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翌朝、クライドはリリアーナを書斎に呼んだ。
リリアーナが入ってきた。
いつも通り、背筋をまっすぐに伸ばして。首元は、今は何もなかった。革紐がなくなって、白い首筋がそのままあった。
「座れ」
リリアーナは椅子に座った。
クライドは机の向こうに立ったまま、リリアーナを見た。
「話がある」
「はい」
「イザベラ・ベルテのことだ」
リリアーナは黙って、クライドを見た。
クライドは静かに、順を追って話した。
公爵邸に侍女姿のスパイが入り込んでいたこと。
リリアーナの行動を記録した手帳を持っていたこと。その情報がイザベラに流れていたこと。
イザベラが庭で毛虫を口にして、嘔吐と発疹を起こしたこと。
そしてイザベラが「リリアーナが毒虫を教えた」と叫んで、自らスパイの存在を暴露したこと。
リリアーナは黙って聞いていた。
最後まで聞いて、少しの間、窓の外を見た。
「……お姉様らしいですね」
「そうか」
「やると決めたら必ずやる方なので」
リリアーナは静かに言った。
「でも詰めが甘いところも、昔からで」
クライドは何も言わなかった。
「お姉様は、今どうされていますか」
「発疹は引いている。顔に痕が残った程度で、体に問題はない」
「そうですか」
リリアーナは頷いた。
「よかった」
クライドはリリアーナを見た。
「よかった、と言えるのか」
「体に問題がないなら、よかったです」
リリアーナは答えた。
「それとこれとは、別なので」
クライドは黙った。
「ベルテ家への断罪は、いつですか」
「来週だ。ルシアンが段取りを整えている」
「私も行きますか」
「行かなくていい」
リリアーナは少し間を置いた。
「……行きます」
「なぜ」
「行かなければいけない気がするので」
リリアーナは静かに言った。
「私のことだから」
クライドはリリアーナを見た。
怯えているわけではなかった。
覚悟しているわけでもなかった。ただ静かに、当然のことを言っているような顔だった。
「……わかった」
クライドは言った。
「ただし、私が隣にいる」
リリアーナは少し驚いたような顔をして、それから頷いた。
「はい」
断罪の日は、よく晴れていた。
ベルテ侯爵家の応接室に、人が集まった。
ルシアンが王家の代理として来た。
クライドが公爵家の嫡男として来た。
調査員が記録書類を抱えて来た。神殿の術師が証人として来た。
そしてリリアーナが、クライドの隣に立った。
ベルテ侯爵夫妻が向かいに座っていた。
侯爵は顔色が悪かった。夫人は膝の上に手を置いて、視線を床に落としていた。
イザベラは部屋の隅に立っていた。発疹は引いていたが、顔色が優れなかった。
リリアーナを見た。リリアーナを見て、視線を逸らした。
ルシアンが口を開いた。
「本日は、ベルテ侯爵家における複数の問題について、王家として確認を行う」
侯爵が「はい」と言った。声が震えていた。
「まず、精霊の愛し子への封印について」
術師が前に出た。
書類を読み上げた。十数年前、侯爵夫人の依頼によって封印の首輪が作られたこと。
その首輪によってリリアーナの力が封じられ、国全体の土地の力が失われていったこと。
不作が十数年続いた原因として、この封印との因果関係が認められること。
応接室に、静かな時間が流れた。
侯爵が「知らなかった、不作との関係は」と言った。
「知らなかったとしても」
クライドが静かに言った。
「結果として十数年、国民を飢えさせた。それは事実だ」
侯爵は黙った。
「次に、リリアーナ・ベルテの居住環境と処遇について」
調査員が前に出た。書類を読み上げた。
地下の物置部屋への監禁。十年以上にわたる食事の剥奪。使用人への雑用の強制。食べかけや踏まれた食事の提供。礼法教育の中断。夜会への不参加。
読み上げるたびに、応接室の空気が重くなっていった。




