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文芸部 ほたる短歌班  作者: はあとのええす
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19/22

チャンネル.2を選局したら『アンの友達 第三章「めいめい自分の言葉で」』の朗読番組だった件

チャンネル.2を選局したら『アンの友達 第三章「めいめい自分の言葉で」』の朗読番組だった件





      にぎやかに釜飯の鶏ゑゑゑゑゑゑゑゑゑひどい戦争だった




       

                         加藤治郎「ハレアカラ」





  僕は、日曜の午後、まだこの季節では夕刻になる四時ごろ、休日のいつもの習慣で、散歩がてら、湖わきの国道の自販機までコーラを買いに部屋をでた。散歩といっても、ロードバイクでのカナツ市中心部までのサイクリングになる。まだつぼみの桜の並木が、ことしもあかく煙ってみえる。里山からなるスカイラインにむかって、金色の太陽が落ちてゆく。

 湖へと向かうカナツ川の河川敷道路の土手のうえに人影が光っていた。白い夕日に向かって川風に向かって、そして僕には背を向けて短い髪を揺らしていたのは森城いずみだった。

 「何を見ているんだろう」僕は、その正体を知るのをこの時もあきらめた。自販機へと向かうロードバイクをスピードアップした。



 新学期二週目の月曜日、週末の「全部合同 新入生勧誘集会」の、文芸部の「出し物」の準備で、森城いずみと松尾響子が部室で思索を練っていた。机にノートをひろげ、松尾はつっぷして、森城は、お茶をすすっていた。

 僕が席に着くと、いつものように、「水辺くんも、お茶でいい。」と、森城いずみが話しかけてきた。部室には、緑茶しかないし、部費で買いそろえた湯飲みしかないのだが。

 「ありがとう」

 そういって、森城いずみの入れてくれたお茶を受け取ると、ちょっと熱かったけど一口飲んだ。

 宿題が大量に出たので、僕は、宿題をやらせてもらい、「全部合同 新入生勧誘集会」の準備は、とりあえずは二人にまかせた。部室の窓に、一階の吹奏楽部の部屋から、おそらく「全部合同 新入生勧誘集会」のための曲だろう、何かのメロディーが漂っている。「たしか、この曲はどこかのテレビ局のニュースのオープニングテーマになっている曲だ」「その出だしのとこだ」僕はそんなことを考えながら宿題をやっつけていた。

 春の風が窓をとおして文芸部の部室に吹き込んでくる。森城いずみと松尾響子は、ふたりともお代わりしたお茶をすすっている。本棚の上のとこにほっぽかれたスタイベックのペーパーバックが、表紙の裏側をみせている。壁に貼りだされた米利先輩の手紙が白く光っている。


 「ああ、解った」といっても、宿題が解けたわけではない。

 吹奏楽部が練習している、「全部合同 新入生勧誘集会」用の曲は、ホルストの「木星」だ。


 物理法則、たとえば、F=maが成り立たない、証明されていない、なんて言うことを先週、物理の先生が言っていたが、そんなことをいったら『「カレーまん構文」と、「ソリトン理論」の形式的合致』を礎にする「世界樹」、そして、恒久平和への、カントのビジョンが揺らいでしまう。先生は、パチンコ玉も量子的ふるまいをする可能性が示されたから、巨視的な、f=maの式は採用できないなんていっていたけど、パチンコ玉のスリットのゼーマン分離だって、右へ行くか左へ行くかは、パウリか誰かの「原理」で、証明不要だし、パチンコ玉というマクロはスピンを有しえないだろうし、パチンコ玉が右へ行くときも、左へ行く運動も、F=maに支配されているんだ。右や左にいくからって、F=maの法則が成立しないっていう論理、論法は飛躍だろう。


 それは、何億年という時間スケールで、木星が崩壊することなく太陽周回軌道をまわっていることが、果てしない時をこえて輝く星が地球の軌道のあやうさを、地球が何億年も崩壊せずに宇宙に有ることを許す「法則」、「奇跡」、僕たちが地球にうまれ生きている奇跡を教えてくれるんだ。


