13エルバートの怒りと真実
__エルバート様は試合に大量の魔力を使っていた。
__だから、エルバート様にはあの、破壊の化身のような攻撃に耐えられない。
時がゆっくりと流れていくような不思議な感覚の中で、サナリアは必死に手足を動かした。
__早く、早く、早く!
頭の中はそればかりが占めて、なかなかそこに辿り着けないことにもどかしさを感じた。
そして……。
__間に合った…………。
エルバートの驚愕の表情を横目に、サナリアは安堵していた。
時の流れが戻る。
強い衝撃。
大きな爆発音と共に砂塵が巻き上がる。
小さくガラスが割れたような音がした。
吹き飛ばされたサナリアをエルバートが受け止めた。
「サナリア!」
「……ぅ」
「サナリア!なんて無茶を!」
エルバートはサナリアが生きていることを確認し、顔を上げた。
エルバートの身体を中心に強い風が吹き、視界を晴らしていく。その視線の先には、魔力を使い切ってへたり込んだマリアがいた。
「お前……ただで済むと思うなよ…………」
怒気を孕んで殊更低くなった声に、マリアの肩がびくりと跳ねた。
「何で……おかしいじゃない……何でヒロインのわたしじゃなくて、その悪役令嬢なのよ!」
やけになって叫ぶマリアに、冷たい視線を向け、エルバートは魔術を展開した。
マリアの周りに黒い炎が現れた。黒い炎は実際には身体を焼かないが、痛みだけを与える。
「いぎゃあああ」
「黙れ」
その一言で、マリアから言葉が失われる。
「あ!ひゅー、ひゅー」
「安心しろ、楽に殺しはしない」
エルバートの顔は笑みを象っていたが、その目には強い怒りが込められていた。
◆◇◆
サナリアは身体を包んでいた魔力が消えていることに気が付いた。
その代わり、ここ最近で馴染んでしまった暖かさが守るように抱きしめている。
「エル、バート、様……?」
意識がふわふわとして、思考が纏まらない。
__わたくし、どうしたの……?
「っサナリア!」
エルバート様の慌てた声にゆっくりと目を開いた。そこにはいつものようにエルバート様の顔があり、サナリアは少し安心した。
ぼうっとしたまま辺りを見回すと少し離れたところで黒い炎に焼かれているマリアと、その周りに倒れているルイフリッド達の姿が目に入った。
「え、え?マリアさん!?」
「おい、動くな」
「エルバート様、あれは……」
「当然の報いだ」
当然?どうして?
「エルバート様が、あんなことを……?だめ、駄目です。そんなこと……」
「あんな奴の心配なんてしなくていい」
エルバートは眉間に皺を寄せてこちらを見下ろした。
サナリアは首を振り、辛そうに息をしながら言った。
「あなたに、そんなこと、して、欲しくない」
「…………はあ、分かった」
エルバートは渋い顔をしていたが、やがて一つ息をつくと折れた。黒い炎が消える。
「ありがとう……」
その言葉を最後に、サナリアは意識を失った。
◆◇◆
次に目を覚ました時、わたくしは寝台の上でした。
見たことのない天井、白を基調とした品の良い家具。
「サナリア?」
身動ぎの音が聞こえたのか、直ぐ側で聞き馴染んだ声がしました。見ると、エルバート様がわたくしの顔を覗き込んでいました。寝台の横にある椅子で本を読んでいらっしゃったようです。
「あ……けほっ」
声を出そうとして失敗し、咳き込みます。
「『水よ』」
いつかと同じようにエルバート様がわたくしの上半身を支え水を飲ませてくれました。
そして気付きます。
「わたくし、元に戻って……!」
信じられない思いで自分の細い手を見つめました。手も、足も、思うように動かせます。
「なぜ……」
「結界の強化のために、変化の魔術に使った魔力を使い切ったんだ」
「結界……?」
こてりと首を傾げます。
「そう。ぼろぼろになってるところを見つけた時は血の気が引いたよ。だから二度とそんなことをさせないために、結界を張った」
「……ありがとうございます」
見知らぬ猫のためにそこまでしてくれていたなんて。とても猫がお好きなんですね。
「礼を言われることじゃない。他ならぬサナリアのためだ」
……何かおかしいわ。エルバート様がわたくしにそんなことを仰るなんて。わたくしのことは嫌っているのだとばかり。
それに、そう、まるで……。
「猫の姿のわたくしが、分かっていらしたみたいな言い方ですね」
「分かってたというか、俺が猫にしたからな」
………………。
「…………えええ!」




