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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第四章第五節 砂砂漠 飼い殺しの骸
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砂砂漠 蜃気楼鐘 骨魔女王の朽ちし夢想 Ⅰ

 崩れ去ったとう。消えし両皿と人形ともや。私は瓦礫がれき散らばるピンクゴールドの砂(ばく)に立っていた。


 空は真っ黒なままのようだ。


 一方、地面は、地上は、朽ち果てて、その原型を留めてはいない。ただ、砂と瓦礫がれきだけが取り残された、そんなさみしい場所になり果てている。


 あてが外れた。出て直ぐにでも、この世界の悪魔が姿を現すと思っていたが。


 砂漠は相変わらず、何処までも続いている。


 正面方向に、砂煙の波と、ごう音が聞こえてきた。どんどん大きくなっていく風圧。


 私は急いで上着とジャケットを脱ぎ、その場に座り込み、自身の頭を中心に覆う。私は、地面に体を丸めて伏せる。どう足掻いても逃げられない。


 砂(あらし)は健在、か。面倒な……。





 砂が体に当たる衝撃やごう音が止んだのを感じた私は、起き上がった。上着とジャケットがぱらぱらと砂を落としながらひらりと私の頭から離れ落ちた。


 周囲は明るく。暗かった。


 というのは、空間が三色で色分けされていたから。


 地面はピンクの砂の色。これは変わらない。


 そして違うのは、その上に、白の明るい空間と、黒の薄暗い空間。白光の空間と、薄闇の空間とでもすることとしよう。それら二つは、混ざり合うことなく、存在しているようだ。まるで仕切りでもされて分けられた二色の水の如く。


 どこまでも平坦に砂漠は馴らされていた。一方に白光の空間が続いており、もう一方には薄闇の空間が続いている。二つの色は、明らかに作為的で、曲がりない平面状の境界面を形成していた。


 私は境界から数メートルのところ、白光の空間側に、いる。


 先ほどまで周囲に見えていた砂の丘(りょう)だけでなく、足元にあった、崩れ落ちた巨大天(びん)瓦礫がれきも、全て消え去っていた。






 そうしていると、白光の空間と薄闇の空間の境目に変化が生じ始めたことに私は気付いた。


 もやのようなものが境界付近で漂って混ざり合っていっているように見える。もやの感じが、天(びん)の左右に分離したもやとそっくりだった。


 それもしばらくじっと見て、思う。


 きっ抗しているのか? いや、そうではないな。心なしか、白光の空間が薄闇の空間を押して、徐々に広がっていきつつあるかのように見えなくもないが。


 あの天(びん)の上での私の頑張りが反映されているのだろうか? だがそれならば、反映の具合が弱くはないか?


 天秤は確実に、白のもやの方に傾いていた。なら、展開されているこれらのもやの勢力は、かなり白が優勢になるはずだ。


 白光の靄が薄闇の靄と混じり、消滅を起こしながら、空いた空間に勢力がより強い白光の靄が流れ込んでいっている。


 境界の位置に変化は見られない。


 特にそれ以上何も起こりそうになかった。そこで、薄闇の空間側に踏み入ってみようとしたのだが、何だか嫌な感じがしたため、一度入って、すぐさま退いた。


 一瞬浸った、薄闇の空間側は、見通しが非常に悪かった。


 矢(たら)に暗いのだ。真っ暗というわけではない。きっと、黒いもやによるもの。まるで光をみ込んでいるかのようだった。そちら側に入ったのは一瞬だったというのに、心の中に、よく分からない不安がうず巻いた。






 急に私の方へ、薄闇の領域側から密度の高い砂の風のかたまりおそい掛かるように吹いてきた。


 ズゥァァァァァァ。


 私の全身に正面から砂を含んだ風が当たり抜けていく。


「げほっ、ごほっ、――――、ごほっ、くそっ……」


 口の中に混入していた砂まで入ってきて、びっくりして慌ててき込んだせいで、気管に一部、砂と、つばとたんの混合物が入り込み、余計にき込む羽目になったのだ。


 ひざまづいて、無様にむせる。


 そして、それが収まったところで、ごくり。


 つばを飲み込む。


 そうやって、のどをいたわりながら、気持ちを落ち着けようとしたところで、濃密な恐怖を感じさせるような威圧感を感じ、即座に身を起こし、数歩分後ろへ跳ぶように、私は退いた。


 すると、豪快な笑い声と共に、複数人の足音が聞こえたので、口をぬぐいながら頭を起こして姿勢を整え、前を向いた。






 数千人の、人の集団。それも、武装した。丸盾に、槍。ただし、背格好はばらばら。女も紛れている。見た感じ半分ほど。子供もいる。幼児もいる。


 規則性は見られない。


 それでも無理やり述べるなら2つといったところか?


