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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第六節 儀礼決闘
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書海真名真姿 剥奪叡智の書海 雲上青空鏡 密着距離倒位届死手 Ⅰ

 ギリリリリ!


 体重は既に掛けるだけ掛けている。だから、心を、精神を、乗せ、奴の精神による防御を、取り払おう。


 そうすれば、首はへし折れ、終わるだろう。奴は人に寄った姿で決闘けっとうに臨んだのだから、それで、終わる。


 念の為、折る際に一際強い心の言葉を、そう、止めの言葉を、死を認識させるように、振りかざせばいい。


 ギリリリリリ!


『では、私も、そ"う"させてもら"う"と"、しよう』


 ブォォ!


「何っ……」






 奴の尻尾しっぽは突如、細長いタイプの風船のようにその体積を数十倍、いや、数百倍に増大し、破裂!


 奴は両手を自由にしつつ、私をその余波で浮かすように弾き上げつつ、両足のしばりも、新たにまた急速に再生させた尻尾しっぽを振るい、解く。


 そして、――――私と奴は、組みあっていた。


『もう私にも余力は無い。こういった手品はもう無い。とはいえ、君も同じだろう。寝技での根競べで勝負を付けるとしようか』


 奴から伝わってきた心の言葉。奴の今の顔色から、息の上がり方から、それは本当だろう。というより、そうであってもらわなくては、困る……。


 私は尻尾で私を押さえている。そして、私は両手で、やはり存在していた、奴の、一対の翼の根元をつかんで押さえている。


 奴は私の足の関節を取ろうとしている。私は、奴の両翼をもぎ取ろうとしている。


 私がそれをつかんでいるのは、それの存在に気付けたのは、奴の動きが、立体的過ぎるとずっと引っ掛かっていたからだ。まるで何かに補助されているかのような、そんな感じだったからだ。


『未だ、隠し玉を伏せていたか、何処が正面からやり合う、だ』


 と伝えると、


『だが、君は推理し、私がその札を切る前に、気づいて、今こうしているではないか。折ってしまわないのかい?』


 そんな風に、奴は意地悪くほくそ笑む。






 ガッ、ガッ!


 奴のひざが、私の脇腹わきばらを横からおそう。まともに威力を発揮するには距離が足りていないそれだが、回数が重なって、ダメージとして現れてきていた……。


 私は、奴の両翼をへし折り、首を極めに掛かっているというのに……。ここまで来たら、もう、根競べだ。


「げほぅぅ……」


 そうやって、血をいたのは私……。それも、一度目ではなく、二度目……。


 二度の吐血。一度目は口の中一杯程度だった。だが、この二度目は、バケツ一杯分いっぱいぶんくらい……。盛大にき出したのだ……。片肺が、折れたあばら骨によって、貫かれているのだから……。


 当然のように、影響は出始めていた。視界がくらむといえばいいのか、ぼやけるといえばいいのか。それがまれに、おそってくる。波があるのだ。だからこそ、それは非常に耐え難い……。


 奴が私の心に言葉を響かせているが、もう、それが何と言っているのか聞き取れない位に、頭の中で、自身の声が、喚いているのだ。痛みと恐怖に……。


 このままだと、私は、負ける……。奴は意識を未だはっきりさせ、首を精神力で守り切っているのに、私は意識が飛びそうなのだから。肉体的には、私も、奴をたおしに掛かって、王手を掛けている状態ではあるが……。






 自身の頭の中で思考が渦巻うずまく。


 そのまま込めた。込めて、奴に、ぶつけた。未だ……勝負は終わっていない。負ける訳には……いかないのだ……。相手である奴ですら、私の勝ちを望んでいる状況で……。


 ……。私はこれだけは、負けなかった。意思だけは。私の意志は、どれだけの無謀むぼうでも無茶でも理不尽でも、折れなかった。


 負けてはならない、ではない。私は目的を果たすまで、死ねない……。死ぬ訳にはいかない……。


 どれだけ、犠牲ぎせいにして、どれだけ、背負ってきたと思う。


 これまでの旅路と、自身の為に犠牲ぎせいになってくれた、いしずえとなってくれた者たちのことを思い返す。


 そして、その最後……。


 それに、彼女、ティアに……、ちかったではないか。


 意識の中での心のざわめきは止まった。


 カッ、ギリリリリリ、メキメキメキメキ、


 私は、水を得た魚の如く力を取り戻し、奴の精神的な防御補強を突き破りそうな勢いで、首をめる。


 そのまま首をへし折ってしまいそうな勢いとなった私を見て、奴はにやりと笑った。


 ガッ、ガッ!


