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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第六節 儀礼決闘
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書海真名真姿 剥奪叡智の書海 雲上青空鏡 落下脱出躱身敵手 Ⅰ

 ゴォォォォ!


 地響きと共に、見えぬ端から、この場所は崩れ始めている。


 気付けば、私は最初庭園に降り立ったときと同様の状態に、服をまとっていた。こんなことする位なら、あの穴抜けの話の間隙を埋めて欲しかったが、今となってはどうにもならない。


 感傷に浸っている場合ではない。最も聞きたかった情報を引っ張り出せなかったことを後悔している暇はない。


 私は勝者となり、契約の書を回収し、一目散に、その場から離れていく。


 どの方角に行けばいいか全く分からないが、そうする他無かった。というのも―――― そうせざるを得なかったから。


 ツゥゥゥ、フゥオン、フゥオン、フゥオン――――!


 呪いに汚染された奴の灰が、まとまって、赤黒い柱の化け物数十体に変わった。ミニマムサイズではなく、私と同程度の大きさのものに。


 そして、私の方へ向かってきていたからだ。鏡の上に奴らは自身のその赤黒色の体液を射出し、その上をすべり、体当たりするという恐ろしく効率的な方法で私に触れようとしてきた。


 奴の話ぶりからして、恐らく、庭園に着いたら、もっと厄介やっかいな何かが起こりそうだ。ここで今起こっていることなど些細ささいになる位。


 だから奴はきっと、自身の見に密かに背負っていた、彼女経由での呪いの浸食しんしょくらしいそれによってもたらされるこれを、言わなかったのだろう。


 ブゥオンン、


 飛んで来るそいつらを、


 スッ!


 今はなんとか避けられているが、いつまでそれが続くかは分からない。


 足元が崩れるのを待ってなぞ、いられない。向かおう、端へと。崩れが起こっている辺りへと。そして、落ち、逃げ切らなくては。


 再び呪いに掛かるリスクを冒してこいつらを相手にする余裕など、無いのだから!






 スタタタタタタタ――――


 ブゥオンン、ブゥオンン、


 スッ、スッ!


 スタタタタタタタ――――


 一体どこまで逃げればいい。どうすれば、ここから脱出できる? 端はいつになれば、見える……。


 奴め……幾ら何でも、広大に作り過ぎだろうが……。


 すがる思いで契約書のページの何処かにそれについての追加情報が無いかめくるが、そこに答えは無い……。


 もっとちゃんと、具体的には、ここからの脱出方法について方角と経路を想定できる位まで、聞いておくべきだった……。


 どうせ、終わればすぐさま足元が崩れ、自動的に脱出できると軽くみていた……。そう甘くはないらしい……。






スタタタタタタタ――――


 ブゥオンン、ブゥオンン、


 スッ、スッ!


 スタタタタタタタ――――、スタリ!


「……、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、くそぉぉっ! だが、着いた、端に」


 数時間、体力と気力の限り、全力で逃げ、全力で回避し、やっとのことで、私は、鏡の角、つまり、空の大鏡の現地点での終わりの一角辺りにいた。


 さて、下の見えない、飛び降り……。


 とはいえ、籠の世界で似たようなものは経験してる、か。


 ジリッ、ジリッ、


 私は終わりの境界へ、後ずさる。


 ヌルッ、ヌルッ、


 赤黒い柱の化け物たちが、私を追い詰めるように、角を、私を、横向きの直線状に並ぶようにして、追いめてくる。距離をめてくる。


 一斉に滑り突進してこないが、きっとそれはわざとだ。私が飛び降りれないとこれらは判断している。当然だ、


 普通なら、この高さから落ちたら、間違い無く、死。


 だが、私は、それを一度経験している。死をかわしつつ。かごの世界で。しつこいようだが、そう自身に再度、言い聞かせる。


 できないはずもない。それに、躊躇ちゅうちょする時間は残されていない。


 後ろを見る。


 地は、微塵みじんも見えない。雲が広がっているだけ。だが、飛ぶ!


