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絶対攻撃力1  作者: 桜毛利 瑠璃
第一章
9/35

9.最初で最後のチャンス

 竜は、何時まで経っても元の洞窟に戻らない俺に、足踏みをしてイラつきの感情を表していた。


 それは当然だろう、8年間逃げる事しかしなかった侵入者が、逃げないだけでなく、何故か睨み付けてきているのだから。


 俺は、睨み付けている間も【能力閲覧】魔法を使い情報収集を怠らない。


 生命力:1%(瀕死)の状態は変わっていない。なのに、竜の体躯は傷ひとつない健康体に見える。


 この事から推測するに、竜は【疑似修繕】スキルを使っているのだろう。でもあのスキルは、擬似的に治っているように見せかけているだけだ。


 でも擬似的であっても、痛みは無くなるし、動く事も出来る。でも生命力が回復した訳では無い。攻め手はたくさんある。


 これが、想定とは、まったく違うスキルだったら、状況次第だけど、脱出することは諦めて、元の洞窟に逃げるしかない。


 俺の手持ちの武器は、俺命名のミスリルの棒。攻撃に関しては【絶対攻撃力1】スキルで、どんな相手にでもダメージが1固定で与える事が出来る。


 竜さんの生命力が数値表記なら、何回叩けば良いかわかるのだが、残念なことに%表記なので、何回叩けば倒せるかわからない。


 でも残り1%だ。最大生命力が100なら、1回叩けば良い。1,000なら10回だ。もし100,000,000(1億)だったら、1,000,000(百万)回叩かなければならなくなるので、流石に無理だけど、脱出する為にも、やれるところまで頑張るつもりだ。


 無理だったら、俺にも【疑似修繕】スキルがある。修繕しきれなくなる前に撤退すればいい。


 さて、戦いを始めるか。


 イラつきの頂点に達したのか。竜の咆哮が響き渡る。だが、俺には【咆哮耐性】があるので効かない。


 俺は、ミスリルの棒を振り上げてから、攻撃を当てるべく集中して竜の動きを見極める……事もしないで、大声をあげながら、その場で降り下ろした。


「スズメさん達、やっておしまいなし!」


 どっかの御隠居の真似をした瞬間、元の洞窟からスズメが次々に竜の居る部屋に飛び込んできた。そしてスズメ達は竜に取り付くと、そのくちばしでツツき始めた。


 俺の生産したスズメは【絶対攻撃力1】スキルの影響を受けている為、どんな攻撃であっても与ダメージが1入る。3000羽のスズメが1回ずつツツけば、それだけで3000ダメージだ。竜の反撃を受ければ、それだけで消えてしまうことを考えると、単純には行かないと思うが、10回もツツければ10,000ダメージ程は期待できる。


 俺は、ツツきまくられて暴れる竜に、近付ける訳もなく。スズメさん達の戦いを見ている事しか出来なかった。




 スズメさん達が、ツツき始めて3分。この場に立っているのは、竜にとどめを刺したスズメ1羽と俺だけだ。だが、このスズメさんも、今は俺の指に留まっているが、身体が半分透けてしまい今にも消えてしまいそうだ。


 スズメさんが消えてしまう前にと感謝の気持ちを伝えると。『チュン』と嬉しそうに一声鳴いて消えていった。


 スズメさん達は魔力の塊で出来た疑似生物だ。だからエサも要らないし水も要らない。だから世話なんてしてなく。ただ元気に飛び回る姿を見て癒されていただけだ。


 それだけの関係だと思っていたが、竜に挑むなんて無茶な要求にも、健気に戦ってくれたスズメさん、竜の反撃を受けた瞬間に消えたスズメさん、そしてたった今、指の上から消えたスズメさん。


