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飛猫~イフ~  作者: 秋華(秋山 華道)
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椎名!無情の現実

桜花公園に、豊と音子、そして椎名が集まっていた。

その理由は、椎名の兄の命を救うのに、椎名に協力を求める為だ。

豊はまず、音子の能力について話し始めた。

「前にも話したけど、音子は、命の恩人の命を救う為に、未来から来た。」

豊のその言葉に、椎名は頷いた。

「時間、世界線、場所などは、以前に話したとおり。1時間遡るのに1時間、時間は、地球上での移動距離、そして時間軸内での移動距離も比例する。」

「そうなのさ。音子の世界線から此処までは凄く遠いので、音子は1年かけて此処までやってきたさ。」

豊の説明に足りない部分を、音子が埋めた。

「たとえばAさんの世界線へ移動するとして、5日かかるとしよう。でもAさんが1年前に死んでいたとしたら、Aさんの世界線には移動できない事になる。」

「正確には、Aさんの世界線への移動は、回り道して1年以上かけなければならない事になるのさ。」

ちなみに、豊にも音子にも、わからない事がある。

果たして音子は、未来に飛ぶ事ができるのだろうかという事。

豊は、音子の口ぶりなどから、おそらくは過去にしか飛べないと推測していた。

でも未来は、何もしなくてもやってくるもので、特に話す必要はないかと考えていた。

「要するに、1年飛んできた音子には、1年以内に死んでしまう人が分かると思われる。」

豊のこの推測や考えは、ほぼ当たっていた。

そこまで聞いて、椎名は理解していた。

「もしかして、川上さんやお兄ちゃんが、1年以内に死んじゃうって事?」

まだ、実際に死んだ人を見たわけでもないし、1年というのは豊の憶測にすぎない。

だけど此処は豊の世界なのである。

豊がそうだと確信すれば、それが当然となり得るのだ。

「うん、川上さんはまだ実際に会ってないから確認が必要だけど、お兄さんは先週会っていて、音子が見てそう感じたみたい。」

話の流れから豊は、ようやく言わなければならない事を言えた事に、ホッと胸をなでおろしたが、気持ちは重かった。

「だから、お兄さんを助ける為にも、椎名に協力してほしいのさ。」

豊の言葉に、音子が思いをつけたした。

椎名は、音子の言葉に一つ溜息をついてから、質問してきた。

「助けたい、けど、何をしたらいいのかな?」

その答えは、実は豊にも音子にも分からなかった。

会えば助けられると思っていたけれど、どうやらそれだけでない事は、先日会った事で証明されている。

音子の命の恩人は、会えば助けられるという事だが、豊は、それも少し疑問に感じていた。

豊は正直にこたえた。

「実は、よくわからないんだ。だから、渡辺さんのお兄さんの事、色々教えてもらえないかな?」

豊の言葉を聞き、椎名はうつむいて口をつぐんだ。

表情は寂しそうで、話したくないというよりは、思い出したくないといった感じが伝わってきた。

もしかしたら椎名にも、兄の命が危ないかもしれない事は、別の方向から感じていたのかもしれない。

豊はそう思った。

しばらく、椎名が何か言ってくれるのを待っていると、ようやく椎名が重い口をあけた。

話しの内容は、悲しい現実だった。

豊と音子は、ただ聞き続けていた。

椎名は、兄の和也とは実の兄妹で、とても仲良しだった。

両親とも仲良しで、傍から見れば、理想的な家庭に見えた。

だけど、実は父親は、椎名が生まれる前から、ある女性と浮気をしていた。

そしてそれは、数年前に母親の知るところとなった。

浮気がばれただけなら、此処まで話がこじれる事は無かっただろうが、問題は、椎名の名前だった。

浮気相手の苗字が、椎名だったのである。

要するに、浮気相手の苗字を、実の娘の名前にしていたのだ。

それにショックを受けた母親は、離婚を決断。

椎名は母親に、兄の和也は父親について行く事なった。

兄が父親について行く事になったのにはわけがあった。

母親がショックからか、実の息子であるのにも関わらず、男性というだけで、和也の事が信じられなくなっていたからだ。

人間不信、男性恐怖症と言ってもいい。

とにかく椎名が、兄や父親に会う事はほとんどなくなってしまった。

両親が別れてからすぐ、父親は浮気相手である「椎名恵美」と結婚した。

兄はグレて、気がつけば不良と呼ばれるようになっていた。

そんな中、父親が風邪をこじらせ肺炎になり、呆気なくこの世を去った。

兄は、父親の浮気相手である恵美と二人で暮らす事を嫌い、一人家を出た。

先日、椎名が兄と会っていたのは、兄がお金を貸して欲しいと連絡してきたからだった。

椎名からは、連絡する術はない。

ただ、さつき町にいるのではとの事だった。

そんな話を椎名から聞かされ、豊は正直後悔していた。

こんな事、友達とも言えない自分が、聞いて良かったのだろうか。

どうして自分の、戯言ともとれる話を信じて、こんな大切な事を話してくれたのだろうか。

だけど、目の前で今にも泣きだしそうな椎名を見ると、聞いてしまった以上、なんとかしなければならないと思った。

それに、隣で泣きながら、豊の服の袖で鼻水を拭いている音子を見ると、絶対助けなければと思わずにはいられなかった。

豊は立ちあがった。

「行こう!さつき町に。お兄さんを探しに。」

三人は、椎名の兄和也を助ける為に、さつき町へと向かった。

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