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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第六章第二節 真相を知っても
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神秘庭園 偽天球壁 底 闇底骨廟 自捨新生 Ⅱ

「【で、最後の質問をすると言われた。それを出題するかどうか、決めろと。で、俺は言った。勿体もったいぶらず、言えよ、ってなぁ】」


「【我は自身のこれまで見てきた、挑戦者たちの失敗の過去を見せ、今のところ貴様がこの遣り取りで知った情報込みで全部こいつに頭に直接情報を押し込んだ上で、尋ねた】」


「【ひでぇもんだったぜぇ、頭の中、あらしでも起こってるかのように、色々な、俺のものじゃねぇ、失敗した奴らの記憶が、最初から終わりの声まで、心境までセットで時間を圧縮したかのように一瞬で再生されたからなぁ。あのとき気ぃ狂わず、ぶっ飛んだ答え返せたことは今でも信じられねぇよ】」


「で、何て聞かれた?」


 核心。ここだ。この質問と、その答え。そこに、"夢想家"の全てがきっと、現れている。そう感じられてならない。


「【この酷ぇ惨状、ぶち壊し、偽神突っ切って、この世界の支配者というか、この多層世界創り出している精神と肉体、その持ち主に、"世捨て髑髏どくろ"以外の奴を据える方法何か無いか、っていう、笑えねぇ冗談みてぇな質問だぜ】」


 彼はそう、私の予想斜め上な返しから、常人のいや、狂人の類でも思いつかない、いや、できない、恐ろしい、目的しか見ていないかのようなどうしようもない答えを口にし始める。


「【ふざけた疑問にはふざけた答えが相応しい。だからよぉ、俺は、この俺でもやるかどうかっていう、一見実現不可能な意味不明な、しかし、目的を果たすだけならどうにかなるかも知んねぇ理想論を紡いだ。で、それを形にした存在が、お前そのものってぇ訳だ】」


「……、はぁぁああ?」


 思わずそう、訳が分からず、私はそう思い浮かんだ通りに叫びを口にしたのだった。






 落ち着け。そうしないと、目に耳にした情報が、霧散するぞ。定着するにはもう少し時間が掛かる。要約圧縮もしないといけないというのに。


 この世界が異世界でなく、唯の誰かの脳内一人遊び、多重人格者の試行錯誤、痂疲かひの一つも無い理想の人格を形成し、それをテストした上で主人格にするという、頭のおかしい一人遊びの実行機関、実行場が、ここ。


 私も以前の私も、神を名乗る者も、"世捨て髑髏どくろ"も、須らく、脳内に浮かんだ現実には存在しない作り物の類、……、"世捨て髑髏どくろ"だけは違うが……。


 私は転移者でもなく、過去の背景も、信念すらも全て作り物……。


 それでも別に私は壊れはしない。この作り物の世界でも、自分の意思で見つけた目的、見た関わった全てを忘れずにいる、その上で、旅の終着を、以前の私が私にたくした使命を叶える。それは私という存在自体が生み出した、誰かの手に依らない、確かな目標なのだから。


 とはいえ、依然の私、"夢想家"も、そりゃ、そんなとんでもない計画、私という、本質だけ同じ存在を作り出し、挑む世界の数と種類を固定し、それでいて、自身のつまづいた二つ目の世界特攻仕様にしつつも、他の世界でその無垢むくさに付けこまれないだけの知識。思考の為の知識。それらを用意した上で、自分でない、しかし、もう一人の、自身の別の可能性が形になった者に、全てを託す。そして、もし願いが叶ったら、その後の自身の存在すら、放棄しても構わないという、自分を捨てつつも、自身の意志を捨てていない、答え。


 そんな"夢想家"が設計して、その予想の上を行った完成度と言われた私だ。なら、きっと、何とかできる。


「【結論を出すのは後でもできるだろう? こいつの話を貴様は聞くべきだ。時間の許す限り。貴様はもっと慎重な者の筈だ、本来。急くな、しかし、緩むな。貴様ならできるだろう。では、我はこの辺りで、お暇するとしよう。もうこの部屋の前まで、偽神の尖兵せんぺいは侵攻してきておるからな。では、後は上手くやれ。そして、我に、永遠の安寧、理想の夢想の具現という奇蹟きせきを、見せてくれ】」


「【らしくねぇな、しゃっきりしろや】」


「【ふあはは、"夢想家"よ。輝いておるではないか。心が。我が見ている中でも、最もすがすがしく、ふてぶてしく、素敵な在り様だぞ、それは。その調子で、後は任せる】」


 チャリン!