 40歳にもなって不覚にも、目から涙が溢れて止まらない。俺は、かなりの部分をスズメさん達に依存していた事に気付いた。


 ほんとうに、ほんとうに、スズメさん達。今までありがとう。


 そうだ。ここにスズメさんの墓標を建てよう。


 俺は、元の洞窟の出入り口を【石細工術】でふさいだ後、その正面に台座を造りった。そしてその上に【錬金術】で造ったガラスのスズメ像を置いた。


 ガラスのスズメ像は、枝に着地する瞬間を切り取った像だ。俺の中では一番躍動感があると思っている姿である。俺屈指の出来映えに満足していると。



「なんだ? これはどう言うことだ?」


「ふむ。石の防壁に見えるぞ」


「石の防壁? ってことは、ミリィが土魔法で造ったのか?」


「私じゃないよ。土ならまだしも、石を成型するなんて出来ないから」


「チモシーは風しか扱えないし、当然、俺もバロンも出来ない。じゃあ誰だ?」


「ん……モジャ爺?」


 俺のことを覚えていたか。よかった。それじゃあ。名乗りをあげるか。


「わ、わ しじゃ。わ しが、 くったのじゃ」


 しまった。8年間まともに声を出していなかったから、緊張して舌が回らない上に噛んじまった。落ち着け、落ち着くんだ。そして、『私が造ったんだ』と言い直すのだ。


「ん……モジャ爺は賢者?」


「おぉ。そうか。チモシー凄いな。魔神の洞窟に現れた爺さんが、ただの爺さんであるわけないよな。爺さんは賢者だったのか。それなら納得だ」


「お爺さ……じゃなくて、賢者様が助けに着てくれたのですね。先程は失礼しました」


「ぬぅ。魔神の守護竜が倒されている。もしや先程の食ったと言うのは、倒したの隠語だったか」


 あー。もうどうでも良いや。今更訂正した所で意味ないし。誰トクかわからんけど賢者の爺さんのフリして話そう。普通、賢者は自分のことを賢者とは言わないよな。


「カッカッカ。ワシは賢者と呼ばれるほど賢い者ではないぞ。じゃが、この防壁を造って竜にとどめを刺したのは、ワシの力じゃ」


 正確にはスズメさん達だけど、俺の力で有ることには変わりがない。スズメの大群で倒したなんて言ったら正気を疑われそうだ。なので具体的にどうやって倒したかは、8年掛けて準備した秘密兵器を使ったと言って誤魔化した。


「マジかよ。魔神の守護竜を単独撃破なんて、秘密兵器すげー。俺も欲しい」


「モジャ爺……凄い」


「格闘して倒したのではないのか。手合わせ頂きたかったが、残念だ」


「でも、ちょっと待って。竜の死体の欠損部分って、元通りに回復する直前と同じじゃない?」



 気が付いたか、でもこれくらいは開示しても良いだろう。その方が賢者っぽいしな。


 俺は、違うかもしれないがと前置きしてから【疑似修繕】スキルの事を説明した。


「じゃから、お主達の攻撃でダメージを受けすぎた竜は、非常手段をとったに過ぎんのじゃ。魔力を肉体に変換して仮初めに完全回復を装おって。お主達の戦う意思を折ったのじゃ。竜に化かされおって。ワシからすれば、一目で竜が無理していることがわかったんじゃぞ。お主達、戦闘のプロのはすじゃが、まだ修行が足りん様じゃのう」


 自分の事は棚に上げといて、他人に説教をするのも楽しいな。癖になりそうだ。


「【疑似修繕】スキルか。そんなスキルがあるなんて。賢者は物識りだな」


「ぬぅ。魔王を倒して高みに昇れたかと思っていたが、まだ未熟であったか」


「騙された……反省」


「お爺……賢者様、貴重なお話しありがとうございます。でも、非常に聞きづらいことなのですが、魔神の守護竜を倒せたのは……。」


「ミリィ。誰が倒したなんて、そんなことはどうでもいいだろ」


「でも」


「でもじゃない。魔神の守護竜が居なくなれば、たくさんの人が助かるんだから。それで良いじゃないか」


 そうか。この4人には、竜を倒したと言う実績が必要なのか。俺は、空気を読める日本人。竜を倒した名誉ぐらいくれてやる。って言うか、そんな名誉なんてある方がやばい。俺の攻撃力は1固定なんだし、魔王どころか雑魚だって倒せるかわからない。竜殺しの名誉なんて持っていて、いざと言うときに、たとえ雑魚でも退治を期待されたら困るからだ。なので。


「カッカッカ。案ずる必要は無い。ワシは名誉や称号とか、そんな俗世な事に興味は無い。お主達4人で力を合わせて、竜を倒したと報告するがよい。実際、お主達が竜を、瀕死まで追い詰めたのじゃからな。ワシは、それこそとどめを刺しただけじゃ。もし、あの時、お主達が戦意を失わずに、決死の思いで行けたなら、誰かが死んだかもしれないが、勝ったのはお主達だったはずじゃ」


 結果的に説教になってしまったが、たぶん事実だ。4人とも、一言も喋らないところを見ると、それぞれに思うところがあるのだろう。


 今が絶好の機会だ。そう思い。俺は、このタイミングで4人を助けた理由であるメリットを得るための交渉をすることにした。


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