 そう想いを走らせていると、もう外は真っ暗で、みんなは残光の中にいて、そして、吹奏楽部の誰かひとりが居残りで、ソラ(ドソ♯)ドレ♯レラ♯レ♯ラ♯ファ、という一小節を繰り返し練習していることに気づいた。

 どうやら、部屋を出て、テラスのとこでやってるらしかった。いったい誰だろうと三階の窓から人影に目を凝らすと、どうやら、その人影は、幼馴染の夕実っだった。

 「ソラ(ドソ♯)ドレ♯レラ♯レ♯ラ♯ファ」

 夕実は、漫研、吹奏楽部、書道部、演劇部、ダンス部なんかを兼部している。

 「ソラ(ドソ♯)ドレ♯レラ♯レ♯ラ♯ファ」

 兼部なんかしていると、人一倍、練習が必要になるのだろう。夕実の、中学のときの別名は、スターマンだ。

 「ソラ(ドソ♯)ドレ♯レラ♯レ♯ラ♯ファ」

 

 

 その時、森城いずみと、松尾響子が、「全部合同 新入生勧誘集会」の準備から顔をあげて、ふたりで小声で歌いだした。そして、「クスクスクスっ」と二人で目を合わせて笑い出した。


 「愛を学ぶためにいいい」「愛を学ぶためにいいい」




         「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい





                       笹井宏之「ひとさらい」






          戦争が(どの戦争が?)終わったら紫陽花を見にゆくつもりです




                         萩原裕幸「あるまじろん」





 大人になったら宿題はなくなるものだと思っていた。だけど、カレーまん構文の、つまり、エクスカリバー構図の社会実装という、机上の空論の「正解」をみつける「宿題」が、胸に突きささっているんだ。制限時間は僕たちのこれからの人生。解答用紙は僕たちのこれからの人生。

 僕は、正解だけの宿題は、いったんやめて、部の本棚の、カール・セーガン著「コスモス」を取り出した。物理学は、秩序を世界に見出す営みだ。中世の混沌のなかで、ケプラーは、どれほど、地上の秩序をもとめたのだろう。そして、天上の星々がしめす調和を、つまり<法>が、混沌の地上にも及んでいることを希求し、それを示そうと生涯をかけた。「空とこの道、出会うところ」 を求め続けたんだ。




          閉店のガラスをのぞく薄暗いビニール傘は あのコーナー


 


                       ゆきのしたまりあ 「タコ公園時代」




  ひとがひとを裁くことの根拠をどこにもとめるんだ。魔女裁判、ガリレオ裁判、十字架の処刑、かれらを裁いたのは、どんな「法」なのだろう。なにに根差した「法」なのか。





            てんと虫よ星背負うほどの罪はなに



                         

                  工藤玲音 「わたしを空腹にしないほうがいい」





 「そうよ、水辺君」「私たちは、カレーまん構文からソリトン理論、カントの恒久平和論、ホッブズの秩序論、囚人のジレンマのゲームの無限繰り返しにおける非調和、調和が統一的に、「世界樹」としてみなせることで、「深緑のサツマイモ畑」を見渡したのよ。」

 いつの間にか部室に来ていた姉妹先輩が、森城たちの「愛をまなぶためにいいい」のハミングのあと、話し出した。

 「ハロー。アゲイン。みなさん」

 「新緑のサツマイモ畑は、太古には、ストーンヘンジ、ピラミッド、マヤの古墳、熊野古道、カナツ城天守」「いまも「希望」が走っている「痕跡」よ」「そう」

 「昔からある場所よ」

 それは日常のかけがえの無さの再発見だった。



      「唯一不変なものは光速度 c のみである」  アルバート・アインシュタイン




      「光あれ」             聖書『創世記』第1章第3節




 「わたしたちは、法根拠を天上にもとめるわ」「でも、天界の法が地上に触れているのは「第一項、わたしは自己保存する。第二項、私以外の他者の全てが自己保存する。第三項、第一項と第二項は同時に成立する」という「名もなき詩」だけよ。「カレーまん構文」は、だれか特定の人のためではない、地上のすべてのひとにふりそそぐ、つまり、だれのものでもない、みんなのものという意味で、名前のつけようのない「名もなき詩」なのよ。」

