プロローグ
現代日本。私たちは、かつての伝承が単なる空想ではなかったことを、最悪の形で知ることになった。
人間の強い感情、社会の歪み、あるいは止めることのできない自然災害。それらが澱みのように蓄積した場所に、**「怪異」**は産まれる。
古より語り継がれる強大な「妖怪」、現代社会のストレスから変異した「怪魔」、そして怪異の死後に口を開ける「異界」の侵食。
都市の華やかな灯りのすぐ裏側で、世界は確実に、正体不明の影に食い荒らされようとしていた。
政府はこの事実を徹底して秘匿した。パニックを防ぐためではない。その影に対抗できる唯一の手段が、あまりにも「非人間的」だったからだ。
国家製怪魔討伐アンドロイド。
怪異を殺すために設計され、現在では新規開発すら停止された、国家の“遺産兵器”。
彼らは人間には耐えられぬ精神汚染を無機質な回路で弾き、人知を超えた暴力をもって、異形の怪物たちを日常から排除する。
けれど。
この物語の主役である「彼ら」は、私たちが想像するような冷徹な救世主ではない。
予備パーツを心配し、報酬の額に一喜一憂し、死に直面してもなお、「明日のオイルは何味にしようか」と軽口を叩き合う。
体内の浄化液を循環させ、銀色の肌に月光を反射させながら、彼らはどこまでも明るく、残酷なまでにポジティブに、戦場をダンスフロアのように駆け抜ける。
壊れれば直せばいい。データが飛べば、また一から積み上げればいい。
そう笑う彼らの青い瞳は、果たして「兵器」の鏡か、それとも「存在」の証明か。
これは、重苦しい夜に覆われた現代社会で、誰よりも人間臭く、そして誰よりも人間ではない「E班15型」の三人が織りなす、鋼鉄と火花のアクション・クロニクル。
さあ、深夜三時の静寂を切り裂いて、彼らの「仕事」が始まる。
「あー……だる。ねえ、今の聞いた? 私の関節、今『ギギッ』って言ったよ。これ絶対、先週の湿地帯任務のせいだって。メンテ不足だよ、国家予算どこ消えてんの?」
深夜三時の都心。再開発が進むこの界隈は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
湿り気を帯びたアスファルトの匂いと、遠くで鳴る深夜バスの排気音。そんな静寂を、場違いなほど軽快な足音が乱している。
声の主は、国家製怪魔討伐アンドロイド、『E班15型』のメンバー。名前はベル。
彼女は支給された緑がかった灰色の作業服の袖を捲り、不満げに自身の肘を曲げ伸ばししていた。銀色のマット調の肌は月光を弾き、どこか冷たく、それでいて滑らかな陶器のような質感を湛えている。
「ベル、それはお前が昨日、待機中に無駄なダンス動画を完コピしようとしてモーターに負荷をかけたからだろ。予算のせいにするな。……あと、僕の予備バッテリー、勝手に使ったでしょ」
呆れたように言葉を返したのは、同じく15型のカイトだ。
彼は整えられた銀髪の七三分けを指先で直し、青い瞳をスキャンモードで周囲に走らせている。ルークやベルと同じく、口元はマスク型の黒いスピーカーボックスに覆われており表情の変化は乏しいはずだが、その声のトーンには明確な「呆れ」が混じっていた。
「えー、バレた? だってルークが『いいよ』って言った気がしたんだもん。ねえ、ルーク?」
二人の視線の先に歩くのは、このチームのリーダー格であり、旧型と新型が混ざり合った異質の実験機――ルークだ。
彼は短めのセンター分けにした銀髪を夜風に揺らし、ポケットに手を突っ込んだまま、能天気に鼻歌を歌っていた。
