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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第一節 再示される二つの問い
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第一の問い 変則仕切り直し 戦略盤上遊戯 Ⅱ

 索敵フェーズが始まると、ほぼやることはなくなる。索敵軍の中に指揮官が紛れているか、自身の索敵軍が、指揮官の命令変更行為有効範囲に入っている場合だけしか関係ない。


 私は幾つかの試行錯誤を交えつつ、敵兵のかたまりのあぶり出しが行われていくさまを見ていた。


 この索敵フェーズ。動いた方が得だ。試行錯誤という面では圧倒的に。奴は動かないという選択肢を取ったようだが。


 実際本番ではどうしようかまだ決めていない。まあ、軍略と、仕込む奇策次第というところか。


 索敵によって、敵兵のあぶり出し、つまり、遭遇そうぐうが行われると戦フェイズに入る。戦が行われる場所の周囲一定距離の両軍の兵が実体化する。


 私にも彼にも、それは共に認識できる状態になるわけだ。


 自軍が、自軍指揮官の命令変更行為有効範囲に入っている、もしくはその自軍の中に自軍指揮官が紛れている以外、これまた、自動的に処理される。


 ホログラム化された、人形兵たちが、血を流しながら戦うさまはそれなりに見応えがあるものである。


 私は思わず、


「いけ、そこだ。突っ込め、ひたすら突っ込め」


 などと、意味がないと分かっていながらもヤジを飛ばす。


 対面の彼は、言葉を発しはしないが、やたらめったらに、その体中の目をそれぞれバラバラの速度で点滅させたり、それぞれ、色んな目つきに次々変わっていったり、それなりに熱を入れてこのホログラム戦場を楽しんで見ているようだった。






 そして、私の索敵軍はそんな索敵と戦を繰り返して、まさかの全滅。


 少々大きめの敵軍のかたまりに当たってしまったのだ。さらに、地形と兵種の相性が悪かった。


 歩兵だと、荒野は相性が悪いらしかった。訳が分からないが、そういう設定にされているらしい。マスクデータ。ゲームでのそれは現実に沿って設定されているとは限らない訳で。


 歩兵は弓兵に物凄く弱い。荒野で弓兵隊って、何だよ……とは思ったが、奇策の類としてはそれなりに効く類かもしれないと、別の視点を持ってみる。


 残存兵数からして、待っている者が何であったとしても敗走確実だっただろうが。さらに予想の斜め下をいって、全滅したわけだ。


 敵の弓兵隊軍の数はわずか30。これ実はてきとーに置いただけだろう、と私は思った。


 奴の方を見てみると、


「ぐびゃべべべべ」


 ……。


 これは、多分笑われてるんだろう。私は、長めの息をいた。


「はぁぁぁぁぁぁぁ……」


 だが、決して退屈だからそれは出たのではなかった。寧ろ、私の心は高鳴っていた。楽しい、と。






 索敵を行う軍が存在しなくなると、互いに、自軍兵の配置の変更を行うことができる。


 再配置フェーズ。


 しかし制約があって、各兵のかたまりがある場所のかたまりの分割ができるだけで、配置転換は行えない。そうでなければ索敵フェーズが長々しく延々と続くだけになる。


 先ほど私は知った。その例外が最低二つはあることを。


 一つ目。索敵軍が、設定された条件を元に、ばらばらに敗走などを行った場合のみ、再配置フェーズ時に長距離の移動による配置転換が例外的に可能になる。ペナルティーとして、移動距離に応じて敗走兵数の割合減少が発生する。全滅させられたので、先ほどは全く意味は無かったが。


 二つ目。私がこれから実行する奇策の要となるもの。私はこれを、おろかしくも先ほどまでは使うことを躊躇ちゅうちょしていた。この世界に来て初めて、本当の意味で勝敗を気にせずにいられたのだから。


 だが、それはまやかし。甘い毒に犯されていたのだ、今の今まで、知らないうちに。指揮官を一人にする。指揮官は命令変更を他の兵に指揮できる。そして、自身にも。何度でも。


