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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第六章第一節 崩れ堕ちる神秘の園
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神秘庭園 偽天球壁 底 闇底骨廟 集いし三人 Ⅰ

 ……。


 私は意識を失わなっていなかった。衝撃は一切訪れず、一切の音なく、私は、あっけない位に何ともなく、あっさり、静止するかのように着地した。


 そう判断したのは、落下の風圧を急に一切感じなくなったからだ。


 そうしてじっとしていて、目が慣れてきて、周囲に散る、庭園の瓦礫がれきから、私は別に死んでいる訳でもなく、ここは目的地、庭園の底であることが分かった。


 闇に、瓦礫がれきと土砂が半ばめり込むように埋まっているのは、何とも言えない奇妙な感じだ。


 よくもこんな、光も何も無い場所で、周囲の様子が見えるものだ。闇の中で、周囲の色形がはっきり見えるというのは、もう既に何度か味わっているものではあるが、どうも慣れない。


 背後には、恐らく、後で上に登る為であろうが、灰色のとうが、口を開いている。先ほど登らされたとうと同じ位の径で、色合いが暗いということ以外、一見大きな違いは無い。


 恐らく、この、底にいる者が、ここでの用を私が終わらせた後の為に用意したのだろう。


 中には、ほのかな白い光を放つ大きさ1センチ程度の石が、内部階段の壁面や段の所々に埋め込まれているようだ。


 恐らくその原料は、庭園を構成する石材をくだいたものだろう。


 周囲の大気中に、庭園石材の粉がほこりのように舞っているのが、周囲の光景が見える仕組みだろうか? それは弱々しくて、今の今まで目が慣れなかったが。


 階段を内包したその灰色のとうは、以前の私の授けてくれた知識の中の、某、斜めってるそびえるとうの如く、地面に刺さっているかのように傾いている。10度程度だろうか? よく倒れないものだ。


 そういうなら、先ほど登らされた塔の方が、もっと奇妙であるが、それは置いておくとして。


 フゥオオオ!


 周囲の大きめの庭園石材がほのかな光を発し始める。更に一段と、周囲の様子が分かるようになった。


 そこは、黒茶色の土に埋もれた、庭園の瓦礫がれきと、ほぼ原形を留めた状態の傾き10度程度の灰色の、階段を内包したとうが突き刺さるった、廃墟はいきょだった。






 ズッ、ズッ、ズッ、ズッ――――。


 私は周囲の探索を始めた。何処かに、零落れいらくした原初の神と、来訪者、又の呼び方を、転移物、そして、以前の私。その二人が、いるはずなのだから。


 一見ここには、神を名乗る者の手は及ばないようだが、それは一時的なものであるという可能性はぬぐえない。


 早いこと合流した方がいい。そう思って、宛ても無く私は動き出したのだ。


 ゴツッ!


 ……。壁、か?


 ペタッ、ペタッ、ペタッ――――。


 手で探り、確かめる。上へ下へ、右へ左へ。


 見えない、闇色の、湾曲した、ドームの内壁のような、壁、か?


 ペタッ、ペタッ、ペタッ――――


 そうして私は、その壁面に沿って、時計回りに進み始めた。手に、庭園の石材の粉を付けて。それを壁にこすりつけつつ。


 これでこの場所の形状が把握できる、だろう。単純に、ドーム状の半球か、それとも、別の、もっと複雑な形をしているのか。






 ズッ、ズッ、ズッ、ズッ。これで、一周した、かな? かなりの広さであるようだ。


 ペタッ、ペタッ。


 取り敢えず、天井はかなり高いらしい。壁側から数メートル離れただけで、手が届かなくなる。そして、反対側を向いても、その方向にあるであろう壁面は見えている感じはしない。


前に進むにつれて高くなっていっている。最低でも100メートル以上はありそうであるが、そこから先は見えない。前方も100メートル程度から先は見えない。


 場所の形は、ドーム状で間違いない。だが、広さは、かなりのものであろうし、正直、視界に全景が収まらないのだから、ぴんと頭の中に具体的な広さを浮かべることはできそうにない。


 壁面に沿って歩いても何も無かった、ということは、この、円状の地面の、内側方向に、恐らく私が会わなくてはいけない二人か、次の場所への順路があるのだろう。


 その辺から拾い上げた、大体一ブロック分位の煉瓦れんが状の庭園の石材の断片を周囲10メートル程度を照らす電灯として使いつつ、内側へと歩き始めた。






 この空間には何があるのだろうか?


 巨大な建造物か? 巨大な在る種の生物か? 別の場所へと繋がる道か? 更なる深淵しんえんへと口を開けた穴か?


