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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第六節 儀礼決闘
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書海真名真姿 剥奪叡智の書海 雲上青空鏡 肉弾茶番劇死闘 Ⅰ

 互いのりが衝突しょうとつし、この決闘けっとうが自身の考えていたものとはかなり趣向しゅこうが異なるということに私は今更ながらに気付いた。


 奴の言葉が、私が奴のりを受けた箇所かしょから、響き渡るように伝わってきたのだから。


『終始、魔法無しの肉弾戦といこうではないか。無論策は巡らすがな。信じる信じないはお前次第だ。さて、どうする?』


 そういう趣向しゅこうなのか?


『いいだろう、乗ってやる』


 り足を放すとき、そう込めながら、奴の足を自身の足で圧し返し、引く。


 私は奴とにらみ合う。


『肉体と精神。その両方をもってしての決闘けっとう。面白かろう?』


 奴の蹴り足からそう、心の声が伝わってきた。


 奴の表情と伝わってきた奴の心の声が一致していない。心の声は血沸き肉躍にくおどる感じ。表情は、冷静沈着な感じ。


 どちらもまるで嘘とは思えない。


 ……。


 攻めよう。考えるだけ、泥沼どろぬま


 私はすっと一気に距離を詰め、奴のあごを狙う。奴のあの体は、人間の形を取っているのだから、その内部の構造も人間と似通っているに違いない。


 だからこそ、脳をらすことを狙う。そして、まだ仮定に過ぎないが、感情を処理するその器官への攻撃はきっと、よりダイレクトに感情を打ち込められるはず


 だとすると、一撃大きく入れたい。が、それはおそらく、難しい。だから、数で補う。他の部位に一撃大きく入れるよりも、脳を揺らす小さな一撃の方が効果が高い気がする。


 右からの、ラッシュ。右左右左右左。ひたすら打ち続ける。回避が許されないルール上、攻めて攻めて攻めまくるというのは、通常よりもはるかに有効。


 ひたすらに私は拳を打ち出しまくった。


『どうした、受けるだけか?』


 そう込めながら。


 奴は、それを、動かず、両腕でガードして受けている。ガードは今のところ突き崩せていないが、全く効いていないということは無いと思いたい。


「は、ふはははははははは! 下手糞へたくそめ」


 私のラッシュ中にも関わらず、奴はガードの向こう側から不敵に笑い、そう言って、


「っ、っと、何ぃぃ!」


 私の放った右のパンチをかしてみせた。余りにもあっさり空振りさせられ、私は動揺する。


 当然だ。


 ルールで、けることは許されないはずっ……! なのに、奴は……避けてみせたのだから。それに、打撃に声を乗せるのでなく、わざわざ、肉声にする、という手段を取ってきた。文字表示もせず。


 そして、


「パンチというのは、こう打つのだ!」


 一瞬奴が消えたように見え、気づけば、私の両手の下に奴はもぐり込んでいた。しゃがみ込みながら踏み込んで、私の右脇みぎわきの下に入り込んで、奴は左手を引いて、勢いよく振り上げるように私のあごを揺らしたのだ。


「ごほぁぁあっぁあ!」


 すきを作らせられて、そこをかれた……。


 マウスピースなどつけていない。だから、その衝撃しょうげきはもろに、私の脳に響く。高圧電流でも流れたかのように、一気に流れ込んでくる。


『そんなでどうする? それでは後をたくせぬ。君にこれだけ有利なルールでやっておきながら、このざま。これまでの旅の中での一方的不利な状況のときの君の方が、何もかも、鋭かったぞ? 失望……させてくれるなよ……』


 ふらっ、ガッ!


 私は、伝わってきたそれに反応し、ん張った。


 確かにそうだ……。いくら何でも、これだけ条件がそろっていて、あっさり負けるなど、私のこれまでを無為にする行為に他ならない……!







