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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第六節 儀礼決闘
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書海真名真姿 剥奪叡智の書海 雲上青空鏡 肉弾茶番劇死闘 Ⅱ

「気付かぬか」


 っ!


 スゥゥ! シュパッ、ゴォォォッ、ミシミシグゥゥゥ!


「ぅぅっ! ごげほぉぉぉぉ!」


 今度は、わずかだが、()()


 腹部に、横薙よこなぎの動きで真っ直ぐ、私の前方から、私を背後へと振り抜くかのような、骨がしなるような威力の一撃。


 だが、先ほどの一撃より、当たりどころが、悪い……。


 血と嘔吐物としゃぶつが混ざり合った流動体が胃から発生して、口から吐き出される……。


 奴の動きの速度が、瞬間的に、上がったのだ。目で捉えられるギリギリまで。一発目は見えなかったが、二発目は辛うじて、見えた。


 それは、奴の挑発的な誘いか、それとも……、そんな異様な速度でのりは、速度を維持して連発できるものではないのか、どっ……――!


「くぅっ!」


 キィィィィィ!


 辛うじて受けが間に合う速度だったが、受けれた! だが、速度は、二発目よりわずかに遅まっていたにも関わらず、重さは上っ……。


 私は数十メートル吹き飛ばされた。すぐさま、浮かんだ状態から足を付けて、踏ん張ろうとしたにも関わらず。


 その一撃が見えなかったこと以上に、その一撃に乗った心の言葉が効いた。


『そんなざまで、どうやって、あの神擬きを倒すというのだ? 私よりも勝率の無い奴に勝ちを譲るなんて真似はできはしない』


 そして、迫る追撃。私が吹き飛ぶ速度より早い接近。そして、奴の右足は高く掲げられ、私の右肩みぎかたに落とされる。


『当たる瞬間が分かるなら、恐らく! 私の右の鎖骨。それは消して折れぬ鉄の棒の如く!』


 ガァァァンンンン、メキメキメキビキィ!


『私に思わせてみろ! 神擬きですら、手が届く、とぉおおお!』


 重い……。物理的にも、精神的にも……。いなすように打点を微妙にずらしたにも関わらず、これか……。このまま、圧されている訳にはいかない……。このラッシュを、押し退けなければ、間違い無く、負ける!


 一旦距離を、取る。だが、退く動きを取るのでなく、奴を、押し返し、それによって、距離ができた状態に、するのだ。


 思考速度が、上がり始めている。だから、奴のこの、十分に鋭く重い踵落かかとおとしに反応できたのだ。


 肉弾戦、だと、笑わせるな。これは、肉体言語戦、だろうがっ!


『殺し合いだ!』


 きっと、肉体を制御するとは、こういうこと。強く念じるよう、思い自身の体に、気を通すように作用させる。


 イメージする脳内での異様な速度な動き。その理想に、実際の動きを、重ねる。


 腰を低くして、踏ん張った左足。右足で、奴を思いっきり、打ち上げ気味に、蹴り押した。


 ガァアアアアアアアッ!


 そうして、奴を押し飛ばせた、が、


『分かっているではないか。これは、茶番ではない。私は確かに負ける為に、君に乗り越えられる為にこの決闘けっとうに臨んでいるが、全力だ、これは、相手を終わらせる、殺し合いなのだからなああああああ!』


 奴は、辛うじてだが、その動きについてきていたようで、押し飛ばし攻撃を、体の力の込め方を流れるような動きで変動させることで、ついでに私が与えるつもりだったダメージ自体はほとんど散らしてしまった上、右拳での一撃を入れて、押し飛ばしの方向を微妙にずらしてきやがったのだ。


