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82話 寂しがり屋な君(side:ジェフリー)



クレイグ侯爵家の三男として生まれた俺は、既にその立場が決まっていた。上に二人も兄がいるので家を継ぐ者、そのスペアがいればクレイグ家としては安泰。では、残った俺は?

あの父親()にとって俺は体のいい駒だ。己の思うままに使えばそれで満足なのだろう。

例え、三男()であっても、家の名に恥じないような成績を常に求められていた。あの男が求める成果を上げなければ、叱責と体罰が容赦なく行われた。例え、その目標が達成できても褒められたこと等は一度もない。年の離れた二人の兄はそんな父親が嫌いで学園を出ると早々に屋敷から出て各々の屋敷を建てて住み始めていた。年に数度しか会わない家族にそれが普通な事だと子どもの頃は思っていた。



ある時、いつの間にか決められていた婚約者に会いに行くことになった。

父親が言うには、政敵であるメイスフィールド公爵の一人娘だと言う。


「この婚約に意味はない。まあ、簡単に言ってしまえば(ルイス)への嫌がらせだな。」


嫌がらせの為だけの婚約と吐き捨てる様に言った父親に幼心に傷ついたりもしたが、今ではあの男ならそれくらいやってしまうだろうなと思ってしまうあたり俺ももうすっかり毒されているのだろう。


最初はその可憐さに一目惚れした。まるで絵本に描かれたお姫様が飛び出してきたのではないかと思ったほどだ。

そして、彼女は周りの大人たちから愛されていた。使用人達の彼女を見る目は優しかった。父親からも愛されて、笑顔で抱き上げられているのを見て俺はその時、衝撃を受けた。


俺は一度として、あの男にそんなことをされた事がない。使用人たちも淡々と仕事をこなすだけで俺を見る目に感情はない。

俺と彼女とは何が違うというのだ。俺は次第にソレを見せつけられる事が苦痛になり婚約者ではあるが自分から会いに行くことはなかった。

何も知らずに過ごしている、お花畑にいるお姫様に吐き気がする。俺の中でヴィクトリアは嫌悪する対象となった。




学園の入学前に、久しぶりにあの父親()に呼び出された。

「お前と同じ学年で入学してくる、クララという少女と仲良くしておけ、後は追って指示を出す。話は以上だ。」

それだけ言うともう話は終わったと再び書類に目を通し始めた男に「わかりました。」と返事をして部屋を出た。


すでに俺は、あいつの元で犯罪と言われるような裏の仕事をしていた。それも仕方がない、この場所が俺の居場所ならばそれを受け入れるしかない。

ただ、このまま一生、奴に使われるのには嫌だ。だが、臆病な俺は道を違えることができない。



入学式で早速そのクララに会ってみた、貴族の子女達のように取り澄ましたような表情を見せずに、正に天真爛漫といったような少女だった。

次第に親しくなり、どうやらクララの狙いがアルフレド殿下だということに気づいた。


しかし……。


ある時、生徒会室でクララと二人だけになる時間があった。俺は少し気になっていることをクララに聞いてみる事にした。


「君は本当にアルフレッド殿下の事が好きなの?」


「好きよ?なんでそんなこと聞くの?」


首を傾げて不思議そうにクララは俺に逆に聞いてきた。


「君を見ていると()()()()()()()()()と思っているみたいだから」


「不思議なこと言うのね。……そうね、アルフレッドが私を好きって言ってくれたら嬉しいわね。それだけ幸せに近づけるもの。」


「幸せに?」


「私は幸せになりたい。ただそれだけなの。」


幸せになりたいか……。何とも子供じみた願いではないか。


「君の言う幸せっていうのは誰かに愛される事?」


「そう!だってその人だけは私のこと見てくれるでしょ?そうしたらもう寂しい思いはしなくていいもの。…もう一人は嫌なの。」


寂しそうに瞳で俺を見ているクララは、道に迷った子供の様だった。


「君は一人じゃないだろう?アルフレッド殿下だって俺達だっているぞ。」


「そうね!だから私はみんなが大好きなの!!」


ああ、君は本当に寂しがり屋なんだね。

君と俺は似ているよ。

俺はもうすっかり泥に浸かって身動きが取れないけど、君が願う「幸せになる」という夢を叶えてあげる。



その為なら俺は…。





あの男は、この計画が失敗に終わるようだったら、その時は聖女(クララ)を始末しろと言った。しかし、俺はそれを実行することはない。

だが、完璧主義者のあの男はたぶんクララと一緒に俺の始末もするはずだ。

失敗した駒はいらない。そう考える奴だ。


ジェフリーは、いきなり拘束していた騎士達を跳ねのけてクララの元へと走り寄った。


“バシュッ!!”


それと同時に木の陰から矢が飛んできてジェフリーの背中に刺さる。

クララが気づいたときには、ジェフリーが背に矢を受けて倒れ込む瞬間だった。


「ジェフリー!!なんでっ!?」


「はは、どうせ俺は終わりだ。最後に君だけは守りたかった。」


「どうしてっ…!」


アレクの素早い指示で木の陰にいた暗殺者が捕らえられたが、既に服毒してこと切れていた。

ヴィクトリアはクララとジェフリーの元へと駆けつけた。


「ヴィクトリア、クララは今回の件は何も知らなかったんだ。奴らに…利用されていただけなんだ。すべては俺の父とザカリー大公がしたことだ。どうかクララには咎がいかないようにしてくれ、頼む…。」


近くまできたヴィクトリアにジェフリーが苦しそうな息で伝える。


「ジェフリー、しゃべっちゃダメ!私が今、治すから!!」


クララが手を翳して癒しの魔法を使い始めた。


「いや、いいんだ。お前はスタンピード(さっき)でだいぶ魔力を消費しただろ?もういいんだよ。」


「いやよっ!あなたがいなくなったら私はまた一人ぼっちになっちゃうじゃない!!」


クララがジェフリーの手を握りしめて訴える。


「そうはなら・・・ないと、思うぞ‥そこに一番のお節介な奴がいるから‥な。ヴィクトリア、こいつは・・・寂しがり屋な奴なんだ、だから、お前が相手してやってくれ…頼む。……今まですまなかったな…。」


ジェフリーの手がクララの手をすり抜けて地面へと落ちた。


「いやああああ!!!」


そして、クララの慟哭が辺り一面に響き渡った。




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