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悪役令嬢、猫になる  作者: 舞原文花
本編
12/16

12マリア・ライジット


 エルバート様に抱えられたまま、闘技場の中央に立つマリアさんを見た時、身体がびくりと反応しました。あの時の恐怖が、まだ心と身体に絡みついているようです。がたがたと震える背中をエルバート様は優しく撫でて下さいました。それだけですうっと震えが止まります。

「にゃあん」

 ありがとうございます。

「行ってくる」

 最後まで気遣わしげにこちらを見ていたエルバート様を見送ります。

「開始!」

 審判さんの合図で、マリアさんは素早く水の魔術を展開しようとされたようですが、それよりも先にエルバート様の魔術が彼女を拘束しました。黒い、蔦のようなものがマリアさんに絡みつき、地面に引き倒します。

 黒い蔦の正体は「魔封じの檻」と呼ばれ、罪人などを拘束する際に使われる、魔法を使えない状態にする拘束魔術です。

 難易度の高い魔術であることと、罪人に使う魔術を使ったことで、会場がざわめきました。

「え、エル?何これ?」

「お前に名を呼ぶことは許していない」

 エルバート様のお声は大変冷たく、どうやら何かに怒っていらっしゃるようです。

「マリアっ」

「大丈夫か!?」

「なんて酷い……」

 ルイフリッド様達三人が会場に飛び降りて来ました。これは違反行為なのですが……。

「エルバート!このような魔術をマリアに使うなど、許されぬぞ!早く解け!」

「はっ、その女にはお誂え向きじゃないか」

「何を……」

 しん、と静まった闘技場の真ん中で、彼はパチンと指を鳴らしました。たったそれだけの動作でいくつもの魔術が展開される気配がありました。そして闘技場の上空に、どの方向からでも見えるよう三角形に、半透明の映像が映し出されます。そこに映っているのは……。

『あーあ、面倒くさいなあ。何で悪役令嬢がいじめて来ないのよ。全部自分でやらなきゃいけないじゃない』

 ぶつぶつとそんなことを呟きながら、自分のノートを破り捨てるマリアさんの姿でした。

 マリアさんの顔がここからでも真っ青になったのが分かります。

『ルイの好感度はこれでよし!全く、かまってちゃんの相手は疲れるわ』

『リックったら、現実だとしつこ過ぎ。まあ一番攻略が簡単なんだけどね』

『フィルのあの暑苦しいの何とかならないかしら。毎回クッキー作らなきゃいけないの?』

『皆顔は良いしお金はあるけど、人間を相手にするって面倒くさいわね』

 大音量でとんでもないことが流れていきます。

「そんな、私と話すのは楽しいと言ってくれたのに……」

「あんなに親身になって相談に乗ってくれたのは私のためではなかったのですか……?」

「俺のためなら苦じゃないって言ったじゃねえか……」

 御三方はそれぞれショックを受けていらっしゃるようです。

 その後も、マリアさんの独り言やわたくしに着せようとした罪を作っている現場が流れ、最後にわたくしが蹴られている様子が映し出されました。

『お前がちゃんと役目を果たさないから!代わりにわたしがやったのに、何でこうなるの!?』

『にゃああ!』

『うるさいっ!お前のせいでっ、わたしがっ、酷い目にっ、合ってるのよ!』

『あんたが変なことするからっ!ちゃんと悪役をしないから!今頃幸せになってたはずなのに!』

『皆から変な目でみられるしっ、王子様たちには会えないしっ!』

『お前なんか、死んでしまえ!』

 マリアさんの恐ろしい形相に、甲高い声。あの時のことが思い出されて、再び身体が震えます。

 こわい。

 尻尾を丸め、耳をぺたんと畳みます。

 その時、映像が終わり、聞き馴染んだ声が響きました。

「マリア・ライジット、お前はサナリア・ケティライトに罪を着せようとした上、強い殺意を持って殺そうとした。ルイフリッド・シドレイズアニア、エリック・ウールフォード、フィリップ・ハーウィールの三人に家柄目的で近づき、堕落させた。これらの罪を問う」

「待ってよ!これは何かの間違いよ。そう……あの女が何か仕組んだのね!お願いエル、目を覚まして!」

 マリアさんは真っ青な顔で必死に言い募ります。

「そ、そうだ、こんなの全部作り物だ!そうだろ!?」

 いち早く、フィリップ様が叫びました。続けて、ルイフリッド様も同調します。

「マリアにこんな汚名を着せようとするなどお前もサナリアも国外追放に処す!」

 ざわり、と動揺が広がりました。

「まだ言うか……。もう一度言うが、お前に俺の名を呼ぶ権利はない。大人しく罪を認めろ」

 対するエルバート様はルイフリッド様達を無視して、どこまでも冷たい対応です。

「何で?こんなのシナリオにはなかったわ!」

「お前の言う『シナリオ』とやらのことは知らん」

「だって、エルバートはわたしのこと……」

「お前のことは嫌いだ」

「っ!何で!」

 マリアさんが声を荒らげました。

「わたしは悪くない!だってわたしはこの世界のヒロインなのよ!?」

 ばっと持ち上げられた顔は狂気に満ちていました。その変わりように、彼女を守ろうとしていたルイフリッド様達が一歩引きます。

 わたくしには言っていることの半分も分かりません。それは皆さん同じようで、困惑したように周りを見渡しています。

「そうだ!この世界はバグってるんだわ!バグは消さなきゃ!」

 きゃははは!

 そんな風に笑った彼女はなんと、強引に魔力を練り始めました。

 魔封じの檻は術に使われた魔力を上回る魔力を使われると壊れてしまいますが、魔力を使おうとすればする程きつく縛り付けてきます。今、彼女は激痛を味わっているはず。

 それなのに彼女は狂ったように笑い続けます。

 そしてついに、ぱきんっと微かに音を立てて、魔封じの檻が壊れてしまいました。エルバート様の魔力を上回るなんて。

 驚く間もなく、彼女は頭上に魔力を圧縮していきました。黒く淀んだ魔力が大量に流れていくのが分かります。最後に、きゅうっと拳大に縮むと、勢いよく腕を振り下ろしました。

 エルバート様に向けて。



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