 「「愛」は、「法律」、「ルール」、「マインド」、「シップ」といいかえられるわ」」

 「サッカー部で感じる協調の心地よさ、吹奏楽部で感じるオーケストレーション」

 「これが、社会でも「正解」なのかしら」「わからないわ」「愛と愛の戦いというブルーハート」「わたしには心に何色を重ねても未完成の絵があるわ」「おとなになって、めぐる季節の中で何を再発見するの」



  家に帰って「短歌たんかタンカ」を閲覧すると、かのうぷす子の一首がヒットチャートナンバーワンだった。



   

        水たまりひとつふたつを数え終え虹は無いかとピルエットする



                             かのうぷす子




 「文芸部の題目は「十五の夜 本歌取りで走り出す ナオミの耳元で、レオナード牧師とともに」です」

 放送部の司会担当のアナウンスが体育館に響く。いよいよ文芸部の番がきた。




 金曜日、朝から今日一日、「全部合同 新入生勧誘集会」がおこなわれる。体育館は、窓という窓が暗幕でおおわれ真っ暗だ。

 歓迎会のプログラム一番は、軽音楽部の「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」だ。ビートルズの後期の作品だ。プログラムの紙には、難解な、各部の演目がならぶ。書道部は「英雄」という字の書道パフォーマンス。映研は、文化祭で発表予定の短編映画「Mとの遭遇」のあらすじの告知。

 

 ダンス部が「サバイバルダンス」をtrfより大編成のパフォーマンスでやり遂げた。野球部が寸劇「再現 アントニオ猪木 対 モハメド・アリ 異種格闘技戦」。美術部が「ゲルニカ」の模造紙大の原画の拡大コピーをカラーで塗り絵して、最後に牛の角を青く塗り潰すというパフォーマンスを披露した。

 

 演劇部はミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」から「サンライズ・サンセット」だ。みんなの落としどころは、「太っちょのおばさま」で意見は一致しているのだ。「太っちょのおばさま」に届けるひとつの言葉だ。


 そして合唱部の演目は、サーカスの「アメリカンフィーリング」だ。

 そうだ、僕たちは「旧世界のしがらみ」をふりほどき建国された若い国、新世界「アメリカ合衆国」に、ひとびとが「国」の主役となるカントリーロードを行くアメリカンドリームの中にいってみたいとおもっていたのだ。アメリカという「これからの国」は、エンペラーなんかいなくて、自由の女神が「プロミスドランド」に導くのだ。 

「とびいり」という名目で、しかしお約束のSOS団が、ミスターチルドレンの「Sign」をがなっている。

 僕もブルースハープをやってるから、楽器のプレイにも興味がある。いつかサックスを手に入れて、Eストリートバンドのメンバーにジョイン ザ バンドするんだ。Eストリートバンドの日本カナツ支部だ。

 今の世界はシステムができあげっていて、すべてはロジックでまわっているっている論を言う人もいる。でも、今までの世界は、蒸気機関の発見からくる化石燃料経済の爆発的発達の中に、資本主義とか、共産主義とかが、たまたま、いろいろ社会実装をこころみる余地が有り余っていただけだ。「世界の終わり」だ。実際には、それらのモデルは、経済の試練をくぐってはいない。本当に世界にあてはまるロジックは、カレーまん構文から演繹される「包摂的市場構造」だ。基底状態だ。そして「地球連邦」

