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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第一節 再示される二つの問い
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第一の問い 変則仕切り直し 戦略盤上遊戯 Ⅲ

 彼側の土地のふち近くをほぼ沿うように存在しているがけ地形のどこかに必ず、本隊である、指揮官入りの軍が伏せてあるわけで、あとはその場所をしぼり込めばいいのだが、盤上の情報だけでは一か所にはしぼれない。


 候補は三つ。彼側のふちの境界側でない両角。そのどちらか。そして、残り一か所。彼側のふちの境界側でない中央。


 彼は恐らく、弓兵による、守りの陣形を取っている。それを広く広く広げて、軍の一(かたまり)と判断されず、小さな軍×(かける)たくさんとなるように分けているのだろう。


 私ががけのどこから手を掛けようとしても、一定以上の損(もう)を与えられる。






 とある盤外情報を加えることで、角である確率が高いと私は判断した。そこに敵司令官がいた場合、長い距離、一方的に攻撃されるだろうからだ。


 索敵で見つける前に、弓による攻撃が来る、できる、マスクルールが存在していると予想しているからだ。


 がけ()()()()()配置されてあるのだ。奴、もやの悪魔がそれを仕込んでいないはずがない。私が、敵指揮官ががけ上にいると気付いてそこを攻めようとして、おろかにもそのマスクルールに気付かず、一気に全滅、ゲームセット。


 つまり、このマスクルールは、もやの悪魔の意図という盤外情報であるとも見れる訳である。


 奴はそういった、気付く種はそれなりに散りばめてあるのに、不注意やおろかさによって、それに気付かず、自滅するかのように、気付けるはずだった危険にぶち当たって、破滅していく様を見るのが好きなのだ。


 愉悦ゆえつ者で、賢者。それが奴の、表に最も出ている性質なのだから。


 奴は、ただ、見下すように、相手をあざ笑いたいのだ。常に。






 次は、私側から見て、左奥の角か、右奥の角のどちらか。残された盤外情報は、対戦相手である彼、軍略の悪魔。


 軍略を行う者というのは、前線に出ない。自身が直接、前線で指揮することはない、という意味であり、相手から常に見られない場所にいる、ということである。


 軍略を練る者は、相手の目にさらされることはない。


 だからだろう。彼は不用意に、情報を私の目の前でき出し続けていた。


 私は無意識に彼を通じて情報を収集していたが、無意識にそれを使わないようにしていたようだ。これは楽しむためのものであり、そのためには不確定要素が多いほうがいい、と、おろかに、ゲームを楽しんでいたから。


 だが、途中でだが、気づいた。それを利用するのも、ゲームの内だろう、と。


 確実に、読み切り、めて、す。それが私なりの楽しみ方というやつだ。






「私の勝ち、ということで」


 私は、体中の目で困惑を現し、ぐにゃりとへたりこむようにその体を角含めてへたらせてうなだれている軍略の悪魔にそう、誇らし気に言い放ち、席を立つ。


 やり遂げた。綺麗きれいに策は刺さった。何ともそう快な気分だ。心(おど)る熱が冷めていく感覚すら、心地良い。余(いん)というやつだろう。そしてそれは、心から楽しめた証拠だ。


 消えていく周囲の光景。軍略の悪魔含めて、私以外をき消すように。


 これまでの悪魔との遭遇そうぐうの中で、最も穏当な決着の付き方だった。






 白い空間が消えて、現れたのは、先ほどの、どこまでも続く、平坦な白い砂漠。


 現れる文字と、振ってくる声。


「【軍略の悪魔に、軍略で勝つ、か。真正面から。君は手段を選ばなかったから真正面から、とはいえないのかと思っているようだが、そんなことはない。軍略とは、戦端が開かれる前に、如何様にしてでも勝つための道を引いておくことなのだから】」


