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リリアーナはそれを黙々と繰り返した。
昼前には片付いた。
追加の玉ねぎを届けに来たマルタが、かごを受け取りながら少し目を細めた。
「……早いですね」
「水につけると剥きやすいんです」
マルタは何も言わなかった。ただ空になったかごを抱えて出ていった。
廊下では、別の使用人が待ち構えていた。
「お嬢様、東棟の廊下を拭いていただけますか」
雑巾が差し出された。リリアーナは受け取った。
東棟の廊下は長かった。
端から端まで膝をついてひたすら拭いていくのは、それなりに骨が折れる。
今日は朝から何も食べていない。膝をついて立ち上がる動作を繰り返すと、頭がくらりとする可能性があった。
リリアーナはしゃがんで廊下の長さを眺めて、少し考えて、雑巾を足に巻いた。
そのまま廊下を、歩きながら拭いた。膝も痛くならなかった。頭もくらりとしなかった。半分の時間で終わった。
東棟の廊下を拭き終えて戻ると、今度は薪割りを言いつけられた。
腕が細くて力がないから、斧を振り下ろしても割れないことが多い。今日は割る前にナイフで薪に切り込みを入れた。
繊維に沿って、薄く。斧を振り下ろすと、今日は気持ちよく割れた。
リリアーナは少し、ほんの少し、口の端を上げた。
腹が、また鳴った。
薪割りをしながら、リリアーナは今日の食事のことを考えた。来るかもしれない。来ないかもしれない。来たとしても、パンの切れ端かもしれない。それでも来るなら、ありがたかった。
薪が、また気持ちよく割れた。
イザベラが来たのは、夕方のことだった。
扉を開けて、姉は部屋を見渡した。
今日は何をしに来たのだろうと、リリアーナは思った。泣いているところを見に来たのか、腹を空かせてうずくまっているところを見に来たのか。
部屋には玉ねぎのかごもなく、リリアーナは窓の外を眺めながら静かに座っているだけだった。
「……全部終わったの」
「はい」
イザベラは少し面白くなさそうな顔をした。それから桶を見た。
「なにこれ」
「玉ねぎを水に浸けると皮が剥きやすくなるんです。目も痛くなりませんし」
イザベラは桶を一瞥した。
それからリリアーナを見た。なんとも言えない顔をして、ただ「……へえ」とだけ言い、踵を返した。
扉が閉まった。
しばらくして、また開いた。
今度のイザベラの手には、皿があった。
夕食の皿だった。仔羊のローストが半分ほど残っており、付け合わせの野菜がいくつか乗っていた。フォークで何度か突いたような跡があった。切り口から、肉の脂がにじんでいた。
リリアーナの胃が、音もなく反応した。
いい匂いがした。肉の脂と、ハーブの香りと、バターの甘さ。
一日何も食べていない体が、その匂いに正直に反応してしまう。胃が収縮して、唾液が出て、リリアーナは自分の体が自分の意思とは関係なく動いていることに、少しだけ惨めな気持ちになった。
イザベラは皿を、リリアーナの机の上にどん、と置いた。
「食べきれなかったから、あげる」
リリアーナは皿を見た。
フォークの跡がついた仔羊。イザベラの口紅が少しついたグラスの縁。食べかけのパンの端。
「……ありがとうございます」
礼を言った。言わなければならなかった。言わなければ、次はもらえないかもしれないから。
イザベラはその「ありがとうございます」を聞いて、満足そうに口の端を上げた。
「どういたしまして」
それだけ言って、今日は出ていった。
リリアーナは皿を見た。
少しの間、ただ見ていた。
それからフォークを取って、食べた。
冷めていた。イザベラが食べた後だから当然だった。それでも食べた。一口食べると、止まらなかった。
みっともないほど夢中になって、あっという間に平らげてしまって、リリアーナはそれから少しの間、空になった皿を見つめた。
美味しかった。
美味しかったことが、なんとなく悔しかった。
感謝しなければならないことが、なんとなく悔しかった。
でも感謝しなければ、次はない。
リリアーナは空になった皿を膝の上に乗せて、うつむいた。
腹は満たされた。
でも胃の奥の方に、じくじくとした感覚が残っていた。美味しかった記憶と、「ありがとうございます」と言い続けた自分の声が、重なって沈殿していくような感覚だ。
これが普通だと、リリアーナは知っている。
これ以外を、知らなかった。
翌日も、イザベラは来た。
今日は皿を手に持ったまま部屋に入ってきた。食べかけのシチューだった。
パンが浸けてあって、イザベラが一口食べた後のスプーンがそのまま刺さっていた。スープの表面に、薄く脂が浮いていた。
「はい、あげる」
「……ありがとうございます」
「そんなにがっついて食べないでね、みっともないから」
イザベラは壁に背をもたせかけて、腕を組んで、リリアーナが食べるのをじっと見ていた。
見られていると、うまく飲み込めなかった。喉が緊張した。
でも止めることもできなかった。お腹が空きすぎていて、体が勝手に動いた。スプーンを口に運ぶたびに、イザベラの視線を感じた。楽しんでいる視線だとわかった。
わかっていても、止められなかった。
「ねえ、美味しい?」
「……はい」
「そう」イザベラは満足そうに言った。「よかった」
何がよかったのか、リリアーナにはわからなかった。
ただ食べた。
空になった皿を返すと、イザベラは「明日は気分によるから、来ないかもしれないけど」と言い残して出ていった。
リリアーナは一人になって、膝の上に手を置いた。
来ないかもしれない。
その言葉が、思ったより胃の奥に刺さった。来るかもしれないし、来ないかもしれない。それをイザベラが決める。リリアーナには何も決められない。
惨めだと思った。
思ってしまった。
思わないようにしていたのに、今日は思ってしまった。
リリアーナは目を閉じて、膝を抱えた。背筋だけは、まっすぐに保った。
床の上を、虫が一匹歩いていた。どこへ行くのか、まっすぐに、迷いなく歩いていた。
リリアーナはしばらく、その小さな影を目で追った。