 軍備にお金をかけるより、深緑のサツマイモ畑、つまり、あるべき姿の市場、核融合炉、太陽光発電所、とにかく、深緑のサツマイモ畑だ。


 体育館の暗幕が、先生たちがちょっとだけ窓を開けてるんだろう、ゆれて四月の陽光を微風とともにも許している。。


 本歌取り(ほんかどり)とは、たとえば有名な古歌を本歌として、その一部を引用し、新しい歌を詠む伝統的な創作技法だ。単なる模倣じゃなく、本歌の情景や感情を背景に、作者の独自の感性を加えて表現するんだ。文芸部の題目、「十五の夜 本歌取りで走り出す ナオミの耳元で、レオナード牧師とともに」は、ボブ・デュランなんかが、「風に吹かれて」とかプロテストソングを歌い継いできたのと同じように、1970年の大阪万博での、ジローズの「戦争を知らない子供たち」の歌の情景やマインドを、いろんなミュージシャンが引き継いで、今日に繋がってるっていうことを、短歌の若山牧水、正岡子規の詠から、自分たちの一首を生み出すといことで示そうという試みだ。カレーまん構文はバイクの心臓、エンジンだ。


 プロジェクターで体育館舞台の壁に、牧水の一首が映し出される。





        うす雲はしづかに流れ日のひかり鈍める白昼ひるの海の白さよ



  

                          若山牧水 「海の声」




 「それじゃあ、この歌をうけて、森城いずみさん、一首、詠んで下さい」

 姉妹部長代行がマイクで司会進行を務めている。


 森城いずみが、マイクを受け取って、本歌取りの一首を読むのと同時に、スクリーンに森城の一首が投影された。




           まぶしいと責めるかわりにやさしさを探し出したい海の白さよ


 


                                 ほたる




 「おおうっ。」「ううんッ。」というざわめき、そして拍手が新一年生の席から起きた。思った通りだ。短歌ブームの堅調さは鉄板だ。短歌の文化は確実に新世代にねづいている。

 そして、森城いずみが、舞台の前方、真ん中に仕込まれた大道具の「聖剣エクスカリバーを岩からひきぬくものが真の勇者」パフォーマンスのために作られたベニヤ板でつくった剣と、剣が差し込まれている穴あきの発泡スチロールの岩の方へ歩み出た。

 

 「それでは、剣を引き抜いてみせよ」姉妹部長代行がマイクで叫ぶ。森城いずみが、わざとらしく、剣を引きあぐねてみせて、両手のゼスチャーで、「できませーん」とやると、新一年生が、それにこたえて「あーあっ」「あーあっ」と言ってくれた。

  

 次の一首も牧水の歌だ。





        あわれ見よまたもこころはくるしみをのがれむとして歌にあまゆる



 

                            若山牧水 「路上」





 そして、それは僕の番だった。




          春先の歌にあまゆる教室の黒板にふとかいてみようか




                              水辺果実



 森城いずみも、僕もエクスカリバーを抜くことは出来ない。そして、松尾響子がついに聖剣を引き抜き、姉妹部長代行から、紙製の王冠をさずかる。そして「大団円」という演出だった。





            

       九つの人九つの場をしめてベースボールの始まらんとす



              


                             正岡子規




 この一首を引いて、松尾が、





    サヨナラは冠詞でしょうかホームラン ベースボールのゲームセットよ




                           松尾響子





 と、松尾響子が詠ったとき、体育館の暗闇で、ガタっと小さな、椅子の動く音がして誰かが立ち上がった気配がした。       

 