「ぁ……」


 私は空に向かって答えを返そうとしたが、やめた。


「【君の思う通り、所(せん)たわむれ。その通り、余興。でも、それなりに楽しめただろう? 君の感想を聞かせて欲しい】


 感想、か。


 思い返してみると、あっけない。実にあっけない。


 彼は気づかなかった。私の策に。そして、全く対応できなかった。あまりにあっさり、全てが刺さった。


 私が取った策。それは、私の指揮官の配置。


 私は、指揮官を単独配置した。索敵に出した以外の兵士の大半も同じように、単独配置。


 すき間を開けて。


 軍の配置転換の例外条件。指揮官が命令を飛ばせる距離であることと、割合損(もう)を受け入れること。


 判定は、合流前地点の、その移動させた兵のかたまり単位で行われる。そして、一人単位で配置転換による移動をさせる限り、損(もう)は起こり得ない。


 さらに、指揮官は命令書き換えを好きにでき、指揮官自身もその対象であること。


 つまり、索敵フェーズに索敵軍を出していなくとも、指揮官単独であれば、何一つ失うことなく、自由に動き回らせることができる。


 その上、指揮官を動かしながら、潜伏する兵のいるポイント付近を通ることで、彼らも自由に動かせる。


 索敵フェーズにおいて、戦闘が可視化されるのは、索敵兵軍と、敵潜伏軍がかち合った場合と、その敵潜伏軍のある一定距離以内に他の敵潜伏軍がいて援軍に入るような命令がされていた場合のみ。


 そして、私の兵たちのほぼ全ての兵種は、暗殺者。


 暗殺者は、可視化時であれば、あらゆる兵種に劣るが、可視化されていない状態であれば、どの兵種にも勝る。暗殺者一人が、潜伏状態を維持しつつ、敵兵を相手していった場合、予想よりは少なかったが、それなりの数を始末できることが分かっていた。全て、戦闘判定は1対1で判定されるからだ。


 暗殺者なら一方的に無双できると思っていたのだが、せいぜい、こちらの暗殺者一人が溶けるまでに、十くらいは敵を暗殺者以外なら兵種を問わず溶かすことができるようだった。なお、彼の兵の中に暗殺者は存在していなかった。


 私は前の索敵フェイズ終盤で、それをひっそり調べていたのだ。


 面白い仕込みができるかな、と。


 それをそのまま、勝つために、真剣に注ぎ込む路線変更をしただけに過ぎない。


 二度目の索敵フェイズ。私の兵は全て1人配置。だから当然、がけの上の、敵の最高兵数の場所が浮かび上がるわけで。


 私から見て、左上角付近。


 つまり、左上角に十中八九、彼の指揮官を含む本隊はいる。


 そして、彼は当然、その最高兵力数の軍には指揮官は入れない。だが、必ずその近くに彼の指揮官入りの本隊が必ずある。


 彼が最高兵力数の軍。その構成を弓兵で偏らせた軍を、がけを降りて進軍させる。そうするしかない。そして、彼側の土地は既に索敵されている。最初に残った彼側のがけ部分の索敵をして、次は自動的に、私側の索敵を始める。一度私が調べた辺りをもう一度重ねて調べるかもしれないが、何も出ないのだ。結局、私の側へと進軍してくる。


 そうなったら、行動開始。


 私の兵は全て、私側の土地に設置してあるのだから。そして、全て単独。


 数が多ければ、行軍スピードは落ちる。単独である私の指揮官、暗殺者たちは、一人ずつ、あっさりと、私の側の土地から彼の土地の方へ移動してしまえるわけで。


 全部通すわけではない。


 暗殺者たちの一部は自陣側に残す。彼らには、足止めをさせるのだ。二か所、10人の軍。それを、利用して、彼の索敵軍を足止め。気付かれて、彼ががけ側の本隊へと引き返してくる前に決着をつける。


 ……。彼は気づくことはなかった。彼が私の土地の半分を索敵し終わる前に、かたはついた。地形が入り乱れているせいで、索敵速度が、私が彼の土地を回ったときよりもずっとずっと遅かったのだ。


 そして私は、彼の本隊への道に並ぶ兵を全て、彼に気付かれることなく溶かしきり、あっさりかたはついたのだった。






 そうして回想を終えた私は、私は空に向かって、叫ぶのではなく、誰に向けるでもなく、ぼそりとつぶやく。


「そんなものに意味は無い。だが、悪くはなかった」

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