世界って、食べ物も貴重なんじゃ…」
「ううん、大丈夫よ。確かに、飽食ってわけでもないし、食べるものは多いわけじゃないわ。でもね、普通に無理なく暮らしていける程度にはご飯は食べれる。たまに、ちょこっと贅沢なものも食べれる。……言論の統制や、政府からの抑圧なんかがなければ、十分に暮らしやすい場所よ、ここ」
私は、渡されたコップに注がれたスープをこくこくと呑みながら、竹田川さんの言葉を聞いていました。拓海も、神妙な顔になっていますね。
「ああ、ごめんなさいね、食事中にこんな話!さあさ、少ないけどパンもあるから食べてちょうだい」
手のひらサイズのパンも渡され、十分な朝食を摂ることができました。…竹田川さん、いい人ですね。
「うん、よし!それじゃ、腹ごしらえも済んだことだし、いよいよ外に行くわよ。……心の準備はいい?」
「はい!」
「うっす!」
「いい返事ね。ああ、少しだけ注意することがあるわ。しっかり頭に入れておいて。まず、私から離れないこと。そして、極力声を出さないこと。とにかく、これは最優先事項。私から離れたら、あなたたちは部外者とばれるわ。私の側で、私が指示したように行動してちょうだい。声を出すのも同様、朝礼の係りの一人に、耳がいいのが一人いるわ。聞いたことない声を聴いたら、怪しんで整列点呼になってしまうでしょうね。そうしたら、貴方たちの身柄は政府に捕えられたも同然よ。これがどんなに恐ろしくてどうしようもないことか分かる?」
「…はい」「…うっす」
「うん、二人ともしっかり分かってるみたいね。それなら大丈夫。後は、この世界の雰囲気を感じ取る事。そして、その雰囲気に極力馴染みなさい。馴染めるようになったら、工場に紛れ込んでもばれないわ。ああ、工場っていうのはね、一般市民の私たちが働いている場所よ」
「工場…で、いろんなものを作っているんですか?」
「そうよ。麦から、米から、野菜の農業全般や、日の当たる場所で牧畜もしているわ。…まあ、私たちには動物の肉なんて滅多に口に入らないんだけど。まあ、そんなことは一旦置いておきましょう。また質問があったら、朝礼の後にお願いね」
竹田川さんは、いろんなことを矢継早に述べ終わると、くるっとドアの方を向きました。
「…それじゃ、行くわよ。覚悟を決めてね」
ガチャ、とドアを開け、それに私たちは続きます。入口に近づくたびに、私の心臓はドキドキとうるさいです。
「亜美子?大丈夫か?」
ああ、やっぱり拓海には見抜かれてましたね。小声でささやくように、私の心配をしてきます。
「…うん。結構緊張してる。でも大丈夫」
多少、顔がこわばってしまったでしょうか?でも、上手く言えたと思います。すると、拓海が手をすっと握って来ました。
「ほら、勇気のおすそ分け。ここまで来たんだ、腹くくってこの世界、変えてやろうぜ」
にひひっと笑う拓海に顔に、なんだか小さい頃に戻ったような気になって、思わず私もにへへっと笑ってしまいました。
「やっぱり、亜美子は笑ってる顔が、かわ…あ、いや、似合うよ」
「?」
なんでどもったのか、と考えていると、
「さあ、この扉を開けたら集合住宅の一階に住んでるregiusのメンバーの家に出るわ。実質外よ。行きましょう」
竹田川さんのその声で、ハッと今の状況を思い出し、気を引き締めなおしました。そして、竹田川さんにつづいて私たちは異世界へ踏み出したのです。