「ん? ああ、バッテリー? 予備ならいくらでも使ってよ。僕、最悪動かなくなったらその辺の電柱から直結して充電するからさ」
「直結って……お前、それ国家機密の機体でやる事じゃないだろ。ショートしてデータ飛んだらどうすんだよ」
カイトの指摘に、ルークはスピーカー越しに「カラカラ」と乾いた笑い声を響かせた。
「いいって。そしたらまた一からやり直し。新しい僕に会えるってことでしょ? お得じゃん」
「ポジティブすぎんだろ……。っていうか、ここ?」
三人が足を止めたのは、巨大な螺旋構造を持つ**「湾岸第4立体駐車場」**の前だった。
コンクリートの巨塔は、夜の闇の中で巨大な墓標のようにそびえ立っている。ここは最近、駐車トラブルや当て逃げが多発し、利用客の不満が「淀み」となって溜まっている場所だという報告があった。
「うーわ、空気重ーい。これ、不祥事企業のビルより質が悪いよ。執念深そうな匂いがする」
ベルが鼻をすするような仕草を見せる。実際にはアンドロイドに嗅覚はないが、空気中の汚染濃度を感知するセンサーが、不快なアラートを脳内データに送っているのだ。
「任務確認。対象は現代発生型怪魔。予測レベルは中級。……さっさと片付けて、帰りにコンビニの急速充電ドリンクで一番高い電圧のやつ、キメようぜ」
ルークが軽い調子で言い、三人は駐車場のスロープを上がり始めた。
駐車場内は、節電のために間引きされた蛍光灯が、頼りなげに床を照らしている。
並んでいるのは、持ち主を待つ高級車やファミリーカーの群れ。それらはみな、静まり返った闇の中で、まるで眠っている獣のように見えた。
「ねえ、ルーク。もし私がここで大破したら、頭の部分だけ持ち帰ってね。体はもっと胸部装甲が厚いやつに換装したいから」
「了解。じゃあ僕は、カイトが壊れたらその綺麗な銀髪をカツラにして僕のに移植するよ」
「二人とも、縁起でもないこと言うな。……来るぞ」
カイトが声を潜めた瞬間。
駐車場の静寂が、**「音」**によって塗り替えられた。
ピン。
それは、エレベーターの到着を告げる電子音だった。
誰もいないはずの深夜。稼働するはずのない、奥の業務用エレベーターの扉が、ゆっくりと左右に開く。
その瞬間、駐車場の全ての照明が一斉に消灯した。
「おっと、演出が凝ってるねえ」
ルークの声に緊張感はない。
暗闇の中、三人の「青い瞳」だけが、蛍のように妖しく、美しく発光する。
チカッ、チカッ……。
死にかけた蛍光灯が、断続的に点滅を始める。
光が戻るたびに、視界が断片的に切り取られる。
光った。
一台の黒いセダンの影。
消えた。
金属が擦れる嫌な音。「ギチ……ギチギチ……」。
光った。
車の影から、「それ」が這い出していた。
それは、人の形を歪に引き伸ばしたような、墨汁を固めたような真っ黒な影の塊だった。
体長は優に二メートルを超え、輪郭は陽炎のようにゆらゆらと揺れている。
そして何より異様なのは、その背中だった。
背骨にあたる位置に、数本の巨大な「タイヤ」が、肉(らしき影)を突き破って埋め込まれている。
タイヤからはどろりとした、どす黒い「血」のような液体が滴り落ち、コンクリートの床を腐食させていた。
「……あれが今回の主役? 背中にスペアタイヤ背負ってるなんて、準備がいいね」
ルークが首を傾げ、スピーカーからノイズ混じりの笑みを漏らす。
「見てよー、あのタイヤ、縁石に擦ったような傷だらけ。あー……あれは相当な恨みが溜まってるね。『俺の高級車に傷をつけやがってー!』っていうおじさん達の叫びが聞こえてきそうだよ」