 虹色の輝きを仄かに放つ、人差し指程度の大きさの小さな十字の形をした鍵が音を立てて"夢想家"の足元に落ちると共に、"世捨て髑髏どくろ"はこの場から姿を消した。






 まだ周囲で鳴り響いている筈の轟音は聞こえて来ず、周囲は崩れる様子を見せていないとはいえ、もう猶予ゆうよは無い。


 もう、口は挟まない。唯、聞くだけだ。


「【俺が出した答えは簡単だ。俺以外の奴は、俺から見たらヘボだった。俺より見込みありような奴が一人もいなかった。だからよぉ、俺は言ってやった。俺がやるのが一番だ。しかし、俺が俺のままでやっても、二つ目の世界でまるだけだ。それに、俺以外が挑むとなると、選ばれる世界も数も変わる。順路も恐らく千差万別。となりゃあ、俺がやるのが一番マシってことになる】」


 だが、それは解決になっていない。


「【その通り、解決になっていねぇ。要するに問題は二つ目の世界。ここで俺のこの悪辣あくらつな性格とは真逆、純白さが必要になる。じゃあ、答えは簡単だ。俺を漂白すればいい。俺から、俺が悪辣あくらつな存在である根本を、俺という本質を残した状態で漂白すればいい】」


「【漂白の方法だが、ゆっくりやるか、一気にやるか。ゆっくりやるなら、転生して、俺自身の努力によって、悪辣を削る。転移なら、悪辣を削り切った無垢な状態から、脳味噌のうみそリセット。簡単に思い浮かぶのはこのどちらかになる。何でもありと言われれば、実際は転生は無理であっても、思考ゲームとしちゃあ、その発想もアリだろう?】」


「【だが、それでは駄目だ。どちらの手段を取れるにしても駄目。転生して、無力な状態で、どうやって生きていける、生き残れる? まあ、どっちにしろ、人として生まれる母体が無い地点でどっちにしろどうしようもねぇがな。だから、転生でなく、転移、できるだけ、今の俺であるというメリットを持って行きやすいそちらを選択する。】」


「【……。全然理論立っていない、直感的な、思いつき的な発想を無理やり、順序立てようとした結果の、妄言みてぇなもんだ。だから、矛盾で考え込むのは後にしてくれ】」


 そう言われて私は自身が険しい顔をして、矛盾の辻褄合つじつまあわせを始めていたことに何とか気付けた。






「【で、そっから何て言ったかは、俺も覚えていねぇ。頭の中のあらしと戦いつつだったからなぁ……。で、要約するように、その考えの結論の骨子を最後にまとめた】」


「【要するに、俺が俺の儘で、別の可能性、そう、悪辣あくらつじゃなく、無垢むくに寄りつつも、発想が豊かで尽きず、諦めないガッツある俺という、俺という存在のある意味反対側といえるような、別の到達点。そんな、悪辣あくらつ無垢むくに反転した俺という存在が、可能性を用意できればいい訳だ】」


「【別ベクトルで突き抜けた俺の亜種。だが根本でそれは俺から創られたもの。となりゃあ、選ばれる世界も順路も同じ。なら、対策を用意できる。仕込める。誘導できる。俺は人を疑い過ぎる。それが問題だった訳だが、それも、自分と本質が同じ存在なら、俺は全てを任せられる。俺は俺を何処までも信じているからだ】」


「【それに俺は、本来、"世捨て髑髏どくろ"の気まぐれで救われなかったら、消えていた。俺はある意味、試練に敗れたみてぇなもんだ。それでいて、俺の背景も、目標も、転移に託した願いも嘘だっていうんなら、俺が信じられるものなんて、俺の矜持きょうじくれぇだ。俺は再び挑戦する気はねぇ。だが、別にそれが、この俺そのものでなければ、別に構わねぇ。俺と同一の株分けであっても、俺とそれが別物で、それが俺とは別の自身の願いを持ってくれるっていうんなら、構わねぇ】」