 予期せぬ形でこちらが教えられることとなるとは……。響く一撃には、それだけ濃密に心が乗る。長く長く、一方的に相手の心に声を直接打ち込むことができる、か。


「インドア系だろうと、めていたのかな、この私を。優れた知性を持つ者は、自身の体の動かし方というのを論理的に心得ているものなのだよ」


 奴はそう言って、私が立ち上がるのを待っている。


 めやがって……。


「ふざけるなぁああああ! 勝つつもりが無いなら、今すぐ負けろぉぉぉ!」


 私はそう叫びながら、奴にりかかった。右での、上段回しり。狙いは頭。私は闘志を燃やしつつも、冷静だった。


 これは唯の肉弾戦ではないのだから。私と奴で決めたルールと、未だ隠されたままのマスクルールがあるらしい。


 マスクルールは恐らく、元からのこの世界の仕様に関するものだろう。だから、私と奴がルール決めをするとき、それらは書かれなかった。


 そう考えるべきだろう。奴が今更、私をだまし討ちする必然性は無いのだから。


 なら、自分から、試し、知るしかあるまい。


 私は、右足でローキックを入れようとわざと、大きな振りをして、力を思いっきり込める振りをして、そして、り出した。


 ブゥオオオオ、


 見え見えのモーションで放つり。だが、演技の蹴り。だから、大きな隙を生まないように、蹴りの速度は、身体が振り回されない程度に抑える。


 スカッ!


 奴は、また、それを避け、


 ガスッ!


 反撃してくる。私の蹴り足にローを入れ、距離を取ってきた。


 やはり、か。間違い無さそうだ。


 とりあえず、さっきので分かった。どうやら、ルールの適応の幅にはばがあるようだということを。


 避けられないルールでありながら、避けられた。そのからくりが理解できた。奴のした回避モーションは、回避ではなく、攻撃の為のモーションの一部であると判断されたのなら、けたことにはならない。そして、避ける避けないの判断は、攻撃を放つ当人がそれをどう判断するか、による。


 そう考えると辻褄つじつまは合う。


 だが、その場合、攻撃を行った私による判断にはならないのは間違いないとして――――避けの動作ではないと判断するのは奴自身か、契約けいやくの本か、どちらなのだろう。






 シュゥゥゥ、スカァ!


 奴が放ってきたりを、今度は、私が、避けをモーションに含めた攻撃で、透かしつつ、


 ゴゥオォォォォォォ!


『吹き飛びやがれぇぇぇ! 重く重く、衝撃は響く。それは、脳がつむぐ思考の流れをき乱す!』


 私の右足は、奴の左頬ひだりほほへ迫っていく。私の新たな試みと共に。


 心の声が伝わる。そのような仕組みからして、それを利用して、ダメージを上乗せできはしないか。


 結果は――――


 トスッ……。


 ……、妙に、軽い、ぞ……。


 奴はその音の割に、激しく吹き飛ぶことはなく、少し浮くようにりの進行方向に浮くように10センチ程移動しただけで、何事も無かったかのような顔をして着地した。


「ベッ。想定より軽減できていない、か。やるではないか」


 奴はそう言って、濃灰色の液体、たぶん血、と、白灰色の折れたらしい歯を吐き出した。声がはっきりしているのは、きっと折れた歯が一本に過ぎないから。


 り自体は微妙にいなされたが、心の声はダイレクトにダメージ上乗せできた、ということだろう。クリーンヒットした時相当までに。そして、奴は、それに驚き、透かしを含めたモーションを途中で中断する羽目になった、ということだろう。


「なら、レベルを上げるとしよう」


 スゥゥ! シュパッ、ゴォォォッ、ミシミシグゥゥゥ!


「ぅぅっ!」


 な、何が……起こった!


 確かに、吹き飛んでいる、私は……。だが、奴は一歩たりとも、動いたようには見えない。まだ、何か、あるのかっ……!


 奴と私との間は5メートル程度空いていたにも関わらず、私は突然、後ろへと吹き飛ばされた……。

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