幕間1
春の暖かな風が牙を持って吹き荒れる。暴風と化した空気は大地を削った。
天を遮り、太陽を隠す巨体が王者の如く空で踊る。
双翼を羽ばたかせ、白銀の衣を纏いし覇者はこの世に舞い降りた、冒涜しがたい存在に目を細めた。
この世界において最強と謳われる種族はドラゴンだ。
せいぜい肩を並べられるのは悪魔と天使だけだろう。どちらにせよ人間が見上げるべき天上の存在なのは変わりない。
――ディアフトライドラゴン。
例にもれず、最強を背負うドラゴン族に身を置く大空の覇者の一角。
全長数十メートルの巨体を持ち、太陽に照らされる白色の鱗は純白を輝かせている。
王者の如し威圧を纏い、その双眸は地に立つ二人の姿を捕えていた。
「お前たちに問う。ここを私の支配圏と知っての狼藉か?」
大地に転がる死屍累々。人喰いの鬼、ゴブリン、怨嗟の害虫者、亡骸の巫女、吸血鬼。
多様の種族が転がる中で、二つの影は興味深々に王を見上げる。
「あれが最強のドラゴンなの?」
「おそらくそうでしょう。しかし、あのドラゴンはディアフトライドラゴン。ドラゴン族の中でも下位種ですので、絶対に勝てない……というのはあり得ません。まあ、つまり最強ではないけれど、ドラゴンが正解ですね」
腰まで届く真紅の髪が暴風で暴れる中、女性は口を開いた。
肌の露出を最低限抑えた、下着にも思える魔道服。黒と金で彩られたそれは言いようのない高貴さと気品を纏っている。
妖艶の化身と言っても差し支えない女性は、籠手に包まれた右手をドラゴンへと翳す。
「じゃあ、あれは最強ではないのね」
長靴をカツンと鳴らして、隣に立つ彼女に問いかける。
灰色の髪を手で押さえ、漆黒の翼を背に生やした彼女はこくんと頷いた。
女性は「そう」と呟くと静かに言葉を紡いだ。
「『首を斬りましょう。肉親を殺しましょう。死体は水へ。私は隣へ。優しく抱きしめて。死の香りが優しく包み込む』」
女性はゆっくりと掌を閉じる。
「お前、何を――」
「『水路の屍』」
スパンとドラゴンの首が跳ねる。
噴水の様に鮮血が踊り、ドラゴンは無造作に大地へと落ちた。
呆気なく、一方的に終わる戦い。いや、戦いとは呼べないやり取り。
灰色の髪を持つ女性は目を丸くさせた。
「さて、ここには特にめぼしい者はいないみたいだし、戻りましょうか」
「はい、フート様」
頭を垂れる彼女を余所に、フートと呼ばれた女性は空間に穴を空ける。
侵入者を待つ、闇の空間に二人は当たり前の如く、足を進めた。
地面に転がる死体の中に、ディアフトライドラゴンが追加されたことに意味はあるのか。
その答えに応答する者は何処にもいなかった。