 演劇部部員によるスポットライトがその人影を照らし出した。


 「わたしは、一年生の松井ありさです。文芸部への入部を希望します。」

 「でも、わたしは「俳句」をやります」

 「わたしは去年のカナツ高校文化祭で、水辺果実先輩の「短歌四面体論」を読みました。」

 「わたしは、小四のときから俳句を詠んでいます。」「俳句こそが「四面体」です」



 「えーっと。松、、、、、えっ」

 「松井ありさです」

 「うん。松井ありささん。わたしたちは夏の、「全国高校生短歌フェスティバル」への参加、そして優勝をめざして活動しています。」「俳句だけじゃなくて、短歌も詠ってくれることを希望します」松尾響子が、姉妹部長代行のマイクをうばって呼びかけた。しかし、そのとき、突然、松井ありさが詠いだした。




     天井にとどかぬ兄の背丈かな      松井ありさ




 会場に、「おおーっ」「うーっ」といった感嘆と拍手がまきおこった。

 無季自由律俳句。ぼくはとっさにみがまえた。なりゆき上、マイクを持っていた松尾響子が、松井ありさの句をうけて詠った。




      天井に穴をあけたる職人の脚立のしたのブルーシートよ  松尾響子





    しかし、松井ありさは、ほほえみながら立っている。

    松井ありさが詠い出した。




      照明のかわりにならぬおおぐま座   松井ありさ




    姉妹もくじゅは100のダメージをうけた。

    水辺果実は150のダメージをうけた。 

    松尾響子は混乱している。

    森城いずみは力をためている。


 短歌は、奈良時代から詠まれる、1000年生きる魔法の歌だ。それにくらべて俳句は明治時代     

に正岡子規が定めた新しい歌のかたちだ。


    姉妹もくじゅの攻撃




      星と似たところに光る管制の赤き光のチラチラのラ    姉妹もくじゅ




    松井ありさは微笑んでいる。

    松井ありさは詠い出した。




      窓越しの光に風のにおいとは            松井ありさ




    姉妹もくじゅはホイミを唱えた。

    水辺果実はホイミを唱えた。

    松尾響子は両手を握りしめてみた。しかし何もおこらなかった。

    森城いずみは力をためている。 


    ほたるの攻撃。




       風薫るホームで僕は立ち止まる立ち止まることの喜び   ほたる




    松井ありさが天をあおいだ。

    松井ありさが、ニコっとして詠い出した。





      地球儀の地軸のかたむき受け入れる            松井ありさ



   

    姉妹もくじゅは目をこらしている。

    水辺果実は目をこらしている。

    松尾響子は自分をとりもどした。

    森城いずみは詠い出した。


    ほたるの攻撃




      太陽の周りを何周したかって西暦からは解らないこと   ほたる




    それは会心の一撃だった。


 「ふうっ」と息をして胸のところで手を組んだ松井ありさは、まるでアニメのアン・シャーリーみたいだ。

 「わかりましたあ。わたし、短歌もやります。「全国高校生短歌フェスティバル」をめざします。」

 「よろしく。先輩たち」

 松井ありさが、にこにこしながらはっきりとそう言った。





 「ありがとう。松井ありささん。」姉妹部長代行がほっとしたという口調で話し出した。マイクの声が真っ暗な体育館にしずかに広がっていく。

 「放課後、文芸部の部室でまってるわ」

 松尾響子が、右袖で汗をぬぐっている。

 体育館中に、新入一年生の喝采が響いた。そして拍手の嵐。まちかねた大団円。


 静寂をとりもどした体育館に、姉妹部長の声が心地よい。

 「ありがとうございました。」「以上をもって文芸部の、、、、」




 その時、

 その時、体育館の後方、東側の鉄の大扉がゴロゴロっと音を立てて開いた。

 一条の太陽光が真っ暗な体育館に走る。一瞬、体育館はしづまりかえり、そして、新入一年生たちの、眩しさに耐えかねた「うわっ」というさざめき。その眩しさを遮るために手をかざしながら光の正体をみきわめようと座った上半身をねじる彼らの音。舞台の上の文芸部のメンバーも目を細め、すべてを見極めようと身構える。松井ありさもからだをねじっている。