 そんなことを考えながら探索を続けていると、見つかったのは、建造物らしき物だった。


 視程10メートル。一見かなりの範囲が見えているようで、かなり不自由だ。見えるそれの全容はそんな僅かな可視範囲の継ぎ接ぎで、しっかりととらえられるはずはあるまい。


 だが、それで、良かったと思う。


 腰を抜かさずに済んだのだから。


 部分部分を見ていっていて、妙にそれに、既視感を感じずにはいられなかった。そして、それは、ちょっとどころではない、不吉な感じを、かもし出していたのだから。


 ……。


 私はそれを構成する部品の一つに恐る恐る、手を触れてみた。


 スッ、スゥ~、スッ。


 白を基調にしつつも、黄ばんだような、表面にざらつきや孔がある。


 カリ、カリ。


 爪を立ててみると、ポリポリと、その表面が崩れ、傷が付いて、表面以上の多孔質が姿を見せる。


 ……。


 指で弾いてみる。


 コォン。


 少々高めの、響くような、しかし短い音がした。


 間違いなく、弁解の余地などなく、言い逃れはもうできない。認めるしかない。


 これは、人の、骨だ……。


 以前の私が頭の中に置いていた知識が、そうだと、私に分からせてしまう……。否定できないほど、はっきり、断定するのだ……。






 柵の一部を構成するものとして存在している、誰の物かも知れぬ上腕骨に左手で触れながら、右手に握った明かりで目前を照らす。


 それは間違いなく、狂気の産物。だが、ある種の芸術でもあるといえる。髑髏どくろや胸骨や腰骨や背骨。人体のあらゆる部位の骨で、それは構成されていた。


 コツ、コツ、コツ、コツ――――。


 その建造物は、凡そ、直方体の組み合わせによってできた、計画されて、設計されて、人為的に作られたものらしいということが、分かった……。


 手に持つ明かりによる10メートルの視程ではどう足掻いても、全容がつかめないほど巨大であった。


 一度に見得る可視範囲が狭すぎて、その構造は、大きさは、はっきりとは把握できない。が、大まかに見て、十数メートルという程度では済まない。そして、一層立てでは無さそうだ。二層以上あるのは確実だろう。その頂は見えなかった。


 そう見える風に作ってあるのか、本当に見た通りなのかは定かではないが。


 つまり、私の目前には、その全てが人骨でできた、ある種の境界や寺院のような用途不明の巨大な建物がたたずんでいた。見た限り、その建物には、宗教的なシンボルは私の知る範囲のものは無いようだからだ。






 建築様式は、不明。


 恐らく、この中に入るのが、順路だろう。こんな建物が、何もないなんてことはまず、無いだろう。


 それに、このような奇怪きかいな建物であるが、信じられないことに、以前の私が頭の中に置いてくれている知識の中に、類似する類のものが、存在しているのだ……。


 それは、以前の私のいた世界の、宗教的施設兼墓地として存在した建造物だった。


 さて、なら、ここも、そういう施設、ということ、か?


 だが、記憶の中のその映像の建物では、人骨は建物の装飾や、シャンデリア等のインテリア的なものとして使われていた。骨はあくまで、その教会の基盤を支える資材では無く、シンボル的な装飾にてっしていた。


 ……。


 ただ、不気味だった。


 静寂せいじゃくが漂う。


 この建物では、骨組みとしても装飾としても人骨が使われている。主に縦長棒状の骨、腕やあしの骨によって壁面のほとどは作られている。


 骨と骨の間は黒い何かで埋められているようだが、そういう黒い部分は触れても、感覚はない……。唯、それより先に指先を進められない、見えない実体のある壁として存在しているかのよう……。


 私は、この建物の入口の前にいる。入口は見たところ、この一箇所しか存在していないらしい。


 山形食パンの断面のような形状になるように、頭蓋骨ずがいこつで縁取られた、とびら無い入口。最も高いところは、私の背丈の倍程度はある。横幅も数メートルある。段差は無く、真っ直ぐ続いているように見えるが、先へ進む程、左右と上の壁が低く狭くなっているように見える……。


 気のせいじゃあ、無い……。使われている骨に、個体差が、ある……。それに気づいて、しまった……。


 ごくりっ。


 あふれてきた唾液だえきを飲み込み、流れてきた冷や汗をぬぐい、私は歩を進める。


 ズッ、ズッ、ズッ、ズッ、カラッ、カラッ、カラッ、カラッ……。


 床面としても、縦長の骨が幾つもフローリングの如く、入口境界面辺りからめられて、私の足音は、とても不気味なものに、変わった……。


 再び、歩き出す。ゆっくり、ゆっくりと……。


 ボォゥゥッ!


 っ!


 後ろを振り向く。


 今しがた通り過ぎた、入口境界面を形作る、頭蓋骨ずがいこつたちが、目玉の収まっていた位置に、蒼白あおじろい炎を、灯したのが、見えた……。


 ……。顎部分あごが動き出して、一斉にカチカチしたりし出さないだけ、ましだ、まだ、まし……。


 そう、自分をごまかしつつ、進む……。


 数十メートル程度進んだところで、天井や横幅が、私が立って普通に進むのがギリギリ位になり、それ以上はせまく小さくはならなくなった。


 だが……。


 カラッ、カラッ、……、コロォォ、ミシィィ、コロォォ、ミシシィィ――――。


 床の構成が、胸骨を平置きで進行方向に垂直にめたものに変わった……。歩くと妙にねる。そして足を浮かせると、きしむ音を立てるのだ……。ゆかが抜けるかのようにそれが折れないのが不思議である位に……。


 勘弁してくれ……。これは幾ら何でも、悪趣味あくしゅみ……過ぎる……。

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