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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第六節 儀礼決闘
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書海真名真姿 剥奪叡智の書海 雲上青空鏡 肉弾茶番劇死闘 Ⅲ

 すぐさま距離を取る。焦った顔をして。当然それは演技。奴に次の一撃を打たせる為に、誘導する為の。


 ここで私が退く動きをするということは、今の叩きつけが、奴にそれなりにダメージを与えたが、このまま攻めてはいかない、という偽の意志の表示。


 そうして――――、掛かったなぁあああ! さっき一度見たから、覚えている。力んだ尻尾鞭しっぽむちの一撃の直前、引きまる大腿だいたい


 だから、これは単発。


 そして、起動は先ほどと同じタイプ。奴の目線で、右回りか左回りの振り払い上げ攻撃は判断。私から見て、今度は左側から来る!


 これだけ読めていて、未だスローの世界は維持できている。自分から激しくラッシュ等の動きに出られなかったことが、運よくいい方向に働いたか。


 体の軸をずらして、それを避けつつ、私は、それの打点、最大速度と、最大の力が発揮されるピークを過ぎ、衰退し、戻っていくそれを、左足で踏み付け、


 ブツゥゥゥ……、ゥゥイイイイイイイ、プッ、


 一瞬ぴんと張らせ、奴を驚かせつつ、離す。


 それは、奴に向かって、襲い掛かる。自動追尾してくれる。根元は奴についているのだから。むちの暴発による、自爆の如く。しかしそれは、不意の、そして十分な威力の攻撃になる!


 バチィイイイイイイイイイイイイイ!


「っ、うぉおおおああああああっぁぁあああああああああ」


 そうして奴は、自己暗示によるガードも肉体的ないなしやガードも間に合わなかったようで、無防備にそれを受けた。


むちのようにしなる、不可視の器官。それは、臀部でんぶから生えた自在に動かせる尻尾しっぽ。悪魔の尻尾しっぽ。不可視ながらも、それにはちゃんと実体はある。太さも質量も、ある。尻尾しっぽであるが、その一撃は、むちのそれさながら。なら、返しの一撃の際を狙えばいい」


 そう誇らしげに勝ち誇る私であったが、左足裏でそのようなおかしい速度と威力のそれを一旦止めたのだから、


 痛い……。


 私の左足の裏は、横から半分にされるかのように、足裏3センチ程度、避けていた。当然、骨も、やられている。くだけている……。


 だが、肉体的損傷なら、イメージで!


 スローの世界。だからこそ、イメージによる治癒効果ちゆこうかは、意識すれば、急速再生の如く!


 そして、奴にはそういう余裕は今、無い。






「ごぉぅはぁぁぁぁっ……」


 やたらに勢いよく吹き出す、奴は吐血する。


「さて、辛い時間の始まり始まり。終わりまで、一直線だ」


 スパンッ、スパパススッ――――!


 連撃に次ぐ、連撃。呼吸困難によって、一時的な行動不能に陥っていた奴に私は躊躇ちゅうちょなく蹴りを振るう。


『早く折れろ、折れろ!』


 ブチュベキチュッ、バキチュッ、バキッ――――!


『もう、わずかな反撃すら不可能だろう……。なら、早く、精神的なガードを解け、そして、死に至る苦痛を長々と味わうなんて、おろかな真似、止めろ……。止めるんだ……』


 これでは、どちらが攻めているのか、分からない……。だがもう、勝負はついたようなものだ……。


 奴に寝技などに引きり込まれることに注意しながらも、私は奴のトドメに取り掛かっていた。肉体的にも、精神的にも、けずり取っていく。


 自分の精神をすり減らしつつ……。奴は先ほどから、全く反撃しようとしない。こっちすら向こうとしない。何も言ってこない……。


 だから……、


『解けぇええええ、ガードをぉおおおおおお!』


 スゥゥ、ガシッ……!


 やらかした……。







 ギリリリリリリリ!


 私の思いっきり振りかざした大振りで重々しい右足の踏み付けの一撃は、すね辺りを奴につかまれ、さえられていた……。


『君は、何処までも、甘過ぎる……。それでは、安心してたくせるはずなど、無いではないか! このおろか者めぇえええ!』


 奴は起き上がり、私の天地は逆転し、


 ブゥオオオオオンンンンン!