 「いやー。すまん、すまん。眩しかった」



 光の扉に立っていたのは、文芸部顧問で国語教師の田中だった。

 体育館内に大爆笑が巻き起こった。

 光に慣れた僕の眼に、森城いずみがひきつった顔で、


 「えっ、そこ」


 と、やっと絞り出すような声でささやいたのが見えた。 

 全てを、そう、この時間の全てを田中がもっていってしまった。






     ひきだしに海を映さぬサングラス   神野紗希 「光まみれの蜂」






     浅蜊汁星の触れ合う音を立て     篠崎史子 「火の貌」





     

     文字は物だろうか雨にぬれながら   佐藤りえ 「兎森縁起」






 「デビット・ボーイの『ジギー・スターダスト』も、「超越者」で「名もなき詩」「カレーまん構文」だわ」

 「彼の声を、何十年後かの今、聴けるのも「日常」があるからこそよ」「愛と愛の戦いの中の平和」「悲しいラブソング」「想像もできないほどの大勢のひとたちの営みで私たちの「日常」があるのよ」「そして、何を新時代に約束したの。今も夜の国道つっぱしってみつけたのは、心の中の暗闇よ」

 「もしかしたら、松井ありさが私たちに「あたらしい詩」をもたらすかも」 

 姉妹部長代行が、放課後の文芸部部室で興奮気味に演説をぶっていた。

 森城いずみが意味深長な笑みをうかべていた。

 松尾響子は床で腹筋の筋トレをしている。

 僕はお茶がちょうどよい温度になるのをまっている。森城いずみのお茶はいつも熱すぎるのだ。






      何度でもめぐる真夏のいちにちよまたカルピスの比率教えて





                       岡本真帆「水上バス浅草行き」






  松井ありさが仲間に加わった。





 「さっそくだけど、これからの文芸部の活動方針を発表するわ」

 「短歌班の三人と、ありさ、わたしの計五人で「愛の世代」の「一瞬の光」を論じるていくのよ。」「もろい「争いの幻想、夢」を崩れさせるやつよ」

 

 松井ありさは、部室にくるとすぐに文芸部にとけこんだ。今度の文化祭の展示の「涙せんの拡大写真」に、松井ありさの瞳も加わるのだ。


 「それは短歌のテーマということですか」森城いずみが尋ねた。

 「そうよ。短歌の「テーマ」。俳句の「お題」。小説の「主題」よ」

 「例えば、道をあるいていて、ひとさじのなぐさめ、舗道にいて母親と手をつなぐ子供の手のひらの血流」

 「兄弟とお風呂で石鹸のシャボン玉を両手でそっと包んだ記憶のフラッシュバック」

「河原で川面をみつめてじっとしてしゃがんでいた記憶」

「あぜ道で石をひろって感じた太陽の温度と裏面の地球のひんやりした感じの記憶」

 「毎朝、母が、父さんが朝食をつくってくれたことの、当たり前だと思っていたことのとんでもなさ」


 「こういった、「光」を、読者が想起して、想いをめぐらせることに寄り添うのが、わたしたちなりのサプライズだわ」「「光」って小説の小節、短歌一首、俳句一句だわ」「神様がきっっと手伝ってくださるわよ。星が空から降りてきてわたしたちの道を照らすのよ」


 そうだ。もっと光を。学校でのスポーツの協調プレーの歓喜の原体験も「光」だ。思い出すんだ。探すんだ。かばんの中も机の中もさがしても見つからなかった「光」





 文芸部新人勧誘号四月号が部室のドアに貼りだされた。




        川風の東と西を定めたり      松井ありさ




        向かい風に免許の提示をもとめられどこを歩けば大人になるの


                          姉妹もくじゅ

 

        真っ青な空に届いて花ビラはもどれないこと知っていました


                          松尾響子


        覗いても大きくならぬ恒星とオリオンぼしのシンチレーション


                          水辺果実


        まっ赤っ赤悲しくないと言ってみる独り言さえ燃やす夕焼け 


                          ほたる


        

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