イジメ?解決?
昼休み、豊はいつもと同じように、三杯と食堂で食事をしていた。
今日は珍しく、豊はウニイクラ丼を頼んでいた。
そんな高価なメニューが、ただの高校の学食に出るのかは疑問だし、豊自身、そんなメニューがある事を今日まで知らなかった。
だけど今日豊は「嫌いな物でも食べてみるか!」とメニューを探したところ、このメニューを見つけたというわけだ。
もし豊が、高校を卒業するまで、そんな事を思わなければ、このメニューは此処には存在しなかったかもしれない。
これは、豊の変化から生じた、この世界の変化であったと言えよう。
さて、二人の会話は、いつも大した会話ではないが、いや、偶に真面目に話す事もあるが、浮いた話というのはまずあり得ない。
お互い彼女もいないし、好きな人もいないし、特にモテるわけでもないからだ。
三杯は意外にモテそうだが、誰とでも仲が良い男ってのはモテなかったりするもので、三杯も例外ではなかった。
まあそんな二人の会話であるにも関わらず、今日は何やら風向きが違った。
「もしかして豊ってさ、最近、えーっと・・・渡辺椎名だっけ?おまえんとこのクラスの可愛い子。あの子と仲良いのか?」
豊には思いがけない三杯の発言だったが、特に想定外の話でもなかった。
別のクラスの三杯が、こんな話を振ってくる事は意外だったが、こういった話はみんな好きだろうし、話題になるのは理解できた。
「ん?どうしてだ?別に悪くはないけど、普通に友達だと思うが。」
豊は、そんなに話題にされてもよろしくないので、ごく普通の関係を主張した。
しかし、豊が友達だと言った事で、三杯は、そうとう仲が良いと判断した。
なんせ豊が友達と言えるのは、この学校では三杯だけしかいなかったわけだから。
「へぇ~やっぱりな。それで山口たちがイジメてたわけね。」
三杯の言い方は、食事をしながらの何気ない発言だったが、内容はスルーできるものではなかった。
「どういう事だ?椎名がイジメられてたのか!?」
豊は少し険しい顔をして、三杯に詰め寄る勢いだった。
「大丈夫だよ。渡辺・し・い・な・さんは、山口たちに負けてなかったよ。」
三杯は尚も落ち着いて食事を続けながら、名前のところを強調してこたえていた。
もちろん、名前を強調した意図には、豊もすぐに気付いたわけで、少し顔を赤くしていた。
豊は別に、椎名に恋愛感情を持っているつもりもないし、付き合いたいとも思わない。
だけど、女の子の友達ってだけで、豊は照れるに十分の理由になっていた。
「そっか。なら良いんだけど。」
豊は、この話は此処までと言いたげに、ウニイクラ丼を口の中に収めていった。
だけど豊にとって不味いと感じるその食べ物は、なかなか減らずにいた。
「豊は鈍感だから一応言っておくけど、山口な、1年の時からお前に気があるみたいだぞ。」
これもまた三杯は、呼吸をするが如く、自然に言葉にしていた。
だが豊にとっては、それは聞き捨てならないものだった。
「え?それはないだろ?!僕はほとんど喋った事ないし、山口さんの顔すら思い出せないぞ?」
こちらが知らずとも、相手が想ってくる事はある。
アイドルなんて、コンサートを見に来てくれた人のどれだけの顔を覚えているだろうか。
だけど、ファン達は熱い想いをアイドル達によせるのだ。
豊は自分の言った事に矛盾を感じつつも、言わずにはいられなかった。
「好きになるのは相手の勝手だからな。まあその部分は良いとして、1年の頃から、山口は豊に近づく女をイジメていましたとさ。」
三杯は、別にこの事を隠していたわけではない。
ただ、特にそういう話にならなかったからしなかっただけ。
豊も浮いた話をするのは好きではないようだし、話したところで何も変わらなかっただろうから。
でも今回、椎名のおかげで、この事が自然と解決しそうだし、もうひとつ気になる事があったから、三杯は話した方が良いと判断したのかもしれない。
豊は、どうこたえていいのか分からなかった。
ただ単に「イジメは駄目だろ!」とか「やめさせないと。」なんて言うだけなら簡単である。
それに三杯の口ぶりだと、既にどうやら椎名が、解決した後のようだ。
今更何か言っても、口だけの政治家みたいだし、豊はただ一言「そっか・・・」と小さな声でこたえた。
でも、話はそこで終わらなかった。
「そう言えば先週の月曜だったかな、放課後、桜花町の駅のあたりで、山口たちが転校生とり囲んで、なにやら言っていたな。」
豊は三杯の言葉に、先週の火曜日の朝にあった事を思い出した。
幸恵の机に、花瓶が置いてあった事を。
(あれは山口さんの仕業だったのか。)
豊は無性に腹が立った。
酷過ぎる。
豊はまだ、ウニイクラ丼を食べ終わっていないが、箸を置いて立ちあがった。
一応言っておくが、ウニイクラ丼が不味くて、もう食べられないから、逃げの口実に怒っているフリをしているわけではない。
本気で怒っていた。
「ムカついた。言ってくる!」
この怒りは、あらゆる方向に向けられていた。
当然、いじめていた山口に対してもそうだが、それを見ていたのに何もしない三杯にも。
そして、今までの自分もきっと、関わらない事を選んでいたであろう事に腹が立った。
そんな豊を見て、三杯は少しニヤリと笑顔を作ると、食事を続けながら、シッシッといった感じに手を振った。
豊は廊下を、教室へ向けて競歩していた。
すると向こうから、椎名が歩いてきた。
すぐに豊に気付き、手を振って駆け寄って行く。
「豊wどうしたの?なんだか怖い顔してるよ!」
椎名に言われて、豊はハッと表情を緩めた。
だけど、椎名も山口になにやら言われたらしい事を思い出し、再び少し真剣な顔つきになった。
「大丈夫だった?なんだか山口さんたちが、椎名に酷い事言っていたって聞いてさ。」
少し照れながら言う豊の言葉に、椎名は少し嬉しくて、椎名もまた照れていた。
「えっと、大丈夫だよw逆に、山口さん泣かせちゃった。」
椎名は少し勘違いしていた。
豊が険しい顔つきで歩いてきていたのは、自分の事を心配しての事だと思っていた。
本当は、幸恵の事で怒っていたわけだが、まあ男と女の間では、勘違いはつきものである。
それに、別に訂正する必要も豊には思いつかなかった。
そして、山口さんを泣かせた事を聞いて、これ以上はもういいかと思った。
「そっか。」
ひとまず、山口さんの事に対しては、心のけじめはついたが、豊は幸恵の事が気になっていた。
イジメが原因で、学校に来なくなったのではないだろうかと。
豊は、音子にそっくりな幸恵の事が気になって、落ち着いて授業を受けられる状態ではなくなっていた。