 掴んだまま、奴の起き上がり立ち上がりと同時に、無理やり右足上げられ、地面に倒されたのだ……。当然受け身など、取れはしない。心の準備も間に合いはしない……。


 立場は、逆転する……。






 ガッ!


 放たれる奴の足蹴と、伝わってくる心の言葉。


『私は捧げてきた』


 私は戸惑いを感じていた……。


 ガッ!


『君を始まりから観察していて、君が二つ目の世界を攻略したことで、私は君に全てをけることにしたのだ。そう、文字通り、全てを』


 あれ程、すきの無かった奴が、今こうも、警戒けいかいを捨て去って……、いや、投げやりになって、ひどすきさらしているということに……。


 何故、そんな風に、なっている……。


 私はその足蹴に対しては、思い込みでガチガチにガードしていて肉体的ダメージは入っていない。奴は、頭に血がのぼっているようで、それに気づいていない。


 怒りと失意が、見て取れる。その目は、今を、私を、真っ直ぐと見ていない。つまり――――すきだらけ、だ。


 ほら、来た。大振りなみ付け。


 だが、全然、喜ばしくない。むしろ、どうしようもなく、やるせない……。奴が私にどれだけ期待していたか、それが垣間見えたような気がしたから……。


 なら、ここからひっくり返し、納得させてやろうじゃないか。ここで奴を失望させることは、彼女を無為にすることに、等しいのだから。負けるつもりなど最初から全く無かったが、尚更、負けられなくなった、というものだ。


 燃える意思は、既にスローで消耗しょうもうしている精神を奮い立たせる。


 ドッ!


「っ!」


 そう、驚きの声を上げつつ、奴が大きく目を見開いた。






 そうして奴の、大振りな踏み付けは私ではなく、地面を思いっきり踏み付ける結果に終わる。


 私はそのすきに奴のまたを、自分にできる限界駆動で飛びこむようにくぐり、そして、


 ガシッ、ギュゥゥ、ドッ!


 よく見ると私の血がわずかだが付着し、ほんのりうすく色がついていた奴の尻尾しっぽを、思いっきりつかみ、引っ張り、奴の体を地面に仰向けに倒した。


 そして、つかんだままの尻尾しっぽで奴の首を一周巻き、引っ張るようにめ付ける。


 そんな無茶な稼働かどうをしたにも関わらず、未だ未だ、集中は途切れない。スローの世界は終わらない。


 ギリリリリリリ――――


 締め上げる。奴の上に馬乗りになった上で、強く強くめ上げる。


 ギリリリリリリ――――


 これでもう、決まったも同然。


 打撃戦は終わり、私の圧倒的有利な体勢で、マウントポディションに、奴の首を極めつつある状態で入ったのだから。






 これなら、一方的に継続的にダメージを入れられる。入れられ続けられる。有効な反撃はできまい。それに、奴の手と足の稼働範囲で届きうる場所は、想定し、精神的にガードしているから、先ほどからちょこちょこ反撃はされているが、そのどれもは有効打になりはしない。


『勝った……つもりか……?』


「いや、まさか。もう油断何ぞ、しない」


『だから君は、駄目なのだ……』


 奴のダメージソースたり得ないひざでの反撃から、そう奴が伝えてきた言葉。そして、奴が取った、


 ブチィィ! スゥッ、


 尻尾切りからの、それの生え変えと、振るうその新たな尻尾しっぽでの一撃だが、


 ガシッ、ギリリリリリ!


「それは、可能性として想定していたぞ! 無駄だ!」






 奴の自切した尻尾しっぽが消えていないことを確認し、奴の両手を今生えている尻尾しっぽしばった。そして、落ちてる自切されたそれで、奴の両足も、しばる。


 そうして私は、


『これでもう、尻尾しっぽの自切も意味は無い。体勢変更をできないから、新たに尻尾しっぽを生やしても、それを満足に動かせはしない。トドメといかせてもらおうか』


 体重を掛け、ギロチンチョークを掛け始めた。


 これなら、肉体的にも精神的にも、一方的に奴を消耗しょうもうさせ、終わりまでもっていける。

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