d-7
《直ちに全攻撃を中断。自衛システムは待機モードへ移行しなさい》
【了解 ―― 全ての武器を再格納、スタンバイへ……完了しました】
「……どうしたの? ティリア。マスターである私の命令に反抗するなんて」
間髪入れずに指令を飛ばし、ブルー達の窮地を救ったティリアに、白衣の少女が戸惑ったかの声音で訊ねる。が、電子妖精は相変わらずの冷静な声、感情の見えぬ顔で。
《照合開始……シナプス間のシグナル伝達パターン合致率3.5%……網膜パターン合致率0.07% ―― よって、貴方をエルフィン博士とは認められません》
「なっ……?」
《貴方の世界の『成りすまし技術』は、あまりに未熟の様ですね。この世界であれば、100年前の時点で世界的な犯罪組織内では網膜パターンでさえ、ほぼ100%対象者との合致率を誇る“変造手術”を可能としていたのに》
「――……おいブルー。網膜だのなんのって一体、何のこった??」
「普段大ざっぱなくせに、こういう時だけ質問を飛ばしまくるなっ。要は、ここは偽者を見破る技術がやたら発達してる世界って事だ、それで納得しておけ」
およそ無表情なままのティリアの言は、だからこそ相当の嘲笑的発言にも聞こえる。その背後で、珍しく小声で問うスバノンだったが、ブルーもそれ以外返しようが無さそうだ。医療分野に於いても遥かに進んでいるらしいこの世界の知識など、持ってはいないのだから仕方あるまい。
「いかに優れた人工知能でも、その働きが狂う事はある様ね。―― 分室より中央制御室へ、緊急指令。電子妖精本体の一時的なシャットダウンを……」
《生憎ですが、既に全システムの誤認証はリライト済です。唯一にして絶対のシュティグの主・エルフィン博士は今も冷凍睡眠中……私以下、この都市の全システムは最早、貴方を敵として以外認識は致しません。よって、その命に従う事も有り得ません》
いっそ荘厳な声音で言い切るや、「心」を持つと言いながら滅多に表情を変えないティリアの顔に、不意にある色が浮かぶ。かなり明確な ―― 怒りの色が。
《……そもそも、貴方は根本的な所からして解っていない。成りすましの基本は、対象者の癖・思考に至るまで模倣する事でしょうに ―― 本物の博士は決して、私を“部下”等と呼びません》
声だけは静かなままだが……言葉を続けるその右手がそっと、上げられる。そして……。
《博士が、名前以外で私を呼び表す時は必ずこう言うのです ―― my dearest ……“我が親友”と》
その手が振り下ろされるや、つい先程までスバノン達を悩ませた、あの様々な武器が再び周辺に姿を見せた。




