4.忘れられる人達
本編で出番のない彼ら。
「そこでボクは言ってやったのさ。『キミの脳は煮干しかい?』ってね」
「煮干しってのは斬新だな」
すさまじくどうでもいい会話をしつつ学校に向かう。今、校舎が見えてきたところだ。僕達以外の生徒もちらほら見える。
「そしたら、なんて言ったと思う?」
「想像できんな」
「『違う。オレの脳は鰹節さ』だってさ。笑っちゃうだろう?」
「ボケとして駄々スベリな上に干物の『干』の字すら付かなくなったな」
うむ、会話がシュールだ。なんか柚はアメリカンなノリだし、槙はいつもと変わらないテンションで返している。シュールだ。
「あ、樂。5秒後に左に3歩な」
「ん?ああ、うん」
今日も来るのか……。どうして僕達を見かける度に突っ掛かって来るんだろう?
背後から地面を蹴る音が聞こえる。聴いただけでもかなり速いのが分かる。おっと、そろそろ5秒か。
「――どーーーーーーーーーーーーーーーん!!!…………ちょっと、二人とも避けないでよ!」
「嫌だよ!喰らったら絶対痛いじゃん!」
「俺としては何故突撃してくるのかを小一時間問い詰めたい」
「それは勘弁!」
朝の挨拶もなく、突然参戦する彼女。それと、その後から歩いて追ってくるもう一人。
朝霧姉妹の参上だ。
「いつも思うんだけどさ、なんで毎回避けんの?後頭部に目でも付いてる?」
「な訳あるかよ」
「僕達には心眼があるのさ」
「ああ、見えるか見えないかの差なんだ」
「樂も適当な事抜かしてんじゃねーよ」
ハッタリは大事だよ?
「まぁ良いや。じゃ、あたし行くわ。二人ともじゃーねー。柚香もー」
「おい椛置いてってる!」
「……行っちゃったね」
楓がダッシュで去って行った後を、椛ちゃんが小さくおじぎをしてから小走りで追いかけていった。
「振り回されてんなぁ……」
「仲が良いのは良い事だろう」
「あれじゃどっちが姉なのか分からないね」
「そこまで言ってやるなよ」
僕は事実だと思うけどなぁ。
「それと紅季。いつまでも後ろに立ってられると不気味」
「あ、やっぱりバレてた」
「うわぁいつの間に!?」
背後にいつの間にか紅季がいた。心臓に悪いったらありゃしない。
「無駄に気配消して近づくなよ」
「脅かそうと思って」
「いや僕はともかく、槙には効かないよ」
「分かってるけどさ」
それじゃ、ターゲットは僕なの?タチ悪いね!
「じゃ、俺行くから」
「お前もかよ忙しないな」
「まだ課題終わってないんだ」
「提出期限は?」
「今日の10時」
「…………」
「……行って良いよな?」
「もとより止めはせん」
紅季がそれなりな速さで走っていった。
でも課題ってどれ?レポートだとしたらかなり厳しいと思うけど。
「みんな大変そうだね」
「僕でさえ終わってるのに」
「そうだな、深夜の2時まで起きてやってたもんな。切羽詰まってんな」
「槙それ言っちゃ台無し」
「そうだよ?せっかく樂がキメようとしてるのに」
「別にキメようとしてる訳じゃ」
「はいはい、もう樂がキメようとしてるって事で良いから元の話題に戻そう」
「なんでそっちの方にまとめようとするの!?」
「気分」
「ひどい!」
「にゃん」
これまた突然会話に交ざる、誰かの声。いや、もう丸わかりだけど。
「おう猫、おはよう」
「にゃっ」
いつの間にか、白い子猫が槙の左肩に乗っかっていた。どうしてこう、皆して神出鬼没なのだろう。
「ふふふふふ、おはよう猫ちゃん」
「フウウウゥゥゥゥ!!」
柚が白猫を触ろうとして威嚇された。思いっきり威嚇された。僕もついでに威嚇されてる。なんで僕まで?
この猫、槙以外にはとんと懐かない。僕や柚なんかはほぼ毎日顔を合わせてるはずなのに、何故か触らせてくれない。触ろうとすると今のように威嚇するのだ。
「はいはいお前ら落ち着け。柚、そろそろ諦めろ。猫、あんまり威嚇してやるな」
「諦めろだって?このボクに?どうしてかな?」
「俺が猫を独占したいからだ」
「もう槙一色に染まってるよどう見ても」
「重ね塗りはできるかな」
「俺がさせねぇ」
槙も白猫を可愛く思っているようで、猫には妙に甘い。猫はそれを知ってか知らずか、槙にべったりくっついている。これが影響して、槙のあだ名があったりする。
「ボクは諦めないさ……絶対に……!」
「校舎着くぞ」
槙が話を切り上げた。
また微妙なところで切れますねぇ……