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姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています  作者: もちもちほっぺ


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馬車が公爵邸の門を出た。


イザベラは背もたれに寄りかかって、窓の外を見ていた。街並みが流れていった。


石畳の道が続いて、貴族街の屋敷が並んで、やがてベルテ侯爵家の方角へ向かっていった。


しばらく、ぼんやりと外を見ていた。

今日のことを、順番に思い出した。

リリアーナの髪。肌。ドレス。

想像と、全部違った。


公爵家の教育は厳しいだろうから毎日叱られているだろうと思っていた。

貧相な見た目だから使用人にも馬鹿にされているだろうと思っていた。婚約者にも冷たくされているだろうと思っていた。


でも叱られていなかった。

使用人たちが丁寧に接していた。

婚約者が、毎朝散歩していた。

そしてリリアーナは、綺麗になっていた。


イザベラは窓の外を見たまま、少し眉をひそめた。

庭のもの、とリリアーナは言った。薬草か何かと聞いたら、まあそのようなものと答えた。はっきり教えなかった。


あのリリアーナが、はっきり教えなかった。


ベルテ家にいた頃のリリアーナは、何を聞いても答えた。「はい」か「ありがとうございます」しか言わなかった。逆らわなかった。隠さなかった。

でも今日は、はっきり教えなかった。

何かが、変わっていた。


馬車が石畳を進む音が続いた。


イザベラはふと、別のことを思った。

リリアーナが連れて行かれた日のことを。


あの日、クライド・アルスターが突然庭からリリアーナを連れて出てきて、執事に一言告げて、馬車に乗せて行った。


父はその話を夕食の席で聞いて「そうか」と言った。


母は「首輪はついていたわね」と確認して、それだけだった。


翌日も、翌々日も、特に何もなかった。


リリアーナがいなくなっても、屋敷の中は何も変わらなかった。食事の人数が一人減っただけで、誰も何も言わなかった。

使用人たちも特に困った様子はなかった。


イザベラは窓の外を見たまま、少し首を傾けた。

おかしい、と思った。


娘が突然連れて行かれたのに。

心配するでもなく、抗議するでもなく、様子を見に行くでもなく、まるで最初からいなかったかのように。

父も母も、何もしなかった。


イザベラは自分の手袋に視線を落とした。

自分はどうだったか。

……特に何もしなかった。


でもそれは、リリアーナが公爵家に行ったなら悪くはないだろうと思ったからで、心配していなかったわけではなくて、ただ、様子を見ていただけで。


だから今日、お茶をしに行ったわけで。

イザベラは窓の外に視線を戻した。


そういえば、とイザベラは思った。

なぜリリアーナは、あんな扱いを受けていたのだろう。


地下室に住んでいた。食事をろくに与えられていなかった。使用人に雑用を押し付けられていた。

イザベラはそれを、ずっと当たり前のことだと思っていた。


リリアーナがそこにいて、自分がそこにいて、リリアーナの方が下で、自分の方が上で。それが当たり前だと、物心ついた頃からそうだったから、疑問に思ったことがなかった。


でも今日、公爵家の応接室で、きちんとしたドレスを着て、きちんとした椅子に座っているリリアーナを見て、初めて思った。

なぜ、あの扱いだったのか。


父は何も言わなかった。母は首輪のことしか言わなかった。


首輪。


イザベラは少し眉をひそめた。

そういえば母は、いつもリリアーナの首輪を確認していた。顔を見ないのに、首輪だけは必ず確認していた。あの古びた革紐と、みすぼらしい石のついた。

なぜ、あんなものをそんなに気にするのか。


イザベラはずっと、考えたことがなかった。

ただみすぼらしいと思っていた。


リリアーナに似合いだと思っていた。

でも今日、仕立ての良いドレスを着たリリアーナの首にかかっているそれを見て、初めて、おかしいと思った。

あれだけが、浮いていた。


馬車がベルテ侯爵家の門をくぐった。

イザベラは背もたれから体を起こした。

玄関の扉が開いて、使用人が出迎えた。


馬車から降りながら、イザベラはふと思った。

今度お茶をした時に、リリアーナに聞いてみようか。


なぜ自分があんな扱いを受けていたか、知っているかと。

でもすぐに、やめようと思った。


リリアーナが知っているとも思えなかったし、知っていたとして、それを教えてくれるとも思えなかった。

今日のリリアーナは、庭のものについてはっきり教えなかった。


何かが変わっていた。


イザベラは屋敷の中に入った。

廊下を歩きながら、リリアーナの笑顔を思い出した。

ベルテ家にいた頃の、感情を飲み込んだ笑顔ではなかった。

もっと、落ち着いた笑顔だった。


イザベラは自分の部屋の扉を開けた。

鏡の前に座った。

自分の顔を見た。


綺麗だと思った。いつも通り、綺麗だと思った。

でも今日は、その後ですぐに、リリアーナの顔が浮かんだ。

イザベラは鏡から目を逸らした。

侍女を呼んで、着替えを命じた。


庭のもの、とリリアーナは言った。


今度もう少し上手く聞き出せばいい。

それだけのことだ、とイザベラは思った。

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