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てさぐりあるき  作者: 鯣 肴
第四章第四節 砂砂漠 識別不能な問いと正誤不明の解答
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唯人天秤則 青年錘問 一度垣間見たかのような未開 Ⅰ

 休むことなく、すぐさま、最後の人形、青年期の人形を使い、最後の世界へと飛んだ私は、真っ白な空間というか、部屋というのか、一室だけでできた家のような場所にいた。


 目前に浮かぶ一枚の紙片。


 私はそれを手に取り、目を通す。


【貴方はとある未開の部族の青年。両親との口論の最中である。そこは、貴方の忘れた異国。未開の世界。この紙片を含む資料群を全て読み終え、設定、特に達成条件を把握した上で、外に出ること。そこから貴方の試練は始まる。】


 また、趣向が変わった、か。今度は、設定、背景付きのロールプレイ方式、か。


 すると、周囲からふわりと浮かび上がったシャボンの泡。それは大きいもので、私の身の丈よりも大きい。


 ポチャン、ポチャン、ポチャン、――――、パチィ!


 水滴が水面に落ちるような音とともに、シャボンは割れる。そして、その中から、虹色のもやを出し、周囲に飛散したそれらが、一つの部屋を形作る。


 入口は一つ。幅5メートルの壁の中央に存在する。外は黄金色の光のようにしか見えない。白く塗られた木材で囲まれた、洋風のインテリアの、縦横5メートル、高さ2メートル20センチ程度の部屋。


 天井には、青い光を放つ電球が付けられている。私の肌が青く見えるほど、青明るい。


 部屋の中には黄金色の光は入ってこない。入口である、横50センチ、高さ180センチほどの長方形の開口部。


 部屋の中央には、直径凡そ2メートルほどの巨大な切り株の断面スライスを天板に使ったかのように見える、七本足の、高さ60センチほどの机がある。その中央に置かれた紙に、身を乗り出して手を伸ばす。


 更なる設定が書かれてある。


【両親の説得を行うこと。何についてかは自分で探れ。期限はない。諦めるか、成功するかで終わる。なお、貴方自身が殺されても失敗と看()す。言語は存在するが、文字はない。刃物や銃器での物理的(おど)し、肉体的直接物理攻撃不可。だが、貴方と対()する者たちはそれを振りかざす。何でもやってくる。ここは、どこかの、非文明的であるが、集団的な集落。】


 不穏な内容。そして、壮年期の世界での私のやり口にメタを張ってきたかのように見受けられる。


 とはいえ、手が無いわけでもない。


 子が無い。少し腰かけたいところなのだが。


 部屋の中を見渡すが、子になりそうなものは一切ない。殺風景な部屋だ。これだけ広いにも関わらず。






 とびらがある方向の左端の壁の角。そこにベットがある。どういう訳か洋風。かなり浮いているように見える。


 私はその上に置いてある紙片を拾い上げた。


【この場所はセーフティーエリア。寝ている間だけ。精神体で来れる。時間の流れは貴方が没入する未開世界で流れる、貴方が現実と認識する時間の流れに換算して、その10倍の早さで流れる。貴方は寝ている間、この場所で何をしようが疲労しない。】


【開始まで時間は止まっている。さて、心の準備は済んだだろうか? なお、貴方が黄金の光へ飛び込む、この部屋から出ると、集落のとある場所で目を覚まして、貴方の試練は始まる。】


 どうやら、この青年期が一番の難問らしい。いや、されてしまった、と言うべきか。私にここでの問いに余程正答させたくないらしい。その理由は分からないが。


 これまでの私の行動を基に、私を思うように失敗させたいのだというのが、ひしひしと感じられる。


 ぼかされているかのようで、私が好き勝手にできそうな部分には制約が掛けられている部分など、特にそうだ。まるで、暗示され、刷り込まれ、誘導しようとしているかのようだ。


 なるほど、な。だが、気づいていれば、どうということはない。


 私はにやりと笑った。






 だが、すぐさま疑問に突き当たる。


 なぜ、最初からこうしなかった? この手段を使えば、私に更に制約を掛けられ、何をしようとしても無駄だという状況に陥らせることは容易いのではないのか?


