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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第五章第一節 再示される二つの問い
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第一の問い 変則仕切り直し 戦略盤上遊戯 Ⅰ

 机の中央に置かれており、机上の7割程度を占有する一枚の地形図。凸凹おうとつがあり、数センチの厚みがあるそれは、地形図というより、地形の模型であった。


 白い平らな石の板を張り合わせたかのような、蓋のない直方体の、赤いもやを中から漂わせる箱が私の前に置かれている。私の片手が手首まで入るか入らないか程度の大きさ。


 軍略の悪魔の前にも同じような箱が置かれており、そちらは緑のもやを漂わせている。


 手を入れている状態になると、箱からもやが柱状に吹き出す。その箱の持ち主が兵もしくは指揮官の配置を行っているか、命令を飛ばしている最中であるということを示すのだろう。


 今は、私も軍略の悪魔も初期配置を決めているところだ。


 私は箱から取り出した兵を配置する。配置した兵は配置を行ったものしか見えない、隠密状態で置かれる。


 兵には、役割を与えることができる。それは、思いつく限り何でもよくて。しかし、できないこともある。


 例えば、絶対的な無双者となり、最強の一兵、一騎当千の歩兵として、全ての敵兵をすり抜けながら突き進み、1分以内に敵指揮官を見つけ出し、仕留めよ。


 試行錯誤の一例。こういった役割を与えたとしよう。


 絶対的な無双者となり、最強の一兵、一騎当千の歩兵として、という部分。兵が、自身が絶対的な無双者であると思い込むことは可能である。しかし、最強の一兵、一騎当千の兵には成り得ない。兵の強さは役割無しでは、500駒一定。今回の場合、与えられた役割は歩兵。そう判断される。


 つまり、自身が絶対的無双者であるという思い込みを持った歩兵と、その兵はなるわけだ。具体的指示が飛ばされなければ、自発的にただ、突進する、特攻するだけの、カスごまになる。


 尚、こういった、ゲーム中における、通る役割、通らない役割、役割によってどのような基本的な動きを取るか、各兵への指令に対して役割や色々な要素によって付与される兵の性格がどのように作用するかなどは、お互い、自分にしか分からない。


 こういった、試行錯誤によって得られる情報は、その試行を行った当人にしか見られないようになっている。






 と、まあこんな感じである。


 始まってからもう30分程度は経過しているだろうか。


 ルールの大半がマスクルールというのは、面白いが、ちょっとどうかとも思う。かなり運が絡むだろう、と。


 しかし、よくよく考えてみると、戦というのは、それなりどころか、運で決まることもわりとよくあるのだ。


 私の中の記憶にもその例がわりとよくあった。


 地形は私の希望通り、やたらめったらに、色々な地形が入り乱れていて、形容しにくい感じである。


 まあそれでも言葉にするなら、こうだろうか?


 私の子側の土地、彼の子側の土地、と分けて見てみるとして。


 私の椅子側。全体的に、様々な地形の土地が隔たりなく分布しているように見える。折り重なる山。谷あり、川あり沼あり森あり。そんな、入り乱れた感じで。


 彼の子側には、中央付近になだらかな丘。その周辺に平地。時々荒地。そして、地形の端の方と、私側との境界付近に反り立つようながけ


 尚、私たちは互いに、別にどこに軍を配置しても構わないことになっている。置き場所によっては、即負けもある。ギャンブル性が非常に高く、ドキドキする。


 と、こんな感じで楽しんでもいいのだ。むしろ、そうすべきである。


 負けるときは負ける。


 これは、至って平和な形式での、誰も死にはしないゲームでしかない。負けたとして、奴の元への道が完全に断たれるなんてことは考え難い。また面倒くさい何かをやらされるとかといった、手間という形でのペナルティーを与えられるというのが妥当な線だろう。もやの悪魔が私を見限らない限りは、だが。


 そもそも、私を誘うように一度自身の支配する世界に引き入れ、再度また来るように言い、そう私を動かしたのは奴自身。だから、見限りなんてものがそう容易に起こるとは考え難い。


 奴はまるで、私の心を読んだかのように見せかけて、この第一の問い含む二つの問いに答えるように要求してきた。条件と、言って。


 だが、そもそも、本当に心を読んでいたというにはいささか根拠が足りない。条件とは、私が奴に何をさせるための条件だ?