 私は、この、二つ目をメインとし、それに一つ目を織り込み、そしてもう一つ、既に確認しているマスクルールを利用し、勝負を終わらせに掛かる。これは確実に勝つための方法。奇策の類、初見殺し。


 索敵が活きた。






 先ほどの索敵フェーズでの結果を振り返る。


 目標兵数の半分程度しか敵兵を見つけられなかったが、大きな成果を私はつかんでいたからだ。これから後、それは活きる。


 先ほど私が索敵したのは彼の側。中央付近になだらかな丘とその周辺の平地と時々荒地。その全てを。尚、荒地が最後に索敵軍が突っ込んだところだ。


 彼の軍2つを私は見つけた。片方は、中央付近のなだらかな丘の頂上で亀の甲羅みたいに円形縦で互いをわずかなすき間だけ開けて覆って、その隙間から槍が生えている、というものだった。


 70の槍兵のみの編成だった。


 これは、まさか、いきなり司令官入りの軍を当てたか、と思ったがそんなことはなかった。私の索敵軍は物凄く攻撃的、悪く言えばゴリ圧しだったので、歩兵だけでなく、槍兵も粗方溶けたのだ。


 戦術というもの。現代を基準とした場合の隊単位での運用。その経験が無い私の軍は、奇抜で無(ぼう)な突撃兵団に過ぎなかったのだ。


 理論は知っていてもそれが実際のところどうなのかというのは全く知らないのだから、明らかに間違っている配置、兵種混合率。それに気付けない。


 歩兵よりも、槍兵の被害がじん大だった。


 それで、残った兵で、全滅の目を引かないことを祈りつつも、彼があのことに気付かずに司令官一人配置をやっているなんてほのかに期待して、索敵を続ける。まあ、途中で自発的に止めるという選択肢は用意されていないのだが。


 崖は無視、平地優先、そして、荒地の順で探索。この探索順も予め決めておかなくてはならない。指揮官を入れていると変更可能だ。指揮官は、兵に偽装することも可能。逆はどういう訳かできない。


 だが、たぶん、すぐバレる。予め仕込んでおく指示と、指揮官によって、頻繁ひんぱんに変化させる指示では、動きの差はかなり違ったものになる。


 バレても問題ないようにも一見思える。しかしそうでもない。指揮官がいることがバレれば、相手は潜ませた軍の配置を指揮官の有効範囲であればいじってくる可能性がある。


対応されてしまうのだ。


 索敵軍の兵編成とその数は指揮官の存在を偽装できる以外は丸裸。対策されると、きついことこの上ない。兵編成はいじれば問題ないとして、数はどうしようもないからだ。全軍(まと)めて索敵軍にするという策を取る場合でもないと、索敵軍に司令官を入れる意味なぞ、無い。


 だから、指揮官は索敵軍とは別のところに入れておいて、うまいこと、近くを通らせて、命令変更を入力というのが、基本的だろうか。


 そんなことを考えながら、彼の側にある荒野地形いくつかのうちの、最後の未索敵地点、二つ目の敵軍に到達し、そして、全滅のき目にあった、というわけで。






 彼の指揮官がどこに配置されているかだが、既にしぼり込みは終わっている。


 これまでに見てきた彼の思考の特徴は、堅実であること。だから、私の側の土地に置くことはない。色々入り乱れて、守りという点で不確実要素が多過ぎる私の側には。


 彼側の土地で未索敵となっているのは、崖地形のみ。私側と彼側の境界付近に置いていることは無い。


 彼は堅実であり、守りに寄っている。


 ご自慢の軍略を、戦略を、兵略を、戦術を使って、私を一気に攻め立てることもできただろうし、それが堅実な彼にとって、最も勝率が高く、されて私が最も嫌なことであった。


 正攻法。それが私には一番のきょう威だった。普通にやると勝てないのだから。


 彼が正攻法を取るとしたら、索敵による攻めの兵を置くなら、境界付近は最適だった。彼側の土地のがけの上で、彼の指揮官はガチガチに守られている。


 だから、境界付近のがけ上に索敵軍を置くか、索敵軍を用意しない。そのどちらかだと思っていた。彼は結果、索敵兵を用意しないことを選んだ。堅実の堅実を選んだ。

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