 寸勁すんけいのような要領の拳だった。だから、私は一瞬の麻痺まひを食らうと同時に、心の声をぶつけられていた。

 幸い、奴は、開いた距離をめようとはしてこなかった。






 今になって気付いたが、相手の心の声を攻撃的に受けることで、精神に疲れがまるらしい。


 奴の攻撃のインパクトと響く心の声のたび、思考が散りそうに、頭が重く疲労ひろうがずっと増え、熱がまるのだ。


 恐らく、奴にもダメージはそれなりにまっている。だから、恐らく完全に透かすことが可能だったはずの私の押し飛ばしに乗った。そういうことだろう。


 これは、茶番であって、茶番でない。私に用意された、試練なのだ。奴は負ける為に、乗り越えられる為にこの場を用意したが、それでも一切、この決闘自体けっとうじたいに手を抜くつもりはないのだ。


 事前に加えたルールという名の縛りと、一発目の交差の際に心の声で伝えてきた提案以外、種も仕掛けも無い、本気だ。


 体のを揺るがす奴の今の一撃は相当にきつかったが、私はこらえつつ、若干落ちた腰の位置を上げ、しっかりと立つ。


 どうやら骨は折れていない。これは不味いと思っていた、踵落かかとおとしを受けた右鎖骨にもひびはいっていない。心さえ折れなければ、保つということだ。どれだけ熾烈しれつな攻撃だとしても。


 私は奴をにらむ。


 奴の方が、ラッシュの持続性も、動きの速度も、未だ、早い。これでは迂闊うかつに近寄れない……。


 もっとだ、もっと早く。思考を、早めるのだ。思い出せ、意識を集中し、加速した上での、スローの世界を。


 頭に掛かる負担は大きくなる。精神のスタミナ切れの危険がある行為だ、それは。だが――――、今のままでは、私に勝ち目は無い。ならば、やるしか、あるまい!






 恐らく奴は、待っている。私が攻めてくるのを。だから、この距離を保ったままなのだろう。


 恐らく、急速に速度を上げるという奇襲きしゅうは一度しか効かない。


 奴の想定より早く、動かなくては。どうせ、長時間は無理。せいぜい、ラッシュコンボ二回、いや、一回分位しか、私の持久力は残っていない。肉体自体も同様だろう。


 イメージする。


 腹と頭を守りながら、接近。


 骨は私が折れない限り、折れはしない。そうだと考えることにする。それなら、きっと、一瞬で、奴に攻撃を届けられる!


 私は姿勢を低くし、体を丸め気味に前屈姿勢を取り、両腕を頭の前に、ガードポーズを作り、腹まで覆うように守りつつ、にじり寄るように進んでいくのだ。


 だが……、


 スパンッッッッ!


 奴から放たれた一撃。当たった感覚からして、まるで鞭のような、私側を基準として、左斜め上から右下へ振り下すような攻撃……。


 まるで見えなかった……。奴は明らかに、元の場所から、動いていない……。思考は加速して、スローの世界になっているのだから、攻撃の挙動が一切見えないというのは、あり得ない……。

『どうしたどうした? 一度見せた攻撃だろう? どうして対処できない。対処法など、幾らでもあろうに』


 私はひざをつきながら、肉体ダメージより少し遅れてやってくる、奴の心の声による精神ダメージを重く重く受けつつ、体を少し丸め、ガード姿勢を取る、


 と見せ掛けて、私は右足で奴を押し飛ばして再び距離を開けようとした。


 スパンッッ、


 間違い無く、自分のしたそれは、先ほどまでよりも格段に早かったというのに……、


 パチィィィイイイイイイ!


「ぅぁあああああ!」


 その放った自身の右足の前側の太股ふともも辺りを、まるで……、音速にも届き得るむちの一撃でも受けたかのような不可視の一撃におそわれた……。


 だが、そんな風に情けなくうめきつつも、私は倒れない。そうなれば、追い詰められると分かっているから。


 私はこれまで、もっと酷い痛みに、傷に、耐えてきた。だから分かる。今受けたこの傷は、屈服に至るには、未だ、軽過ぎる!