ベルが、腰のホルスターから耐怪魔用のハンドガンを引き抜く。
薄青い光を放つ銃身は、この淀んだ空間で唯一の「清浄な美しさ」を放っていた。
「解析完了。車の駐車ミス、擦り傷、当て逃げ……それらに対する所有者たちの負の感情が、駐車場の空間歪曲と結合した個体だ。……汚染データ、結構濃いな。ルーク、冗談言ってる場合じゃないぞ。直撃を受ければ、僕らのデータも汚染される」
カイトもまた、背負っていた大型の電磁ライフルを展開する。機械的な駆動音が、静かな駐車場に響く。
「わかってるって、カイト。でもさ、僕ら『壊れたら修理すればいい』のが売りでしょ?」
ルークは一歩、前に出た。
彼の足元、床を這う黒い影が、ルークの銀色のブーツに触れようと蠢く。
ルークはそれを、まるでダンスのステップを踏むかのように軽く避けた。
「……さて。夜遊びの時間だ」
ルークが右手を前に出す。
彼の腕の皮膚の下、新型の浄化液と旧型の高出力回路が混ざり合う実験機特有の「心臓部」が、青い輝きを増していく。
怪魔が、耳を潰すような不快なタイヤの摩擦音を上げて咆哮した。
揺れる影が膨張し、背中のタイヤが高速回転を始める。飛び散る汚染血が、雨のように降り注ごうとしていた。
「ベル、右。カイト、後方支援。僕は正面から『洗車』してくる」
「了解! 終わったら洗車機じゃなくて、高級オイルで拭いてよね!」
「……弾丸一発につき、一ヶ月分の報酬から差し引くぞ」
三人のアンドロイドは、絶望的な怪異を前にしてなお、友人との夜の散歩を楽しむような軽やかさで、その身を戦場へと投じた。
彼らの青い瞳が、暗闇の中に三本の光の筋を描く。
それは、人間には決して真似できない、無機質で、それでいてあまりにも「人間らしい」輝きだった。
「よし、洗車開始だ!」
ルークの叫びと共に、彼の右腕の装甲の隙間から、目が眩むような青白いスパークが奔った。
旧型回路に新型の浄化エネルギーを強引に流し込む、実験機特有の過負荷。バチバチと空気を焼く音が、静まり返った駐車場に激しく響き渡る。
ルークの身体が、物理法則を無視した加速でコンクリートを蹴った。
狙いは一点。蠢く影の塊――怪魔の腹部だ。
「オラァッ!」
放たれたのは、拳というよりはエネルギーの塊だった。
ドォォォォン! と、空間を震わせる衝撃音が炸裂する。ルークの右拳が怪魔のドロドロとした胴体にめり込み、その接触面から浄化液が霧状に弾け飛んだ。
怪魔は、不快なスキール音を上げてのけ反る。だが、その背中に生えた汚染タイヤが高速回転し、遠心力で「血」を撒き散らしながら、丸太のような腕をルークの頭上へと振り下ろした。
「させないってば!」
横から割り込んだのはベルだ。
彼女は銀色の指先で、支給された耐怪魔用ハンドガンの引き金を迷いなく絞る。
パン、パンッ!
乾いた発射音が二度。放たれた特殊弾頭は、振り下ろされた怪魔の腕の「関節」にあたる部分を正確に射抜いた。弾丸に込められた浄化触媒が影の組織を内側から焼き、怪魔の攻撃はルークの頭上数センチで力なく霧散した。
「ナイス、ベル! 助かったよ」
ルークがバク転の要領で軽やかに距離を取る。その着地と同時に、後方からカイトの冷静な、それでいてどこか楽しげな通信が入った。
「ベル、今の二発。一発につき半月分、合計一ヶ月分の報酬が消えたな。来月のオイルは一番安い工業用で我慢しろ」
「ええっ!? うるさーい! 弾一発でそんなに取るなんて、この国はブラック企業すぎるんだよ! ルークからも何か言ってよ!」