「【だから俺は、無垢むくな俺として、お前という、無垢むくであるが、俺の知識と、知識としての、実感の無い経験を持つ、人格を創り出せばいいと言った。奴はそれだと効率が悪いのではないかと、突っ込んできた。お前を従属人格として保持し、二つ目の世界で人格を切り替え、お前にスイッチしてあのくさ双子ふたごを始末するのが俺の中で最も理想的な手だろう、と。心を読んで指摘されたが、腹が立った。それが理想と分かっていても俺はそうする気にはなれなかった。全て仕込まれたこと。そう思っちまうと、なぁ……。それに、この完璧な理想目指して失敗してる奴に理想なんて言われてもって、思っちまうのはあまのじゃくな俺にとって、至極当然のこった。】」


「【なら、いっそのこと、お前に全て任せちまえばいい。後はお前が最後の試練、偽神に挑む前に俺の前に立ち、俺が仕込んだものじゃぁねぇ、お前が抱いた願いが、目標があって、揺るがねぇなら、文句はねぇ。何、駄目なら、余りにも身勝手なこの世界への最後っが不発だったってだけだ。俺自身の身立てが甘かったんだな、と笑って、消えてやる。話しながら、そうやって、俺の中で身の振りの結論が付いちまったんだ】」


「【おまけに、弄るのは記憶云々だけには留めねぇ。この世界に馴染むことができる、大人であるが、子供の如く成長変動するように、脳と神経含む感覚系、筋肉や骨への成長刺激、負荷による血管造成率を子供並みになるようににいじって、短期間でこの世界に馴染む、適応する体と精神。要するに、亜種俺の促成栽培の種を俺の代わりに派遣するっていう奇手を考案したって訳だ】」


「【今考えても、無理と矛盾のオンパレードだな。よくこれで何となかったもんだ。まあ、最後っだから好き勝手やってやろうっていうので出した答えだったが、あいつにそれが大受けしてよぉ、実際にお前という存在を作ることになった訳だ。】」


「【具体的な細かいところを詰めていっていると、何か、すげえ馬鹿ばかげた空想なのに、何故か上手くいきそうな気がしてよぉ、上手くいくとしたら、俺は思いっ切り、偽神と"世捨て髑髏"に愉悦できる訳だ。てめぇらが、気が遠くなるまでやってたこと、俺のイカレた思いつき程度で、何とかなっちまうことだったんだぜぇ、と】」


「【つぅことで、俺の願いってのは、お前がこの世界の支配者となり、この夢を終わらせ、この世界を生み出す体の主人格となることだ】」


 ゴォオオオオオオオオ――――!


 聞こえ始めてきた、崩壊の音。


 どうやら、もう、"世捨て髑髏"の遅延工作は限界らしい。






 ゴォオオオオオオオ!


「【最後に聞く。こんなどうしようもねぇ、そう、お前が主人格としてこの世界を生み出した体の脳のスポットに立つかどうかの試金石ってこと以外、全部夢オチっていう話だった訳だが、それでも、お前は、殺るのか、偽神を】」


「以前の私よ、私はもう大丈夫です」


 もう最後だ、なら、全てを聞いた後でも変わらず敬愛する以前の私に、私の本心を、そのままぶつけるべきだ。


「私が歩みを止められない理由は、貴方様だけではもう無いのです。私は私のこの世界での旅路と、そこで会った全ての人たちのことを憶えておく。そう心に誓っています。貴方様が私に託して降りると全てを任せて下さる以上、私は願いを叶える為には、自身の手で最後までやり遂げる他、無いのです」


「【そうか。はは。気まぐれというより、気の迷いの結果であったが、それでも俺の理想の上を行く、奇蹟きせきを俺はお前に見た。知っているか、奇蹟は二度は起こらない。俺の理想を上回るという奇蹟を、今一度、起こして欲しい。俺の前に立って、俺が一つの不満無く認めたということ。そこに、偽神をたおすという奇蹟を乗せて、必然にしてくれ。全て俺の想定以上だ、と、心の底から、愉悦させてくれ、ほら、かぎだ。手に取って、点へ翳し、左に回せ。それで、延々と続く光の回廊へ転移する。じゃあな、"名無し"!】」


「あ、ちょっと、待……――」


 ギッ、ニギッ、


 そのかぎを握らされ、手を天にかざされ、左に回されて、


 ブゥオオオオオオオオオオオオ――――!


 私は突如現れた白い光の柱に、包まれた。

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