 にも関わらず、こんな環境を用意されたのはこれが初めてだ。


 となると、これらの紙片が、私を混乱させるための策ということか。


 情報を私が直接見て処理してしまえば、これまでの私が上手く攻略した世界と同じことになる。だからこんな手を使った。


 で、この手を使ったのが、この最後の世界だけであることからして、これにはそれなりのデメリットがあると見受けられる。


 でも、使ってきた。なら、ここでの結末は、外でも後の展開に影響するのか? この青年期の世界での結果は、これまでの他の世界の結果よりも大きく天秤に作用するのだろうか?


 どちらにせよ、この世界の悪魔ともやはり、戦うことになりそうだ。相手はこのように、場を作り、勝利条件と敗北条件を定める権利を持ちつつ私に不平等な勝負を挑んでくるに違いないだろう。


 これまでの4つの世界と、この世界。それは、この世界の悪魔にとっての、サンプルだ。私がどのように物事に対処するか、の。


 となれば、多少の出し惜しみ……、いや、そんな余裕はない。せめて、時間は余り与えないようにしなければならない。


 よくよく考えると、私は数多くの策を考え出し用いることができる。それらがあらわになることには問題ない。次を考えればいいだけだからだ。だが、私の思考パターンを解析されるのはいけない。


 一日掛けず、眠ることなく、勝負をつけることとしよう。


 そのためには下準備だ。






 体感で凡そ2時間後。


 私は様々な策を用意しながら、必要なものを想像し形にした。そして、全てを分散し様々な部分に仕込むという完全武装して黄金の光へと飛び込む。


 そして、降り立った世界で最初に気付いたこと。


「あ、あ、青い……。皮()が、青い……」


 私は自身の手を見る。その皮()はどこまでも青々しかった。それがペンキではなく、はだの地色であるということをさとり、然とするのだった。


 あの青い明かり、この為のものだったのか……。


 次に気付いたのは、用意してきた持ち物が消え去っていたこと。


 そして、最後。光の先に待っていたのは、黄金色の開けた何処かではなく、せまい穴倉の中だったということ。私が立ち上がろうとすれば、こしを曲げたままでいる必要があるほどの高さしかない。


 うす暗いはずのそこで私が自身のはだの色を認識できたのは、天井からぶら下げられた黒ずんだ何かでできた皿の上に、光源となるものが乗っているからだ。明かりは植物を燃やしたものであるかのようだが、それは黄色い。けい光系統の黄色。くさい香りはして来ず、少々煙たい。昆虫由来でもなく、動物由来でもなく、植物由来らしい。


 ずい分と独特な場所だ……。


 穴倉は一本道であるようである。とはいえ、先ははっきりと見えない。この辺りにある光源は私のいるこの場所だけらしい。


 私は得体の知れないと感じた天井からぶら下がった黒ずんだしょく台に手を伸ばそうとしたところで、手を止める。


 待て、こんな嫌な事をする前に、試しておくべきことがあった。ここが、()()()()()()()場所なのだとしたら、それは、具象化するかも知れない。


 試すだけなら、デメリットなど無いに等しい。時間もそう掛かりはしないのだから。


 目を閉じ、念じる。強くイメージする。


 松明。太いこん棒並みの棒の先に松(やに)み込んだ布が巻いてある、原始的な灯り。


 ボウッ。


 その音とともに、私の右手に松明の柄が握られていた。


「まさか、できるとは……、はは、ふはは、はははははは、試してみるものだ、はははははははは――――」


 私はうれしくて笑わずにはいられなかった。ファンタジーだ。ここは。文明レベルをどの程度かは分からないが落としたであろう、ファンタジー世界だ。成程、今回の一番の大仕掛けは、これ、か。あの場所から出た途端のはだの色も、消えた荷物も、そこから気をらさせる為のもの。で、あり、よく考え、どう察していれば、気づける可能性が十分にある。


 恐らくだが、各人形の先の世界において、あるバランスのようなものが存在するのだろう。それを崩さず、世界を構築するようにしなければならないなどの制約が。さもないと、こんなことができるような仕組み、存在させておくはずがない。


 この青年期の世界の場合、状況をこれまでのものよりもかなり厳しいものに仕立てたのだろう。方向性は恐らく、困難をすり抜ける抜け道は無く、どの道を行っても、他の人形の先の世界並み、下手をすればそれ以上の苦戦が待っている、という感じだろう。


 だが、それは、私がこの、想像したものの具現化が可能であることに気付かなかったら、の話だろう。


 滑(けい)に、愚かに振る舞う私が見たかったのか? 残念だったな!

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