球技大会・決勝戦
1回の表
正確無比なコントロールが売りの宮田さんの球だったんだけど、
3年生たちにとっては、とても打ちやすい「速度」だったみたいで、ガンガン打たれていた。
球は、ほとんど、外野に飛んでいたが、私の方には飛んで来なかった。
打者一巡の猛攻を受け、1回だけで、4点取られた。
うちには、宮田さん以外のピッチャーがいなかったので、ここまで一人で連投してきた。
その上に、この猛攻を受け、宮田さんから、かなり疲労の色が伝わってきた。
相手チームの「超高校級」の人は、
体の大きさを活かして、宮田さんとはくらべものにならないくらい速い球を投げてくる。
しかも、その球と殆ど同じ速度で、同じ軌道で飛んできて、手元で急変化する変化球も持っている。
うちのチームは「超高校級」の人の球を攻略出来ずにいた。
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1回の裏
3者凡退に終わった。バットに当てる事すら出来なかった。
宮田さんが、休む間もなかった。
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2回の表
宮田さんが踏ん張ったが、3点取られた。
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2回の裏
3者凡退に終わった。今回も、バットに当てる事が出来ない。
今回も、宮田さんが、休む間もなかった。
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3回の表
宮田さんが踏ん張ったが、3点取られた。
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3回の裏
9番打者である私の打順が近づいてきた。
グリモアのおかげで「超高校級」の人の球の事は知っていた。
「グリモア」の物語で主人公に教えてもらったのだけど…。
実を言うと、この「超高校級」の人が投げる球は、
ど真ん中(九分割のど真ん中)か、それ以外のどちらかしかない。
宮田さんのように、ストライクゾーンの中で、コースを投げ分けるテクニックは、持っていないらしい。
けれど、この人は、不思議なクセがある。
投げる時に、お尻がピコって動いたら、必ずど真ん中にストレートが飛んでくる。
しかも、ピコって動いたのを見てすぐに、
ど真ん中に飛んでくる前提で、バットを振れば、タイミングどんぴしゃで当たるのだ。
お尻がピコって動かなかったら、変化球だ。でも、全部ボールになる。だから、振らなくていい。
ネクストバッターサークルで見ていて、怖いくらいものすごい速い球だった。
けれど「グリモア」の物語の通り、
ピッチャーのお尻がピコって動く仕草を見てて、なんだか吹き出しそうになって、怖さも吹き飛んだ。
そして、私の打順が回ってきた。
1球目は「お尻」が動かなかったので、バットを振らない。ボールになった。
2球目は「お尻」がピコって動いたので、すぐバットを振った。
タイミングがピッタリあって、ボールがすごい遠くまで飛んでいった。
でも、球が速すぎて、ちょっと手が痛かった。
一生けん命走っていたら、ボールは、スタンドまで飛んでいき、ホームランになっていた。
ホームベースを踏んだ後、
次に打つ人に、次、1回も振らないで…と伝え、ベンチに戻った。
ベンチに戻ると、どうやって打ったの?って、聞かれたので、
「グリモア」の物語で主人公に教えてもらった通りの事を話した。
「お尻」がピコって動くと言っても、一瞬の出来事で、相応の動体視力がないとわからないみたい。
宮田さんと、名塚さんには、それが伝わったけど、他の人には、何の事?…みたいな顔をされた。
「ホントだ。」
「うわっ、すごいピクッとしてる。」
宮田さんと名塚さんの二人は「超高校級」の人が投げるのをみて、大笑いしていた。
「超高校級」の人は、自分が笑われている事に気づき、気を悪くしたようだけど、
二人がなぜ笑っているかまでは、気づかなかったようだ。
「ピクッて動いた。あ…ホントにど真ん中だ。」
「今度は動かない。あ…ホントにボールじゃん。」
そして、私の次のバッターは、1回も振らないでいてくれて、ファーボールで進塁。
次のバッターには、全部ど真ん中のストレートだったが、バットに当てる事が出来ずに三振。
でも、その間に、宮田さんと名塚さんの二人は、「超高校級」の人のクセを理解するに至ったようだ。
だけど…。
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4回の表
1塁、2塁が埋まったところで、
宮田さんが、強烈なピッチャーライナーを受け、立つことさえ出来なくなった。
なんとか点は取られなかったものの、ノーアウト満塁のピンチだ。
うちのチームには、ピッチャーやった事がある人は宮田さんしかいない…。
名塚さんと、保険委員の子が、宮田さんを校医さんのところに連れて行く間、試合は一時中断。
宮田さんを預けて戻ってきた名塚さん。宮田さんの続投は無理そうだとの事。
そして、私に宮田さんからの伝言があるという。
「負けていいから、明石さんに投げて欲しいって言ってたけど、どうする?」
「それじゃあ、やるだけ、やってみます。」
こうなる事はわかっていた。
だけど「コミ障」の私には、それを伝える事が出来なかった。
伝えていれば、宮田さんが、ケガしないで済んだかもしれない。
だから、正直、罪の意識みたいなのを感じている。
それに、投げ方も「グリモア」の物語で主人公から教わってるから、なんとなく出来るような気がした。
打順は「超高校級」のすごい人からだったけど、投げてみたら、とても気持ち良かった。
私の投げた球は、ゆっくりと弧を描いて打者に向かっていき、ストライクゾーンに収まった。
だけど、みんな、面白いように、空振りする。
私の球が遅すぎるから、カンタンに打てそうだと思ってしまう。
けれど、不思議な変化をしている為に、バットに当たらないようだ。
ストライクゾーンに収まったとはいえ、
どう変化するかわからない動きをしてくる球を、名塚さんが、完璧に捕球してくれた。
もちろん、確実に捕球してくれる事は「グリモア」で、わかってた事だけど、
その様子を実際に見て、改めてすごい子だな…って思った。
ちなみに、名塚さんは、ソフトをはじめた頃から、キャッチャーやってたらしい。
こうして、ここから3人、3球三振に抑えた。結局、4回の表は、はじめて、0点で終える事が出来た。
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4回の裏
名塚さんが、相手ピッチャーの「お尻」が動くクセを活かし、ホームランにするも、その1点止まりに終わった。
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5回の表
私が、3人を、3球三振に抑えたが、5回の裏、うちのチームは得点する事が出来なかった。
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結局、5回を終え、10対2の大差になった。
5回以降7点差以上ならコールドという規定があるとかで、うちのチームの負けが確定した。
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だけど…
宮田さんの代わりで努めなくて済んでホッとしてた子が多かった事、
「超高校級」の人からホームランを打った事、
「超高校級」の人を含め6人連続3球三振を取れた事、
などなど、うちのチームは、皆、勝ったような満足顔だ。
ただ、宮田さんのケガの様子が心配なので、盛り上がるほど、喜べてはいない…。
これに対して、相手チームは、優勝したのに、なんだか、悔しそう。
特に、ソフトボール部でレギュラーやってるという6人が…。
って…あれ?、この6人って、全員、私が3球三振を取った6人じゃ…。
そりゃあ、私みたいに、名前も聞いた事ないド素人に抑えられたら、スッキリしないよね。




