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【未来視】でジャンヌ・ダルクを火刑から救った俺、歴史から消されたが最強の観測能力で世界を奪い返す ~奪取の因果:ラスト・ディシジョン~  作者: ガドウ@歴史改変チート


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第十三話:核の選択

それは、静止した時間の中心で静かに脈打っていた。


「……これが……」


ジャンヌが、息を呑む。

 眼前に鎮座する 核 。

 それは完璧な球体に見えたが、その輪郭は陽炎のように定まってはいない。

 見る角度を変えるたび、内部で無数の可能性が重なり合い、万華鏡のように色彩を移ろわせていた。


「……迂闊に触るな」


廉が低く制する。


「その性質がまだ分かってねえ。下手に刺激すれば、この領域ごと吹き飛ぶかもしれん」


だが、その懸念を打ち消すように、静かな言葉が降りてきた。


「――触れても、構いませんよ。今のあなたたちなら」


声。

 振り返ると、そこにはあの 案内人 がいた。

 感情の削げ落ちた瞳で、二人の挙動を静観している。


「……また出たな。今度は何の用だ。死神の勧告か?」


「説明役ですよ」


男は、穏やかに首を振る。


「それは 未来の核 。この不確定領域における、あらゆる選択の集約点です」


男は音もなく近づき、その光を指差した。


「これをどう扱うかが、あなたたちの次を決めます」


ジャンヌが、核を真っ直ぐに見つめた。


「……取ったら……どうなるのですか。私たちは、どう変わるのですか」


案内人は、わずかに思考を巡らせる素振りを見せ、淡々と答えた。


「単純に言えば。あなたたちは、圧倒的に強くなります」


廉が鼻で笑った。


「だろうな。そんなことは分かってる」


「ですが」


案内人の声が、峻烈な響きを帯びる。


「相応の 代償 も発生します。例外はありません」


その一言で、場の空気が劇的に重質化した。


「……どんな代償だ。命か? それとも存在そのものか?」


「この核は」


男は核の奥に渦巻く光の残滓を見つめる。


「 捨てられた未来 の集合体です。選ばれなかった、悲劇の集積所と言ってもいい」


ジャンヌの表情が、一瞬で強張った。


「……それって……」


「ええ。これを取り込むということは」


男は静かに、残酷な事実を宣告した。


「それらの未来を、完全に消滅させることになります。再構築の余地さえ残さず、根源からね」


沈黙。

 重い。あまりにも重い言葉。

 ジャンヌが、喉の奥で震える声を搾り出した。


「……全部……消えてしまう……」


廉は、重く瞼を閉じた。


(……そういうことか。どこまでも残酷な仕組みだぜ)


うすうす分かってはいた。この歪んだ世界が、そんなに甘い救いを用意しているはずがない。


「……九条さん」


ジャンヌが、救いを求めるようにこちらを見た。

 その瞳には、深い迷いと葛藤が渦巻いている。


「私……」


言葉が、行き場を失って途切れる。

 廉は、ゆっくりと目を開き、正面から彼女の迷いを受け止めた。


そして――核を見る。

 その光の奥には、確かに何かが見えた。

 生きたかもしれない誰かの足跡。選ばれなかった可能性の断片。


(……これを全部、踏みにじって進むのか)