 ごくり。


 覚悟を決め、私は、飛んだ。本と球を抱え、立って、後ろ向きに、倒れるようにして、落ちていった。






 ブゥゥオオオオオオオオオオオ――――!


「うぉおおおおおおおおおおおぁあああああああああああああ」


 強烈な風圧。部分的ではなく、全身をそれが覆い、圧す。風のないこの場所で、そのような風圧が発生するのは少々予想外だった。


 が、備えていないわけではなかったので、契約の本も、球も手放しはしない。絶対放してなるものか、と思い力を込めておけば、精神の作用が肉体の作用に比べて何処までも強いこの世界では、決してそれを放す結果にはならない、と揺るがず信じて。


 上を見る。


 奴らも、とうとう落下を始めた。


 だが、私とはだいぶ距離がある。


 反動や、受ける風圧も考えて、あれなら、各個体、私への攻撃チャンスは一回あるかどうか、だろう。



 ビュゥンンン!


 スッ、


 ビュゥンンン! ビュゥンンン!


 スッ、スッ、


 ビュゥンンン! ビュゥンンン! ビュゥンンン!


 スッ、スッ、スッ、


 後は、下から、何発か来る、か?


 ビュゥンンン!


 スッ!


 よしっ!


 私は空中で身をらし、化け物たちの最後の足掻きのことごとくをかわす。


 かすることなく、全てを避け切り、下を見る。私よりも遥かに早い速度で落ちていった化け物たちは見えなくなっていた。






 さて、後は、着地だ。陸地が見えなくては、それはかなわないが、何処だ……?


 そう思いつつ、下を見ていると、突如、造られた雲と空と鏡の空間が終わったかと思うと、


 ブゥオン!


 ブゥオン!


 成程、そういう仕込みをしておいたのか、奴は。


 尊重台座末端である陸地が見えてきた。そして、化け物たちは、その陸地の上に着地できないように、排斥されているらしかった。


 ともなれば、後は、上手いこと、全身が砕けないように着地するだけ。


 想像するのは、どこまでも頑強がんきょうな自分。ギャクコメディーの世界のように、まるで何事も無かったかのような、着地。


 どうなる、どうなる、どうなる!


 よし、今だ。


 強固にイメージしろ、衝撃に、負けない、自分を! 奴がそういった心配をしなくていい程までに仕込みを組み込めていると期待してはならない。


 頭にふと浮かんだ、映像。それは、以前の私が参考映像として残していてくれた、人ならざるアンドロイドではあるが、人の皮を被ったかのようなアンドロイドのが、一切の損傷なく、綺麗に、大地に跡を残して着地する映像だった。


 ゴゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンン!


 私は、隕石いんせきの如く目標の場所へと着地した。


 はは……となれば、幾ら何でも、出来過ぎている。もしかして、もう一人、庭園の底で待つ、来訪者というのは、もしかして、以前の私、か?


 もやと煙と、わずかな雷光のエフェクトをまといながら、私はゆっくりと立ち上がった。


 未だ足に残る衝撃からして、ここでこのまま少し休んでおきたかったが、そうも言ってれらないらしい。


 このがけ、そして、後ろに見える図書館。どうやら、あの図書館の外の光景は、幻影であったらしい。


 そして、ここも、当然のように、崩れていき初めていた。


 スタタタタタタタタ――――


 私は、台座の根元へ、向かって走り、そして、橋をそのまま止まることなく駆け抜け、庭園中央まで、止まることなく、走り続けた。


 スタリッ!


 ゴゥゥウゥ、ガラララララララ!


 そうして、後ろを振り返ると、尊重台座の向こう岸は、その手前部分辺り以外、跡形も無く、崩れ去っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 肩で息をしながら、心の中で、勝ち誇る。


 何とか、間に合った、ぞ。さて、次は、何が起こる。


 気を緩めず、庭園に変化が起こるのを、座り込むこともせず、私は待つ。庭園中央に向かって歩いていきながら。

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