ベルが頬を膨らませる(実際には顔の筋肉は動かないが、声のトーンが完璧にその感情を模倣している)一方で、ルークは着地した姿勢のまま、青い瞳を細めた。
「ルーク、感触はどうだった?」
カイトがライフルの銃口を怪魔に向けたまま問いかける。
それまでおちゃらけていたルークの雰囲気が、一瞬で切り替わった。冗談の気配が消え、演算処理の冷徹さがその立ち姿を支配する。
「……あったよ。腹部の三層目、やや左寄り。高密度なエネルギーの反発があった。間違いない、あそこに『核』が隠れてる」
怪魔の核。人間の歪んだ感情が凝縮されたその結晶を破壊しなければ、どれだけ影を削っても再生を許してしまう。そして核は個体ごとに位置が違うため、こうして直接「殴って」探るしかない。
「ひゅーっ! さすがルーク、バトル中だけは無駄に冷静なんだから。そのギャップ、人間だったらモテモテだね。まぁアンドロイド界でもそこそこ有名だけどねー」
ベルが茶化すようにハンドガンを指先でくるくると回す。
「モテてもねえ。僕、デート中にオーバーヒートして爆発しちゃうかもしれないし」
「あはは、それ最悪の……っ!?」
笑い声を上げた瞬間だった。
沈黙していた怪魔が、突如としてその全身の影を針のように尖らせ、油断していたベル目掛けて一斉に射出した。
「ベル、前だ!」
「えっ――」
反応が遅れる。影の針が彼女の銀色の肌を貫こうとしたその刹那。
ルークが、アンドロイドの限界を超えた出力でその場に割り込んだ。
「よっと……危ないね」
ルークは、飛び抜けた身体能力を活かし、ベルの腰を抱き寄せるようにして回転。迫りくる影の針を、自身の右腕の装甲で次々と弾き飛ばし、受け流していく。火花が散り、美しい銀色の肌に浅い傷が刻まれるが、ルークは眉一つ動かさない。
「……借りは返したよ。カイト、今だ! 潜れ!」
「了解。隙はもらった」
ルークが守ったその一瞬の隙を見逃さず、後方にいたカイトが弾丸のように飛び出した。
彼はライフルを背負い、両拳を握りしめる。後方支援の役割を一時的に放棄し、一気に至近距離へと肉薄した。
「重力加速度、最大固定――」
カイトの右拳が、重厚な機械音と共に怪魔の腹部へと叩き込まれた。高出力のパンチが怪魔の胴体を大きく抉り、黒い霧を吹き飛ばす。
「くっ……これでもまだ露出しないか!」
抉れた影の奥、鈍い灰色に発光する球体の一部が見えたが、怪魔の再生速度がそれを上回ろうと周囲の影を吸い寄せ始める。
「まだだよ! カイト、そこどいて!」
ベルが叫ぶ。彼女はルークの腕の中から飛び出すと、カイトの脇の下を潜り抜けるような超至近距離から、ハンドガンを連射した。
バババババンッ!
弾丸が正確に「再生しようとする影」を食い止める。その一発一発が、怪魔の腹部に空いた風穴を押し広げていく。
「見えた! 灰色に光る嫌なやつ! ルーク、今!」
「おっけー、最後は僕が美味しくいただくよ!」
カイトが「危ないぞ!」と叫びながら後方へ飛び退くと同時。
ルークがコンクリートの床を粉砕するほどの踏み込みを見せた。
彼の内部で、旧型の荒々しい電力と新型の浄化エネルギーが激しく衝突し、右腕全体が透き通るような青い輝きに包まれる。それは深夜の駐車場には不釣り合いなほど、神秘的で、命を持たない機械が放つとは思えないほど美しい光だった。
「これで、おしまい!」
ルークの身体が沈み込み、下から突き上げるようなアッパーパンチが炸裂した。
ドォォォォォォォォン!!