握り締めた拳が、わずかに震えた。

 だが。


「……どうする。ジャンヌ」


廉は、その決断を彼女に委ねた。


「決めるのはお前だ。お前自身の魂に聞け」


ジャンヌが、大きく息を呑んだ。


「……私が……決めるのですか……?」


「ああ。これは、お前の力だ。お前の歩む道なんだよ」


未来を壊す。未来を奪う。

 その過酷な旅の果てにある、最初の分水嶺。


ジャンヌは、再び核へと向き直った。

 その無垢な光の中に、確かに 誰か の気配を感じ取る。


「……私……」


震える指先が、核へと伸ばされる。だが、接触の寸前で止まった。


「……分かりません。本当は、怖いんです」


包み隠さない、本心の吐露。


「強くなりたい。九条さんの隣に立てる力が欲しい。でも……」


彼女はきつく目を閉じた。


「そのために、見知らぬ誰かの全てを消し去るなんて……」


沈黙。

 その葛藤は、誰にも笑い飛ばすことのできない本物であった。

 案内人は何も言わず、ただ観測者としてその様子を見守っている。


廉は、ゆっくりと、言い聞かせるように口を開いた。


「……一つだけ言っておいてやる」


ジャンヌが、顔を上げた。


「この先、正解なんてどこにも転がっちゃいねえ」


突き放すような、だが温かい言葉。


「取っても、取らなくても。いつか間違いだったと思う日が来るかもしれねえ」


核を見据える。


「だけどな。選ばなきゃ、一歩も前には進めねえんだよ。停滞は、死と同じだ」


沈黙。

 その言葉が、彼女の迷いの霧を鋭く切り裂いた。


ジャンヌは、ゆっくりと目を開いた。

 その瞳に宿っているのは、もう迷いではない。


「……私」


一歩、確かな足取りで前に出る。


「選びます。自分の意志で」


手が、核へと触れた。

 その瞬間、世界が震えた。


「全部は……」


一瞬の躊躇。だが、彼女は言い切った。


「全部は、奪いません。そんなことはしたくない」


廉が、右目を細める。


「……何だと?」


「必要な分だけ、私の覚悟が背負える分だけを、取ります」


核と接触した指先から、爆発的な光が弾けた。


「――っ!!」


無数の未来の情報が、暴力的なまでの圧力を伴って彼女の中に流れ込む。

 苦痛。重圧。存在そのものが押し潰されそうな感覚。


「ジャンヌ!」


「大丈夫……です……!」


彼女は歯を食いしばり、光の濁流に立ち向かう。


「……私が、私であるために……選びます……!」


白光の中から、彼女は意志の力で一部の糸を引き抜いた。

 必要な分だけを。己の力に変えるために。


パキン、と乾いた音が領域に響いた。

 核の一部が切り取られ、彼女の魂に同化していく。


残された核は、輝きを減じながらも、消滅することなくそこに留まった。


静寂。

 ジャンヌが、激しく肩を上下させながら息を吐き出す。


「……できた……」


その掌には、かつてないほど強固な意思を帯びた光が宿っていた。

 だが、核はまだ消えていない。


案内人が、静かに呟いた。


「……例外ですね。私の記録にはない事象です」


その声には、隠しきれない驚嘆が混じっていた。


「本来、全てを奪い尽くすか、何も奪わず立ち去るか。二つに一つのはずですが」


廉が、小さく不敵に笑った。


「バグ個体だからな。計算通りにいかないのが俺たちの売りなんだよ」


ジャンヌが、こちらを振り返った。

 顔には濃い疲労の色がある。だが、その立ち姿には確かな 強さ が宿っていた。


「……九条さん」


「ああ。いい選択だった。お前らしいぜ」


その言葉に、ジャンヌはわずかに微笑んだ。

 だが、安堵の時間は一瞬で終わりを告げた。


「――観測異常を確認。深刻なエラーログを生成」


冷たい声。

 振り返ると、そこにいたのは――。


正しい九条廉 。

 その無機質な瞳に、明確な 警戒 の色彩が混じっている。


「核の部分取得。想定外の振る舞い。容認できません」


廉が、ジャンヌの前に出る。


「文句があるなら聞いてやるよ。かかってこい」


「あります。即時排除のプロトコルを開始します」


一触即発の空気が、領域を支配する。


「……来ます、九条さん!」


「ああ。望むところだ!」


だが、その激突の寸前。別の声が、不遜に割り込んだ。


「――あー、悪いけど、それはちょっと困るんだよね」


軽い、だが有無を言わせぬ圧を持った声。

 空が歪み、現れたのは。


カイン。


「せっかく面白くなってきたところなんだ。そんな無粋な真似、させないよ」


カインの冷徹な視線が 正しい九条廉 を射抜く。


「今ここで彼らを消すのは、俺の 調整 に含まれていない。ナシだよ、それは」


沈黙。

 二つの絶対的な存在が、激しく対峙する。

 選別者と、調整者。


その狭間に、廉とジャンヌがいる。


「……どうなるんだ、これから……」


廉が呟く。

 ジャンヌが、静かに拳を握った。

 未来は、まだ確定してはいない。


だが確実に。物語は次の、さらに過酷な段階へと進み始めていた。

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