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聖樹にまつわる交響曲  作者: ファル
― fourth Mov. 異空に於ける変奏曲 ―
27/35

d-10

【冷凍睡眠中の全シュティグ住民に異常発生。精神波の著しい乱活性が見られます。走査結果……扁桃体のみが異常活性化。現在の精神安定レベル、AからBへ……光線型精神安定剤、効果無。このまま放置すれば約16分後にレベルEまで降下、精神・肉体間に致命的齟齬が生じます】


《……! 貴方の仕業ですね。今度は如何なる特殊攻撃ですか》

「どうもこうも。俺は夢魔だぜ? その本領を発揮しただけさ ―― 連中にゃ極上の“悪夢”をプレゼントしてやった。止めさせたいなら……お前の大事なマスターを救いたいなら、素直に軍門に降るこったな。俺に従属すると認めて、そいつらを処分しな。言っとくが悩む時間はねぇぞ?」


「テメー……卑怯だぞ!!」

「はは、卑怯・未練は弱者の言い分ってな。貴様も、どうにかしたきゃ自分で死にゃどうだ?」


 その通達からすると、相当に危険な状況と言える。普通なら防衛本能から、悪夢に襲われればまず飛び起きる事で夢から逃れようとするものだが……シュティグの人間には、それが不可能なのだ。無論、時間をかければ冷凍睡眠状態の解除は可能だろうが、機械音声の言からすればそんな猶予は全くない。基本リミットが伝達通りとして、人によっては元来の精神力が弱いかも知れない、一部の人間は更に早く限界を迎え精神崩壊を起こしかねない事態であった。


 怒りと焦燥から歯ぎしりせんばかりのスバノンに、ブルーがかなりの小声で。


「おい、お前確かヘイストさえあれば『あれ』が使えたよな? 今のあいつには剣技も通用する上、『あれ』ならほぼ確実に一発で倒せる筈だ ―― ヘイストも上掛けしてやるから、やってくれ」


「え? って、そりゃやってやれなくはないだろうが……ここで打って出ても、アイツが逆上して更にものすごい悪夢を使い出したらどーするんだっ? 第一、シールドだって不完全なんだろ。お前も暗に俺に死ねっつってるのかコラ!」

「普段ならともかく、今そんな事言うか! 寧ろ逆だ逆。お前なら必ず、あいつが追撃の一手を打つ前にその首が取れる ―― それ位には信用してやってるんだっ。反撃についても、頭が吹っ飛ばされるとかじゃない限り連続アースヒールで絶対死なせない様にしてやる。お前も少しはこっちを信じろ」


「何か、最初の方が引っかかるな……けどよ。まずその作戦はティリアが承知するかどうか、だぞ」


 低音量のやり取りは、やや喧嘩調ながら素早くまとまり。しかしスバノンが、1つ気になると言いたげに電子妖精を見やった。「必ず住民を守り抜かねばならない」―― そう表明していた彼女が果たして、この博打めいた作戦に賛成するだろうか? それはブルーにも懸念事項と言えた。


 その時、ほんの一瞬ではあるがティリアが彼らへ視線を向ける。そして……。


《―― 貴方に従った場合、本当にその精神攻撃を止めてくれるのか否か、証拠を見せて下さい》

「うん?」

《即座に精神攻撃を中断させ得るかの確認も兼ね……まず博士以外の全住民を悪夢より解放して下さい。そうすれば貴方の提案を飲みましょう》


「お、おいティリアっ? あの野郎は信用できねぇぞ、てか何でエルフィンだけ残 ―――― 」

「ちょっと待てスバノンっ」


 慌てて彼女を止めようとするスバノンを、ブルーが制する。そこへ、夢魔もまた結構驚いた様な顔でティリアへと問うてきた。


「へぇ? そりゃまぁ、その交換条件、乗ってやってもいいが……お前はあの博士が一番大事なのかと思ってたが違うのかよ?」

《違いません。私にとっての最優先事項は常に、博士の存在とその意思です。エルフィン博士なら、こうした場合にはきっと、こう言うでしょう ―― 「犠牲になるべきは他の誰でもない、私ひとりで充分です」……と》

「ほほぉ、そりゃ見上げたもんだ。……いいさ、なら他の連中は一旦、夢を止めてやるよ」


 言葉通り感心、と言うよりは嘲笑めいた物言いではあるが、ナイトメアはそう請け合った。そこで再びティリアがブルー達を見 ―― 小さく、だが確実に頷いてみせる。

 その行動に、今度はスバノンにも彼女の真意が掴めたらしい。ティリアはひとまず夢魔に従うふりをして市民を救出し、エルフィンの安全に関しては彼らに託したのだと。


 彼女もまた信じ、賭けたのだ ―― 彼らに……スバノンの“あの技”に。


【“スリーピング・エリア”よりシュティグ管理人・ティリアへ……シュティグ住民へ光線型精神安定剤を再投射 ―― 反応あり。エルフィン博士以外の住民の精神安定レベル降下が停止しました】

「どうだ、これで証拠は十分だろ? じゃ次はお前が ―――― 」


 硬質な声が再度響き、夢魔が偉そうな笑みを見せた、その時。


 ローブ姿へ一気にスバノンが踊りかかる。が、夢魔の反応速度も異様に早く、その手元から数発の光弾が奔り ―― 内一発はスバノンの脇腹を捕えたが、彼は怯む事無く大技を解き放った。

 彼らの世界に剣を扱う者は多いが、その奥義を修得した者は数える程と言う技……パラレルを。

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