見直し!そして決意!
この日、学校から帰ってくると、豊は明子から、手術の日時が決まった事を告げられた。
来週、6月17日の日曜日に手術が行われる。
16日に迎えの車が来るとの事。
豊はショックだった。
何故こんなに早く、手術をしなければならないのか。
最近は記憶も安定してるし、学校でもちゃんとやっているはずなのに。
テストは来週、順次返ってくると思うが、きっとそれなりの点数は取れているはずだ。
テストの結果を見ずに、どうして手術を決めるのか。
そしてその手術は、幸恵を死へと向かわせるものであるはずだ。
此処で豊に、ある疑問が浮かんだ。
音子が最初にジャンプした時、未来の幸恵に会っており、そこで幸恵から色々と話を聞いている。
幸恵がその時の人だという保障はないが、こんなに似ている人がもう一人いるとも思えないし、名前も幸恵で一緒だ。
だとしたら、こんなに早く、幸恵が死ぬ事はあり得ない。
そして、実はもう一つおかしいと感じていた事があった。
ベクトルラインが、思ったよりも早く東京に到着しそうな事だった。
豊はすぐに部屋に音子を連れて行き、テーブルに地図を広げた。
「この町にいた人は、10人か11人前の人だったんだよね?」
「そうなのさ。たぶんそんなもんなのさ。」
豊は、人数と距離のバランスが少しおかしい事に気が付いていた。
だけどそれは、飛んでいる時間にも差があり、この後は詰まっているのだろうと判断していた。
だけど普通に考えたら、このままいくと、ラインが東京湾へと抜けそうな勢いだった。
「じゃあココの前にはどれくらい?」
「いっぱいなのさ。幸恵も入れて10人以上はいるはずなのさ。」
もしこの音子の言葉が正しければ、同じ時間を飛んだとして、ほぼ中間地点になるはずだ。
だけど、東京都心を事故現場とするならば、明らかにバランスが悪い。
「音子、世界線の移動中、その世界の中で、大きく移動した事はあるか?」
豊は勝手に、世界線の移動は、休憩と飛躍を繰り返してやってきたと思いこんでいた。
でも、生活に必要な知識は覚えていたりするし、それなりの時間、人間世界で生活した事になる。
前半は人間の姿で、後半は猫の姿が多かった事を考えると、ますます前半の飛躍は、休みが多かったのではないだろうか。
そして人間としての生活が長ければ、飛躍を休んでる時間が長ければ、地図上で大きく移動する事も十分あり得る。
「自動車にも乗ったし、電車にも乗ったさ。」
音子は、電車も自動車も、初めて乗る時から問題無く乗っていた。
大きく移動があって当然じゃないか。
そして、まだ11カ月余裕があると考えていたが、それにも疑問がわいてきた。
その時間軸での滞在が長ければ、その分時間は戻される。
過去へ行くという事は、昇りのエスカレーターを、逆行して降りていくようなものだ。
たとえば1日過去へ飛んで、その世界で1日過ごせば、結局出発点へと戻ってくる。
豊は漠然と、1年より少ないとは思っていたが、半年くらいはあるものだと軽く考えていた。
もっとしっかり、まずは日にちを特定するべきだった。
音子の1年ってのを、そのまま信じたのが失敗だった。
でもまだ、終わったわけではない。
「音子が事故にあったのは、いつ頃だ?寒かった?暑かった?」
豊はその答えをなんとなく予想していた。
きっと、今くらいの気候だろうと。
予想は的中した。
「う~ん。今くらいだったさ。もう少し暑かったかもしれないのさ。」
音子の言葉、これで豊はほぼ確信した。
場所は東京都心ではなく、これから幸恵が向かう先、すなわち、手術が行われる場所に近い事を。
豊は部屋に音子を残し、明子の部屋のドアをノックした。
「すみません。教えてください。手術は何処でやるんでしょう。」
豊がそう言うと同時に、明子が部屋から出てきた。
その顔には涙のあとが残っていた。
「もう、これ以上頑張っても、きっと無理よ。」
明子は実は、幸恵を助ける為に、全てを暴露する事も考えていた。
そうすれば、もしかしたら手術を回避する事ができるかもしれない。
だけど、できない理由があった。
それは愛する人を裏切る行為に相違なかったから。
結局明子からは、病院の場所は聞き出せなかった。
その後幸恵にも尋ねたが、場所は知らされていなかった。
豊は自室に戻って考えていた。
自分は、どっちを救いたいが為に、こんなに必死になっているのだろうかと。
幸恵を救いたいのか、それとも音子の命の恩人を助けたいのか。
答えは簡単で、両方助けたい。
手術の日時だけは、既に分かっている。
豊がやらなければならないのは、来週の週末までに、明子から手術をする病院を聞きだし、事故現場を特定する事。
そこから命の恩人を探しだし、会う事。
そして、手術を中止させる事。
豊には正直、自分にそれができるのか疑問を感じていた。
そして、自分がそれをやって良いのかも。
だけど音子を見ていたら、それはそんなに難しい事ではなく、絶対にやるべき事であると思えた。




