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6 事件の概要

「ゴブリン」


 政人は単語からイメージを連想する。


「ゴブリンって、肌が緑色で小さいモンスターのことですか?」

「多分そうだと思います。彼らの行動は、残忍で卑劣。まさにゴブリンそのもの」

「それは警察が名付けたんですか?」

「いいえ。彼らが自分で名乗っているんです。私たちを挑発するように、『ゴブリン参上!』と書いた紙を残していく」

「なるほど」

「さらに彼らは、私たちを挑発するためかは知りませんけど、精液入りのコンドームも被害者のそばに捨てていく。しかもその精液っていうのが、豚や犬の精液なんです」


 そう語る松木戸の表情には、怒りの色があった。政人もその気持ちはわかった。聞いているだけで、犯人たちに対し、虫唾が走る。しかし政人は冷静になるように、自分に言い聞かせた。挑発に乗ったら相手の思う壺だ。


「すみません。これまでの事件の概要について教えてもらってもいいですか?」

「はい」


 松木戸が語ったこれまでの事件をまとめると次のようになる。


 最初の事件の被害者は27歳の市役所に勤務する女性だった。3月21日の夜に友人数名と飲みに行き、その日、彼女はひどく酔っていたらしい。そのため友人たちは、彼女をタクシーに乗せた。タクシーの運転手から、23時30分ごろ、家の近くで降ろしたという証言が得られているが、その後の彼女の行動については不明。23日の早朝、X市の北西にある林林地区のゴミ捨て場にて、遺体で発見された。死亡推定時刻は23日の1時。死因は絞殺。彼女の遺体には、犯人のものと思しき複数のDNAが残されていたが、未だに特定はできていない。


 二人目の被害者は20歳の女子大生。彼女は、4月12日の深夜2時まで友人とカラオケ店にいたことが、友人の証言及びカラオケ店の監視カメラから明らかになっている。しかし友人と別れてからの行方はわからず、15日の昼頃、X市の河川敷の草むらの中で発見される。死亡推定時刻は14日の14時ごろ。死因は刺殺。胸にナイフで刺された跡があった。彼女の遺体からも、第一被害者と同じDNAが発見された。


 三人目の被害者は31歳の本屋に勤務する女性。彼女は5月18日の22時20分ごろに退社する姿が確認されており、その後の彼女の行動については不明。5月20日の17時ごろ。X市とY市の境にある廃工場にて発見される。彼女の死因は窒息死。自分で舌を噛み切り、舌が喉に詰まったことが原因で死亡したものとみられる。死亡推定時刻は19日の17時。


「そして四人目の被害者は、市内の風俗店に勤務する25歳の女性」


 政人は難しい顔つきになって、松木戸の話を聞いた。


「彼女は5月22日の0時10分に退社。知人の男性が、駅前の大通りの方に向かって、歩いて行くのを目撃していましたが、それ以降の彼女の行動については現在も調査中です。そして今日の昼、山菜取りに出かけていた夫婦からの通報で、X市の南にある山中で彼女を発見しました。死因はおそらく出血死。右手の手首に大きな切り傷がありました。死亡推定時刻は、まだ確定でありませんが、昨夜の21時ではないかと思われます」

「……そうですか」


 政人は大きく息を吐いて、目をつむった。右手首から血を流す萌子の姿を想像し、拳を強く握る。22日ということは、政人と会った後のことである。もしもあのとき自分が……なんてことを考えてしまう。


「いくつか質問をしてもいいですか?」

「どうぞ」

「萌子さんは自殺したんでしょうか?」

「おそらく」

「三人目の被害者も自殺ですかね?」

「多分、そうでしょう」

「どうして二人は自殺したんでしょうか?」

「死ぬ方がマシ。そう思ったんじゃないですか?」

「全員、暴行されていたんですよね?」

「はい。しかも複数の人間に暴行されていました」

「それはDNAからの判断ですか?」

「はい。あとは、彼女たちの膣腔や肛門、口内などに残されていた傷から、一人での犯行は難しいのではないかと考えました」

「……なるほど。死を選択したくなるような辱めを受けたってことですね」

「ええ。おそらく」


 政人は目をゆっくりと開いた。犯人たちに対し、強い憤りはある。それでも怒りを堪え、冷静な判断に努める。


「どうして、DNAの特定ができないんですか?」

「一致する人物がいないんです」

「一致する人物がいない? そんなことってあるんですか?」

「はい。データベースも完ぺきではないと鑑識は言っています。そして、そもそもDNAをちゃんと読めていない可能性もあるとも言っていましたね」

「今、DNAは何種類くらい見つかっているんですか?」

「5種類。つまり、5人の人間による犯行だと考えています。そしてそのうちの一人は、陰茎が一般男性よりもかなりでかいと思われます」

「どうしてそんなことがわかるんですか?」

「裂けた跡があったんですよ」

「なるほど。アレがでかい。ふざけた理由に思えますが、それが事件解決の手掛かりになるとは……。あと、そうだ。暴行は遺体が発見された場所で行われているんですか?」

「いえ、違います。遺体は遺棄されたものでした。だから、犯行は違う場所で行われていることが考えられます」

「……なるほど。つまり、犯人たちは被害者をさらい、どこか別の場所で犯行に及んだあと、それぞれの場所に死体を遺棄したということですね」

「はい。そう考えています」


 政人は考える。現状だと犯人を特定するに値する情報は少ないように感じる。政人は窓の外に目を向けた。外は暗く、雨は止んでいない。


「これから外に出ることってできますかね?」

「私の言うことをちゃんと聞きますか?」

「ええ。首輪をつけてもいいですよ」

「わかりました。それなら、先生に許可を貰いましょう」

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