 奴のひざが、私の脇腹わきばらを横からおそう。先ほどまでよりも勢いを増して。


 何故か奴の方もやる気と言えばいいのか、そういったものを強く持った風だった。


 となれば、心の、勝負、か。


 私は、腕越しに響かせる奴へぶつける心の声を、出来得る限り、大きく強く、響かせる。


『一方的に、勝手に期待して、勝手に全てを賭けて、勝手に今にも見限ることすら考えている?』


 気力を一気に注がなくてはならないのだ。脳に、思考に、負担が掛かる。


『何様だ、お前は。唯の敗者だろう、お前は。自分自身に負けたことを未だ受け入れられず、未練にしがみつく、そのざま、まるで、生きながらに死んでいるかのようではないか!』


 ギリリリリ!


 掛ける力も、心の声の上乗せで、強くなっている、が……、


 ブッ、ブシャァァアアアアア!


 不味いことに、血が、き出してきたらしい。脇腹わきばら下辺り、けた、か……?


 折れた骨と、奴の膝、当たりどころが、悪かった、か? それだけでも無さそうだ……。血圧が、上がり過ぎている、のも原因かも知れない。


 なら、尚更、引けない……。


『どうして、唯、未練塗みれんまみれで、日々を、ティアや他の娘たちと平穏と過ごすことすらしなかった……? 何故、犠牲ぎせいにした……、道連れにした……』


 方向性を変え、唯、心のかたまりをぶつけるのではなく、心理的な攻撃へと転向する。


 ギリリリリ!


 分かる……。腕から奴の首に掛ける力が、弱まりつつある。少しずつ、だが……。もうそう、時間は無い……。


 これが、最後のぶつかり合いになる。私の放つ、最後のラッシュになる。


 そう、覚悟を、決めた。






『彼女らは、お前の分体では無いだろうが……。何故、巻き込んだ、何故、にえにした……。あれでも娘の代わりではない、新たな娘たち、としてしっかり見ていたのだろう……』


 ブチャッ、メチャッ、ブチャッブチャッブチャッメチャッ!


 奴の膝は、遠慮なく私の傷口から、奥へ奥へ、響かせるように、攻撃してくる。


『……。君に、何が、分かる! どれだけ、私が、苦しんだ、かぁああ、君なんぞに、分かる訳が、あるまぁいいいい!』






 ギリリリリリ!


 ブチャッ、メチャッ!


 折り重なって、互いに互いを痛めつける。それは、精神的な面では、もっと激しかった。


『答えろよ、何か……。返答しろよ、その拳で。引きがすなんて行為ではなく、私の頭を直接殴りつけて、伝えて来いよ……』


 キリリリリリ!


 バァシッ!


 奴が放った、距離的にジャブにしかならない拳からの、返答。


『娘を救う。そう思って転移してきたっ! そう思うことすら、嘘であって、神擬きの植え付けた、偽りの記憶であって、それでぇえ、何を信じて、突き進め、というのだあああああ!』


 キリリリ、ミシシシシ!


『知るかぁあああ、そんなことぉおおお! なら、てめぇが、そんな根拠無いとのたまう想いの果てに創りだした、娘たちは、ティアは、そんな……、自滅願望に巻き込まれた、とあっちゃあ、あんまりに、報われないだろうがぁ……』


 ブチャァ、ベチャァァ!


『何故っ! 何故だあああああ、何故、君は、それを聞いても全く、揺るがない、のだ……! 私の身の真実は、君にも、当てまるかも知れないではないか! 君には過去の記憶が無い。それは、ある意味、私と同じく、始まりの根拠が何処までも弱い、そういうことだろうがぁああ!』


 ギリリリ、ピキピキピキ!


『どんな結果になったとしても……。名を付けてくれなかったお前をそれでも、主様、と、何処か、おとうさま、と呼びたいのをこらえつつ、お前を父親と見ていたかのようだったあの子が、余りに、報われ、なさ、過ぎる……。あの子まで、てめぇのその後ろ向きな想いを……背負わせていたことに、どうして、……かしこいてめぇが、気付けないっ……!』

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