 彼らの顔には一切の生気が感じられない。装備している武器の種類や時代は違うが誰もが武器を装備している。


 それくらいしか、分からない。


 伸ばされたやけに白い手。無骨にも見えるが、細い手。その指先が私を向いている。


【考えても答えは出はしない。情報が足りないのだから。貴方は頭で考えすぎる。だから、最後に勝ちを私に譲ることになった。】


 表示される言葉を読み、青年期の世界での勝ちを知らずに譲ってしまったことになっていたことが、白の領域が黒の領域と五分五分近くに見える原因を私は知った。


 読むことをやめた、あれより下の部分に何か仕込みがあったということか。成程、私などよりもずっとずっと、この悪魔は息であるらしい。私ももう少しそうなる必要があるのだろう。


 まあ、とはいえ、もう終わったことだ。構いはしない。それは後悔に繋がるのだから、後でいい。


 結局、あれらの試練は前座に過ぎない。結局のところ、途中経過に過ぎないのだから。目の前に立つ、こいつを倒せるかどうか。それが全て。


 そして悟った。結局のところ、何もかも、私の考え過ぎだった、ということを。


 天(びん)は何かを測っていた訳ではないのだ。この私がいる側の領域と、悪魔側の領域の配分を決めるだけのものに過ぎなかったのだ。つまり、そう酷く一方的に勝ったり負けたりしない限り、大勢には関わらない事柄だったのだ。






 で、こいつが、この世界の悪魔、か。


 まあ、悪魔なのだから何でもあり、ということか。どう見ても死人、であろうが、命と意志持つ悪魔なのだ。


 にしても、がい骨とは。


 この段階で出てくる、か。少々遅いな。もっと早い段階で出てくるかと思っていたのだが。それか最後まで姿を現さないか。


 がい骨。避されるもの。死の象徴でありつつも、かつて生者であった、人であった、ということの象徴でもあるもの。


 人の身から成り果てた悪魔、としてはこれほど相応しいものは無いだろう。


 で、私は何をすればいいのだろうか? 唯、こいつを打ち倒すだけでいいのか?


 あの、"esteem"の台座の先の世界で出された問いの真意も、答えも、見つかってはいないのだから。これまでの旅の全てと、今ここで私が経験していることの中に必ず答えはあるだろういうことは分かるが……。






 金地にピンク色の宝石が埋め込まれた王(かん)を被り、天(びん)の縦支柱を長く長く伸ばしたかのような1メートル70センチ程度の杖を悪魔は持っている。


 少々小柄といったところか。


 ローブのような布を外套マントのように羽織っている。やけに光沢があり滑らかそうなのだが、その色地は砂漠の砂の色そのものであることからして、私の知っている素材でそれに相当するものは無い。


 足元より下、地面に着いてまだ余りあるくらいには長い。


【私は骨の悪魔。これでも女よ。これでも、ね。だから、声は無いわ。】


 がい骨女王もとい、彼女はそう、表示に使われる言葉選びを柔らかく変化させた。






 先に動かせてもらうことにした。いつまでもこんな、多勢に無勢でのにらみ合いなんてしていたくはない。


「では、"女王"とでも呼ばせて貰って構わないかな?」


 私はそう尋ねた。


【ええ。自らの意思で私をそう呼ぶ人間が現れることなんて、もう無いと思っていたのに……。】


 骨の女王は少しうつむいているかのように見える。何やら感傷に浸っているのか? 顔の肉が一切ないせいか、表情は探れない。がい骨に表情など、無いのだから。


「女王よ。感傷に浸っているところ悪いが、貴方の周囲のその、兵らしき者たちについて尋ねても構わないか?」


【その必要は無い。予め、私は貴方に全て説明する契約を結ばされている。それを結ばせたのは貴方ではない、あの天(びん)の上で貴方に視せた夢とも関係は無い。】


 先ほどまでの固く、威厳のある言葉選びに戻った。少々乱暴にも見える。いら立ちのようなものが透けて見える。


 女王が杖を掲げる動作をゆっくりと行おうとしている。


 不味い……。少々、焦り過ぎたか……。

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