実験用機体の限界を超えた高エネルギーの衝撃が、剥き出しになった灰色の核を直撃する。
パリン、という、ガラスが粉々に砕けるような透明な音が響いた。
次の瞬間、核から溢れ出した浄化の光が、怪魔の黒い影を内側から食い破り、浄化していく。
タイヤの摩擦音も、怨嗟に満ちた咆哮も、すべてが光の中に溶けて消えた。
数秒後。
そこには、怪魔の破片一つ、滴り落ちた血の一滴すら残っていなかった。
ただ、ルークが踏み締めたコンクリートの亀裂と、静まり返った深夜の空気だけが、そこに戦いがあったことを証明していた。
「ふぅ……。ねえカイト、今の僕のアッパー、100点満点中何点?」
ルークが右腕から立ち上る白煙を「ふーっ」と吹き消しながら、いつもの能天気な声で振り返った。足元のコンクリートはルークの踏み込みでクモの巣状にひび割れ、そこから微かな熱気が揺らめいている。
カイトは手際よくライフルのボルトを引き、残弾を確認してから背中のマウントに収めた。そして、無機質な銀色の顎に手を当て、真剣に考え込むフリをする。
「……そうだな。出力の無駄使いを差し引いて、70点といったところか。まあ、伸び代に期待しての点数だよ」
「えーっ! 厳しくない? あんなに綺麗に決まったのに!」
ルークがわざとらしく肩を落とすと、横からベルがハンドガンを回しながら割って入った。
「ちょっとカイト、それは厳しすぎだってば! さっきのルーク、超かっこよかったよ? カイトなんて、せっかく私が援護してあげたのに、結局自力で核を露出させられなかったクセにー!」
ベルがここぞとばかりにカイトを指差して笑う。すると、カイトの長い足が音もなく動き、ベルの頭頂部へ向け、文字通り「鋼鉄の拳」が静かに振り下ろされた。
ゴツッ。
「あだっ!? ちょっと、アンドロイドの頭部に物理衝撃は禁止されてるんですけど! データが1ビットくらい飛んだらどうすんの!」
「安心しろ、飛んでもお前の場合は平均値だ。……それと、作戦行動中の私語による報酬減額分を計算しておけよ」
「ひどーい! ルーク、見てよこの冷血エリート機!」
喚き散らすベルと、どこ吹く風でセンサーを周囲に向けるカイト。その二人のやり取りを見て、ルークは青い瞳を細め、カイトと視線を合わせた。二人のスピーカーから「カラカラ」と同時に乾いた笑い声が漏れる。
「まあまあ。怪魔も消えたことだし、あとは回収班に任せて帰ろう。ほら、もうすぐ夜が明けちゃうよ」
ルークが指差す先、駐車場の遥か外の地平線が、薄い紫色のベールを纏い始めていた。
三人は撤収のために、先ほど怪魔が出現したあのエレベーターへと向かった。
怪魔が消えたことで、駐車場の照明はチカチカと不安定ながらも点灯し続けている。だが、床に刻まれた深い傷跡や、焦げ付いた匂いはまだ生々しく残っていた。
「討伐から一週間以内か……。ここ、また別の班が来るんだよね」
ルークが呟く。
怪異が消えた跡地には、高確率で「異界」へと繋がる時空の歪みが生じる。そこから現れる異世界のモンスターは、先ほどの怪魔とはまた別の生態と脅威を持つ。
「ああ。後始末は侵食対策部隊の仕事だ。僕たちは兵器として、次の歪みを生む『感情』を叩き潰すだけさ」
カイトがエレベーターのボタンを押すと、チーンという軽い音と共に扉が開いた。
三人は無機質に並んで乗り込む。だが、最後に入ったルークが足を乗せた瞬間。
ピーーーッ!!