 ……、しまった……。


 つまりこれは、唯の奴の、余興だ……。


 奴はもう、私を十分に、試しているではないか。一つ前の世界、砂漠の世界で。奴が第一の問いを、問いかけを始める前に、第二の問いに私がさっと答えておけば、こんな面倒は無かったではないか……。


 だが、もう手を付けてしまった。やり始めたのだから、途中で放り出す訳にもいかない……。


 なら、そう気負わず、楽しむこととしよう。これまでの出来事と比べ、これは遊びに近いのだから。






 私は兵を配置し、命令をインプットする。彼もきっと、同じように悩みながら、楽しみながら、それを行っているだろう。


 軍略の限りを尽くせるこのゲームという戦いの場は、きっと、彼が望んでいたものだ。


 私は、宣言した。


「準備完了した」


 準備フェイズ。互いに、準備が終わったと宣言することで、次のフェーズへと移行する。


「ごぢだぼ」


 彼のその言葉、余り自信は無いが、多分、『こちらも』、と言っただろうか?


 当たっていたらしい。索敵フェイズに移行が始まった。


 私が一定数以上兵を固めて置いた一つの地点。そこの兵たちのこまが実体化する。小さいこまではあるが。見たら分かる。その兵種が。


 歩兵と槍兵中心の、索敵重視の陣形。歩兵が前で、槍兵が後ろ。歩兵は捨てごま。守らず索敵させ、そして、槍兵で仕留める。歩兵30槍兵70。尚、周囲の自軍兵数が5割を切るか、歩兵損(もう)率が9割を超えた地点で散開し、私側の司令官がいる拠点周辺に、他の兵との距離をある一定距離以上開けて散開するように位置取れ、と同一の指揮を予め入れてある。


 指揮官がかなり近い、ある一定距離に居れば、命令の変更はできるが、そうでない場合は無理。なお、予め命令を仕込んでおくにしても、命令変更を行うにしても、命令文字数が限定されている。ある一定数の文字数を超えると、兵に命令は書き込めない。


 と、かなり色々、マスクルールがあるのだ。


 そして、私も彼も、ゲーム開始地点では、それについて一切知らない状態であったらしい。そして、マスクルールについては、ゲームのシステムが、互いの頭の中で、試行に対して、その都度、必要最低限の分だけを提示する形式になっている。


 相手がもしズルをしていると思った場合は、どうズルをしているかと、そのズルの証拠を言い当てればいい。相手のズルがもしあり、それを解明できれば、その地点で勝利となる。


 もっとも、彼はズルをしないだろう。奴がさせないだろうから。そして、私も、ルールを明らかに破った形でのズルはしない。ズルッぽくも、ズルではない、グレーなことならいくらでもするつもりではいるが。


 行け、私の索敵用第一軍。敵の潜伏場所をできる限りあぶり出して、敵兵力を削るのだ。全滅しても別に構わんから、敵兵200は見つけて欲しいものである。


 そんな感じで勝負は始まった。尚、彼は、索敵兵を出さないという選択をしたらしい。


 お互いに索敵フェイズに兵を出さない場合、双方の軍のうち、最も自軍の大きな塊となっているところの兵たちが選ばれ、索敵をやらされる羽目になる。


 中に指揮官を入れていたり、索敵向けの命令や役割分けをしていない場合、物凄く不利になる、というわけだ。


 互いに、頭を使って慎重になるのは構わないが、展開がこう着するなんてことは、許さないということなのだろう。


 まあ、私としても、勝負は盛り上がった方がいい。それの方がやる気が出るし、勝つ、という熱意が炎をあげるからだ。

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