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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第六章第一節 崩れ堕ちる神秘の園
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神秘庭園 偽天球壁 底 闇底骨廟 集いし三人 Ⅱ

 という嫌悪に耐える時間は、思っていたより早く終わることとなった。


 というのも、入口部分の通路は50メートルも無かった。恐らく30メートル位といったところだっただろう。


 コロォォ、ミシィィ、コロォォ、ミシシィィ、カラッ、カラッ、カラッ。


 足音の変化と共に、広い空間に出て私は立ち止まった。そして、まず床面を見る。入口付近と同じ、縦長の骨のフローリングにまた切り替わっているようだ。


 ……。後は、帰り際、耐えればいいだけだ。……。別の経路が用意されていたら避けられるが……余り期待はできまい……。


 顔を上げて、私は周囲を見渡し始めた。そうやって、縮こまらず動けているということは、思っていたよりも、私は今正気でいられているらしい。


 風一つ吹かない、私が動きさえしなければ静かな空間であるということもあるが、比較的落ち着いていられる原因はそれだけではない。


 この空間を形作る骨たちが、野晒のざらしになったりしての死肉を犬などに食われてや、腐乱死体ふらんしたいを経たりの、といった白骨化では無い、ちゃんと処理されて臭いがしないようにされているようであるらしいというのが最も大きいだろう。


 それに、使われている骨は、痛みや損傷が余り見られないものを選んで使っているようだ。


 周囲は、中はやみ色と骨色だけではなく、ほのかに明るく、薄暗い。光源は、入り口を縁取る頭蓋骨に灯った青白い炎とは違う類の何かであるような感じだ。だが、そのほのかな光には指向性は見られない。満遍まんべんなく、仄明ほのあかるい。そんな感じだ。


 骨でできた、横長の長椅子ながいすが左右に分かれて、教会等に並べられたもののように、列をなしている。そこには誰も座っていない。


 壁面にも、骨による様々な幾何学模様が並ぶ。それが何を意味するかは検討がつかない。意味は無いかも知れないし、何かそれなりの意味が込められているかも知れない。


 妙に天井が高い。天井には、骨でできたシャンデリアが見える。非常に芸術性が高い。灯りの種類は火であるらしい。髑髏どくろの目の中には、光は灯っていない。


 外から見たときとは違い、まるで、何かの宗教施設然とした感じが割と露骨に出ている。恐らくここは、祈り等を行う場所、だろう。


 となれば、前にいけば、何かある、か?


 やはり、視程10メートル程度の今の状態だと色々、はかどらない……。これでは、何かあっても、対応が遅れてしまう……。


 何か手を考えておく必要がありそうだ。






 カラッ、カラッ、カラッ、カラッ、――――、カラッ。


 腰骨が盤台となっている、演説台のようなだんがあった。段差になっており、そこに登った者の姿が周囲から見えやすいように横長の直方体の、周囲より20センチ程度高い段になっているようだ。


 壇辺だんあたりは光が少しばかり強くなっているらしい。それでも、薄明かりの域を出てはいないが。


 コトン、カッ、カッ、カッ、カッ。


 上へと登ってみると、矢鱈やたらに骨にしては高めに音を響かせている。そうして、だんの前に立ってみると、


 ほう、ここからだと、並ぶ椅子いすが、最も遠い位置のまで、割としっかり見えるようになっているのか。


 これで、確定、だろうか? ここは、恐らく、私の知らぬ異教の宗教施設だ。にしても、シンボルらしきものが見当たらないが……。


 後ろを振り向く。その裏に、真っ直ぐ、先への道が続いているように見える。幅50センチ程度の道が、延々と向こうまで続いているように見える。






 他に道は見当たらない。つまり、順路はこっち、ということだろう。


 カッ、カッ、カッ、カッ、――――


 そうして、歩を進めていくと、恐らく、50メートル程度直進したところで、一際存在感を示している、球状に形作られた、私の身長よりも少し大きい位の直径の、中に何も入っていない骨のおりらしきオブジェが現れた。


 まさか、これがこの宗教施設の、御神体、だろうか?