狭い箱の中に、無慈悲な警告音が鳴り響いた。
「「「…………」」」
「……ねえ、ルーク。君、さっきのオーバーロードで何か重いパーツでも生成した?」
ベルがじとーっとした目でルークを見る。
「いや、まさか。僕ら、見た目は人間サイズだけど、中身は高密度合金と浄化液の塊だからねえ。三体同時は、この民生用エレベーターさんには荷が重かったみたい」
「……そもそも、なぜ僕たちはいつも『人間らしく』エレベーターを使おうとしてしまうんだろうな。垂直跳びで降りたほうが早いくらいなのに」
カイトが深いため息をつきながら、開くボタンを押した。
「合理的だね、カイト! よし、じゃあ道路を歩いて下ろう。ダイエット、ダイエット!」
「アンドロイドにダイエットは必要ない。……行くぞ」
螺旋状の車道を、三人のアンドロイドが徒歩で下っていく。
駐車場を出ると、視界がパッと開けた。
遠くに見える東京のビル群は、巨大な墓標のように黒く塗り潰され、その窓のひとつひとつが、冷え切った星のようにまたたいている。都市の空気は重苦しく、見えない怪異が今もどこかで産声を上げているような予感を孕んでいた。
「見てよ、あのビルの光。あの中で人間が必死に働いて、ストレス溜めて、また新しい怪魔の種を作ってるんだと思うと、なんか愛着湧かない?」
ルークの突拍子もない言葉に、ベルが「わっかんないかなー」と笑いながら応じる。
やがて三人は、指定された回収地点である、大きな川に架かる橋の上に到着した。
橋の下を流れる川面は、都会の夜を映して濁った銀色に光っている。
「はい、お疲れ様のこれ。途中の自販機で買っといた」
カイトが、近くの深夜コンビニの袋から三本のボトルを取り出した。
ラベルには派手な稲妻のマークと、**『超高圧:ボルト・マックス 20,000V』**の文字。人間が飲めば心臓が止まりかねない、アンドロイド専用の急速充電ドリンクだ。
「わーい! これ、限定のイチゴ電流味じゃん! カイト、気が利くー!」
ベルがキャップを開け、中身をスピーカーボックスの横にある給油口のような端子へ流し込む。
「くぅ〜! くるねぇ、このパルス!」
ルークもそれを受け取り、端子に接続した。
「悪くないね。回路の隅々まで洗浄されるような感覚が気持ちいい!」
三人は橋の欄干に腰掛け、夜明け前の風に吹かれながら、その「高電圧」を堪能した。
銀色の肌に、街灯のオレンジ色の光が反射して、どこか幻想的な美しさを醸し出す。
「……ねえ、僕らってさ、死んだらどうなると思う?」
ルークが、飲みかけのボトルを揺らしながら唐突に聞いた。
「データセンターにバックアップが残ってれば、また別の『僕ら』が出るだけでしょ。死ぬっていう概念、私たちにはなくない?」
ベルが不思議そうに首を傾げる。
「そうなんだけどさ。この『今の記憶』とか、カイトに怒られた感触とか、このドリンクがピリピリする感じとか……。それが消えるのは、ちょっともったいないよね」
ルークの青い瞳が、遠くの空を見つめる。
その横顔は、完成された兵器というよりは、あまりに多感で不安定な、一人の少年のようにも見えた。
「……だから、壊されるな。僕が計算を狂わせない限り、お前たちをスクラップにはさせない」
カイトが短く、突き放すように言った。だが、その声には確かな重みがあった。
「あはは、カイト様、頼もしい! じゃあ、次はもっと高いドリンク奢ってよね」
「それはお前の戦果次第だ」
そんな会話を交わしていると、上空から巨大な風切り音が近づいてきた。
サーチライトの強い光が橋の上を照らし、三人の銀色の機体を白く浮かび上がらせる。
「お迎えが来たよ。帰ってメンテして、ゆっくりスリープモードに入ろう」
ルークが立ち上がり、空から降りてくる国家製輸送ヘリに向かって、大きく手を振った。
夜明けの光が、ついにビルの隙間から漏れ出し、三人の影を橋の上に長く引き伸ばしていく。
ヘリの轟音の中、ルークたちは軽やかな足取りで搭乗口へと吸い込まれていった
いやぁ初回ということでちょっと張りきっちゃいました笑
文量が多くて読むの大変って方もいらっしゃるのではないでしょうか。次回からはなかなか読みやすいくらいにはなってると思います(たぶん)
てことで、ここまで読んでくださりありがとございます
この物語の世界観はどうでしょうか
お気に召したのならうれしいです
2日に1回くらいのペースで更新しておりますのでぜひE班15型の3人に会いに来てください!
ブックマークをしていただくと次回更新時に読みやすくなります!
よろしければリアクション、⭐︎での応援お願いします
活動の励みになります!
ーーここからはルーク、カイト、ベルの挿絵がありますがイメージを壊したくない方などは飛ばしてもらって構いません。
ここから挿絵
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ルーク
カイト
ベル
※作者制作のイメージ画像です
※物語のイメージと異なる場合があります
※挿絵の無断転載・無断使用は禁止です