 ガッ、ガッ!


 両足でしっかり踏ん張り、私はしっかり立ってみせた。


「ふははははは、そう、来なくては!」


 奴は、そんな私を見て、その身でたかぶりを表現するかのように、わらった。






「今度の仕掛け、君に見破れるかな。できなければ、ここで、散って貰うが。では――――くぞくぞくぞぉおおおお!」


 シュゥン!


 奴は、スローの世界に入った私にも、辛うじて見えるか見えない程度の速度で、一瞬消えたかと錯覚するかのような速度で、動き出した。


 そのまま打ってくるのでなく、ステップを、右に左に、取っている。


 シュゥン! シュゥン! シュゥン!


 っ、来る!


 奴の体に力が入るのが見えたから、そう思い、私は自身の体を、鉄の硬度を誇るかたまりであるかのように強く強く思い込む。


 バチィィンンバチィィンンバチィィンンバチィィンン――――!


 何発は分からないが、放たれた奴の攻撃は、致命には届き得ない。それどころか、まともにダメージとして受けはしない。


「ほぅ、なら、密度を上げるとしよう」


 奴はそう言って、動きを止める。力を貯め始めたようだ。同時に、きっと、何処までも強く、イメージしているはずだ。究極のむち一撃いちげき。音速を越えた速度の、破砕はさい一撃いちげきを。


 思考を加速させなくては。


 唯、もうじき放たれるそれに反応する為だけではなく、それのからくりを、考えろ!


 その不可視の攻撃。最初の一撃が最も、甘かったような気がする。どんどん鋭くなっているのだから。


 一撃目。それでも目に見えなかったそれの軌道は、予想がつく。痕跡が残っている。私の右足表側の大腿部だいたいぶに。私側を基点として、右斜め下から左斜め上へ、振り上げるかのような、その鞭のような見えない体の部位を引く動きを兼ねている攻撃だったと考えると……、本当に、これは、り、なのか……?


 違う! そして、手でもない。そのような軌道を取るなら、奴の動きの早さからして、不可視の速度には至らないはずだ……。


 不可視の連撃に、私の反応、精神的思い込みによるガードが間に合ったことからして、明らか。


 決してそれの速度は、不可視ではない。結果的に不可視なだけで。


 なら、一体……? 手でも足でもなく、武器を使ったでもなく、不可視の物理的な肉体的な手段での攻撃。どう対応しろというのだ……悪魔的過ぎる……。悪夢だ、まるで……。


 悪魔的、悪魔……? 悪魔。ああああっ! そうか、その通りだ。手でも足でもなく、武器でもなく、そ《・》()()()()()()()使()()て《・》、攻撃を放ったのだ!


 スゥゥ、


 消えた。奴の超速の移動だ。なら、来るっ!


 私から見て右側に移動し、しかも、腰を落とし気味ということは、狙いは恐らく、今度は、一撃いちげきで仕留めに掛かるだろうから、胴体どうたい。あばら骨を砕き進んで、狙いは肺。それと心臓か。


 バァ、ガシィィイイイイイイッ!


「……、な、何だ、と……」


「見せ過ぎだ、幾ら何でも。不可視のむち。その正体は、尻尾しっぽ!」


 ギリギリギリ――――!


 私は奴のそれを、それが加速し切る前に、右手でつかんだのだ。どういう軌道で来るか、その予想はギャンブル染みていたが、上手くいった。


 そして私は、左手も添え、両手でそれをしっかり握った上で、思いっきり、振り回す動作をした。引き千切るような勢いで。


 勿論もち、奴は反応するだろう。だから、引き千切るつもりではなく、地面に叩きつけるように投げ落とすつもりで、フレイルでも振り回すかのように。


「ぐほぉぁあっ!」


 ゴォォォォオオオオオオオオンンンンンンン! メリメリビキビキィィイ!


 やっと、一矢報いた。ここからだ、巻き返してやるっ!

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