 そこからは、周囲とは違う、そう、少しばかり蒼白あおじろっぽい色の光が薄くも揺らいで漂っているかのように見えたから。


 上を見上げるが、それらの由来は天井から降り注いでいる訳でも無さそうだ。そして、床面からでもない。


 それのある辺りは、円形の足場になっていた。それを中心とした、半径5メートル程度の。


 それ以外に、そこには何もなく、奥も右も左も、空間が続いている。段差から降りて、進んでいけば、きっと、他の部屋への出入り口があるはずだ。


 先ずは、奥から行ってみるとしよう。


 そうして、そのオブジェを後にしようとしたところで、


「【まさか、此処ここまで辿り着くとはな。最後になって、同じ肉体で、異なる精神で、()人格共()到達して見せるとは。はは、どうやら、()()戯言ざれごとの通りに、なるとはな】」


 これまでと同様の、声と文字の同時表示が突然、された。それは、低く、伸びのある、腹に響く、老(かい)な老人をイメージさせるような声だった。


 その内容以上に、


「お前は、だ、……――、うっ……」


 何よりそれが、気になった。恐らく、私の会うべき二人のどちらかだ。そして、その内容からして恐らく、もう片方も、近くに、いる。


 ごくり。


 すぐ後ろから聞こえてきた感じであることからして、その声の主は今、私の真後ろに、いる……!


 私はあわてて直ぐに振り向きたかったが、『お前は誰だ』と、警戒けいかいしつつ、距離を空けつつ、言おうと思ったのだが、真後ろに向けて半分も振り返らないうちに、急に視界が歪み、意識が薄れていく。


 溶けていくような、混ざり合うような……。もう、目を開いていられない……。立っていられない……。意識を保て……な……。


「【お……れ……】」


 かすむ視界と、遠のく意識に響く声は、老人の様な声とは別の者の声だ。とても優し気な声で、だが……何と言っているか、分からない。


 バタッ……。


 そうして、突如、意識を失うこととなった……。






「【そろそろ起きないか? おお、起きたか。おい、"世捨て髑髏どくろ"、お目当てが目ぇ、覚ましたみたいだぜ】」


 その、今度ははっきり聞こえたその、さわやかさの中に割と色濃くワイルドな感じが見え隠れするようなクールな感じの、そう、バリトン声に近い、これは。そんな声が、はっきり聞こえ――――、綺麗きれいに私は目を覚ましていた。


 周囲の光景も、最初から鮮明に見える。見えない天井を向いて、骨の床の上に私は仰向けに寝そべっているようだ。


 妙に体に痛みを感じるのは、恐らく、そこは、いつまでも寝ているには、寝心地最悪に近いような凸凹加減でこぼこかげんだったからだ……。


 取り敢えずは、体を起こしてみた。そして、


「うおっ」


 びっくりして思わず声を上げ、後ずさる羽目になった……。


 骨のおりらしき物の中の何にいる、この、まるで巨人のそれのような浮遊するしゃれこうべは……何だ……。


 ボウッ!


 それは、私の方を向き、両目のくぼみに蒼白あおじろい炎を浮かべ、


 カチカチカチ!


 あごを動かし、上下の歯をこすり弾き合わせるように鳴らす……。


「【臆病者おくびょうもの、か。だが、だからこそ、相応しと言える】」


「で、貴方は、一体、何者だ?」


 てのひらと、わきの汗が止まらなかったが、未だ足腰はしっかり立つことができる感じではなかったが、私はそう、平静を装うように、尋ねた。


 カチチカチカチ!


「【見ての通り、世捨て人だが】」


 どうやら、それは、人であると主張しているが、どう見ても異形の類である……。


「【あぁ、君のことは知っている。だから、説明する必要は無い。ほら、いつまでも透過しておらず、顔見せせぬで良いのか? 種明かしすると言っていたではないか、"夢想家"。】」


「【ああ、分かってる。だが、その呼び名はもう返上して構わねぇんじゃねぇか? 俺は夢想染みたことを、この通り、形にしてみせたのだから。】」


 スゥゥ!


 "世捨て髑髏どくろ"と呼ばれたそれの左隣、おりの外側に、"夢想家"と呼ばれるそれは、姿を現した。


「そちらの方も、異形、か……」


 それは、きらめく光を内包した、半透明なゲル状の流動体が、ゆるく人の形を取ったものだった。だから性別は分からない。


 その"世捨て髑髏どくろ"の眷属けんぞくか? それとも……、まさか……?


「【仕方ねぇだろう、俺の本来の体は、お前に、明け渡しちまってんだからよぉ。】」


「……っ。無礼を働き、申し訳、ありません! 以前の私、でしたかっ。お会いできて、光栄ですっ!」


 そして、私は思わず、謝罪と共に、何故か、声を張って敬礼した……。

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